隕世復元師

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「5000ディルは支給されたし、アイシャは、()ててこようって。 誘拐された事にすれば、家出とは違うのだから 毎月の分も、しばらくは、貰えるはずだろうって…」 消え入りそうな声で一言ずつ(こぼ)すアイシャ。 「ロスリージア辺りへ行って、置いてくれば 独りで帰って来る事は、出来ないだろうって…」 「ロスリージア?こことは全く違う方向だぞ?」 コクリと小さく頷き、今日の出来事を順番に整理しながら 一心に伝えようとする少女に、男も真摯(しんし)な眼差しを向ける。 「そこが何処かは知らないけど、そう話してたのを聞いたから だから今朝早く、まだ外が暗い内に、家を出て駅に向かったの。 何処へ行けば良いのか全然判らなかったけど、でも それでも、先に何処かへ逃げなきゃって…そう思って…。 そして乗れそうな機関車に乗ったのだけど、途中で寝てしまって 気が付いたら、ここが、最後の駅で…」 「乗る前に呼び止められたりしなかったのか?」 「駅に着いた時、知らないおじさんとおばさんが 私よりもちょっと小さな子供達を4,5人連れていて。 だから、そのすぐ後ろにピッタリ付いていったの。 きっと同じ家の子供だと思ってもらえたんだと思う。 誰にも、何も言われずに通れたから…」 「なるほどな。それでこの街の駅まで来れたと。 ここは無人だから降りる時に声を掛ける人も居なかったわけか」 「道も何も判らないまま、ただ歩いてきたけれど ここが何処であっても、何処でもいい。あの家に戻るよりは…」 顔色も息遣いも、殊更(ことさら)に嘘を並べている様子には感じられず ひとまず納得がいったという風に腕組みを解いたグレインは窓辺に寄る。 察するに、国の補助金目当てで引き取られた孤児なのだろう。 一定の期間経過で得られる学費などのまとまった金額を受け取ったため 用済みになったと。地域によっては観察員が滅多に訪れない事もあり そういった不正受給の問題は何かしらで聞き覚えのあるケースではあった。 窓の外ではいつの間にか陽は沈み、(ちり)で濁った(けし)紫色の空が 月の姿さえも隠して辺り一面を塗り変え始めている。
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