第一章 結婚詐欺師

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 キリヤは黒刀についた鮮血をなんとも思わずに、構える。 「おらっ!」  三鶴は言いながら左手で包丁をつかむと、突き出してきた。  キリヤは(かわ)すことなく、それを腹に受ける。  口端から鮮血が零れ落ちるも、キリヤは気にしなかった。 「こ、これなら……!」 「その程度か」  キリヤは冷ややかに呟くと、包丁を無造作に抜いた。  三鶴の勝機に満ちた顔が、それだけで絶望に変わっていく。  キリヤは口端から鮮血が流れていることを分かった上で、拭いもせずに、冷たい笑みを浮かべた。 「なんでだよ!」  三鶴は顔を強張らせる。  恐ろしいのだろう。怪我をしているのに、冷ややかな笑みを浮かべているのだから。  キリヤはそんな三鶴の表情を見て、飽きたなと思いつつ、睨みを利かす。 「ひっ!」  まるで蛇に睨まれた蛙だ。  三鶴の顔は青ざめている。 「もう、戦う気など失せただろう? 金庫は……あれか」  キリヤは言いながら、周囲に視線を走らせて金庫を見つける。  それを一瞥すると、三鶴に視線を戻す。  三鶴の瞳にはもう戦意はなく、恐怖のみが宿っていた。 「もう、騙したりしないから! ……殺さないでくれ!」 「そんな、生きたいがための言葉、信用できるわけがないだろう」  キリヤが地を這うような低い声で、怒気をあらわにする。  三鶴の顔から血の気が失せた。 「た、頼む! 金も全部持っていっていいから、どうか、命だけはっ!」  三鶴は言いながら、その場に土下座した。  キリヤは盛大な溜息を吐く。 「頭を上げろ」 「え? ひょっとして見逃してくれる?」 「そんなわけがないだろう、馬鹿が」  キリヤは三鶴の言葉を冷ややかに否定した。 「え~」
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