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「怖いものは、怖いんだ」
キリヤはそう言い、そっぽを向く。
「そんなこと言ったら、私だって怖いです。キリヤさんが独りで、どこかにいってしまうんじゃないか。独りで眠れない夜を過ごしているんじゃないか。過去に苦しんでいるんじゃないかって」
美乃華はそっぽを向いたキリヤの頬に手を伸ばし、視線を合わせて言った。
その双眸には真剣さが宿っていた。
「美乃華……」
「怖いのはお互い様です。でも、二人でその怖さを和らげるようにしたいと思っています。だから、怖くてどうしようもなくなるくらいなら、それを言ってください。それが嫌なら、伝えてください」
「俺は今みたいに、美乃華が近くにいても、どこか別の遠い場所にいるのではないかという、不安に駆られる。ちゃんとここにいるのに、それを信じることができないんだ。いつか、俺から離れていくかもしれないと思うと、怖くて……たまらなくなる。ようやく楽に息ができるようになったのに、それがなくなるかもしれないという恐怖で、動けなくなる。今よりも辛い場所に戻りたくないという、欲が出てきたのかもしれない」
「大丈夫です。私はあなたの近くにいます。……欲じゃなくて、願いなんじゃないですか?」
美乃華はキリヤをぎゅうっと抱きしめた。
同じくらいの力で、キリヤも抱きしめ返す。
「……そうかもしれないな」
キリヤはぽつりと呟いた。
テーブルの上に置いてあるキリヤのスマートフォンが震える。
それには気づかず、二人は寂しさを埋め合わせるかのように、身を寄せ合った。
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