28人が本棚に入れています
本棚に追加
第四章 美乃華の言い分
廃工場に着いた二人は着替えを終えて、リビングにいた。
キリヤは黒のワイシャツのボタンを留めるのが面倒だったのか、羽織った状態でソファに座っている。
美乃華はキッチンにおり、なにやら準備をしている。
「珈琲、飲みます?」
「いや、飲まん」
「分かりました」
美乃華はうなずくと、近づいてきてキリヤの右隣に座った。
キリヤは美乃華の肩を抱き寄せる。
美乃華は驚いた様子だったが、されるがまま。
「どうして、嘘を吐いたんですか?」
「心配させたくなかったからだ。オーダーがくる度に、心配しているだろう?」
その声はあくまでも静かだった。
「それは、そうですよ。怪我しちゃうし、深手ですし」
美乃華は不満げに言った。
「俺からすれば、掠り傷なんだがな」
「どこがですか!?」
美乃華が身体を起こして叫んだ。
「私のことを、身体を張ってまで、守ってくれたことは、ありがとうございます。ですが、痛みを隠して強がらないでください。まあ、あのときは、敵の前でしたから、仕方がないにしても。私といるときくらいは、それを隠さないでください」
「バレていたのか……」
キリヤは呟くと顔をしかめる。
「起きていた方が楽ですか?」
「寝た方が楽だ」
キリヤは呟くように言うと、クッションを退かして、ソファに横になった。
「おいで」
優しく言うと、美乃華が身体を寄せてくる。
右手で頭を撫でてやりながら、キリヤが言った。
「腹と左手の痛みが酷い。大人しくしていれば、じきに塞がると思うが」
「無茶をするからいけないんですよ」
最初のコメントを投稿しよう!