第三章 美術館

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「逸崎」 「おわっ!」  いつものようにPCの前を陣取っていた逸崎がキリヤの声に驚いて、椅子から落ちそうになる。  二人はその様子を見て、思わず苦笑する。  美乃華はソファの方へ。  キリヤは黒刀をソファの方に置くと、診察用のベッドへ。  逸崎はふうっと息を吐くと、準備を始め、カーテンを引く。  それが分かると、キリヤはローブとワイシャツを脱いで、革手袋を外す。  近くのカゴに放り込むと、ベッドに横になった。 「お前、傷が治っていないのに、オーダーを受けたな?」  傷を見るなり、不機嫌そうに逸崎が言った。 「ああ」  キリヤはあっさりと認めた。  前回のオーダーのときに負った傷からは、包帯に鮮血がついている。  今回負った傷は、左二の腕、右腕、腹に二か所。  どれも、だらだらと鮮血を流している。 「ったく、美乃華ちゃんには伝えておくぞ。この馬鹿」  逸崎は呆れながら言った。 「構わん」  キリヤはぼそっと言った。  逸崎はまず、ぴったりした手袋を嵌めて、使い物にならなくなった包帯を外して、ガーゼを腹に当てた。  鮮血ですぐに真っ赤になったが、構わず包帯を巻いていく。 「どっちも深い傷だな、おい」 「細くて傷が深い方は、美乃華を庇ったときに受けたものだ」 「珍しいな、お前が他人を庇うなんて」 「俺だって庇うくらいのことはするさ」  キリヤは苦笑する。  左手の方は、古い包帯を外し、新しいガーゼを当て、包帯を巻いた。  左二の腕にはガーゼを巻きつけて、包帯を巻いた。右腕も同じようにする。 「飲んでいくか?」 「ああ、一人分、もらえるか?」  逸崎はうなずき、細長い銀の容器に輸血パックの血をすべて移すと、キリヤに渡した。  キリヤはすでに身体を起こしており、それを受け取ると、ゆっくりと飲み始めた。  逸崎はその間、手早く片づけを済ませると、美乃華のところへ顔を出した。
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