第一章 結婚詐欺師

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第一章 結婚詐欺師

 それから二時間後、ソファで眠ってしまった美乃華の頬をそっと撫でると、キリヤは立ち上がる。  スマートフォンを手にして、メールを確認する。  スマートフォンに表示される時間から、日がかたむき始めるころだと思ったキリヤは、美乃華に薄手のブランケットをかける。  ――今回は、独りでいくか。  キリヤはそう思うと、自室に戻り、メモ用紙とペンを持ってきて、なにかを書きつける。  その後、全身を覆うほど丈の長い黒のローブを羽織り、同色の革手袋を嵌める。手には二本の黒刀を手にした。指には車の鍵を引っかける。  自室を出て、紙をリビングのテーブルの上に置いた。 【オーダーをこなしてくる。ゆっくり休んでくれ。 キリヤ】  紙には達筆な字でそう書かれていた。  キリヤは美乃華が起きないことを確認すると、静かに廃工場を後にした。  キリヤは運転しながら、オーダーの内容を思い返していた。 【ターゲット 結婚詐欺師 ()(つる) 女達に結婚する直前まで金を貢がせて、跡形もなく消える。女達の幸せを金で(もてあそ)ぶような男。報酬は男が集めた二千万円】  ――独りで集めたにしては高額な方かもしれないな。  そう思いながら、キリヤは車を走らせた。  しばらくして、辿り着いたのは大きな邸宅。  キリヤは車を敷地内の駐車場に堂々と停めると、車から降りて黒刀をそれぞれ両腰に帯びた。  チャイムも鳴らさずに、ピンで鍵を開けて邸宅の中へと侵入する。  リビングには二人の男女が仲睦まじそうに話していた。  キリヤは大きな溜息を吐くと、声を出した。 「そこの女、さっさと帰ってくれ。……死にたくなければ」 「誰だ、お前は!」
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