第一章 結婚詐欺師

5/8
前へ
/155ページ
次へ
【オーダー完了 生存者なし】  キリヤは短いメールを送信すると、ラボに向かって車を走らせた。  それからしばらくして、古いラボに到着したキリヤは、黒刀を両手に持って、鍵を指に引っかける。  車をそのままにラボの中へと入っていった。  ラボに入ったキリヤは、周囲に視線を走らせる。  入って右側の奥には、診察用のベッドと、そこを仕切るためのカーテンが見える。窓はない。  その反対側には、客でもくるのか、テーブルがひとつとソファが二脚置かれている。  キリヤは視線を正面に戻す。  その先には擦り切れた白衣を身に纏った一人の男が、PCの前を陣取り、なにごとかを呟いている。 「逸崎(いつざき)」 「おわっ! なんだ、お前か」  キリヤは少々声を張っただけなのだが、呼ばれた男――逸崎は、文字通り飛び上がった。  キリヤは溜息を吐いた。 「ったく……」  集中し過ぎて周りが見えなくなると分かっていても、逸崎はいつまで経っても過剰に驚いている。 「怪我したんだろ。さっさとこい」  逸崎は普段通りに言いながら、診察用のベッドを指さした。  キリヤは相変わらずだと思いながら、ベッドに近づく。  逸崎がカーテンを引いた。  その後、黒のローブとワイシャツを脱ぎ、革手袋も外して、近くに置いてあったカゴに放り込んだ。  蛍光灯の光に照らされてあらわになったのは、キリヤの傷痕だらけの引き締まった身体だった。左脇腹から、鮮血がどくどくと溢れ出している。  ――何度見ても、酷い身体だ。独りで抱え込みすぎなんだよ。馬鹿野郎。  逸崎は内心でそう思うものの、口には出さない。  ベッドの上に寝たキリヤを一瞥し、包帯とガーゼを用意する。  ぴったりした手袋を嵌めて、ガーゼを当てて、慣れた手つきで包帯を巻きつける。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加