第三章 美術館

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「どうしたんです?」  姿を見せた逸崎に、美乃華が尋ねた。  逸崎はソファに座ると、口を開いた。 「あの馬鹿、傷が治っていないのに、オーダーを受けた」 「なんですって!?」  美乃華が思わず叫んだ。 「深い傷ばかりだ。どうしたらああなる?」  美乃華は見たまま、すべてを話して聞かせた。 「庇うにしても、自分の身体を楯にする以外に方法はあるだろうに。なんで一番危険な真似をしたんだ?」  逸崎は途中から話を聞いていたキリヤに視線を向けた。 「状況からして、そうする以外に美乃華を守れなかっただけだ。それくらいの傷を負ったところで、俺は死なん」 「だからって、お前は怪我をしすぎなんだよ! それに……」  逸崎はそう怒鳴り、キリヤに詰め寄った。 「美乃華ちゃんにはヴァンパイアであることを伝えてあるのか?」  逸崎が小声で聞いてきた。  キリヤはうなずく。 「ずいぶん前に」 「なんでそれを、早く言わないんだよ!」  バシッと肩を叩く逸崎。  キリヤは無言で叩かれた肩を擦る。 「ヴァンパイアと言ったって、死なないわけじゃないだろ?」 「まあな」  キリヤはあっさりと認めた。  美乃華の顔がさっと曇る。 「そんな顔をするな、俺は大丈夫だ」 「はい……」  美乃華はうなずくものの、表情は変わらなかった。 「逸崎、じゃあな」  キリヤはそう言って、黒刀を一本持って出ていってしまった。 「待ってください! ……って、いっちゃった。逸崎さん、失礼します」  美乃華はその後を、慌てて黒刀を持って追い駆けた。 「慌ただしいな、ったく」  一人になった逸崎は、ぼそっと呟くと仕事に戻った。 「キリヤさん?」  車に慌てて乗り込んだ美乃華が尋ねた。 「ん?」  キリヤは左手をハンドルの上に置きながら、声を出した。 「大丈夫ですか?」 「ああ」  キリヤの返事はそっけない。 「ゆっくり休んでくださいね、私からのお願いです」  キリヤは息を吐く。  お願いと言われると、うなずきそうになってしまう。弱いのだ。 「……ああ」  キリヤは低い声でうなずいた。  その言葉にほっとする美乃華だった。  しばらくすると、廃工場へと車が到着した。
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