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「どうしたんです?」
姿を見せた逸崎に、美乃華が尋ねた。
逸崎はソファに座ると、口を開いた。
「あの馬鹿、傷が治っていないのに、オーダーを受けた」
「なんですって!?」
美乃華が思わず叫んだ。
「深い傷ばかりだ。どうしたらああなる?」
美乃華は見たまま、すべてを話して聞かせた。
「庇うにしても、自分の身体を楯にする以外に方法はあるだろうに。なんで一番危険な真似をしたんだ?」
逸崎は途中から話を聞いていたキリヤに視線を向けた。
「状況からして、そうする以外に美乃華を守れなかっただけだ。それくらいの傷を負ったところで、俺は死なん」
「だからって、お前は怪我をしすぎなんだよ! それに……」
逸崎はそう怒鳴り、キリヤに詰め寄った。
「美乃華ちゃんにはヴァンパイアであることを伝えてあるのか?」
逸崎が小声で聞いてきた。
キリヤはうなずく。
「ずいぶん前に」
「なんでそれを、早く言わないんだよ!」
バシッと肩を叩く逸崎。
キリヤは無言で叩かれた肩を擦る。
「ヴァンパイアと言ったって、死なないわけじゃないだろ?」
「まあな」
キリヤはあっさりと認めた。
美乃華の顔がさっと曇る。
「そんな顔をするな、俺は大丈夫だ」
「はい……」
美乃華はうなずくものの、表情は変わらなかった。
「逸崎、じゃあな」
キリヤはそう言って、黒刀を一本持って出ていってしまった。
「待ってください! ……って、いっちゃった。逸崎さん、失礼します」
美乃華はその後を、慌てて黒刀を持って追い駆けた。
「慌ただしいな、ったく」
一人になった逸崎は、ぼそっと呟くと仕事に戻った。
「キリヤさん?」
車に慌てて乗り込んだ美乃華が尋ねた。
「ん?」
キリヤは左手をハンドルの上に置きながら、声を出した。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
キリヤの返事はそっけない。
「ゆっくり休んでくださいね、私からのお願いです」
キリヤは息を吐く。
お願いと言われると、うなずきそうになってしまう。弱いのだ。
「……ああ」
キリヤは低い声でうなずいた。
その言葉にほっとする美乃華だった。
しばらくすると、廃工場へと車が到着した。
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