隕世復元師

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「起きたか。そろそろ行くぞ」 アイシャが目を覚ますと、周囲は既に明るくなっていた。 一瞬ここは何処かといったように慌てて左右を見回し あのままぐっすり眠っていたのだという事に気が付く。 「おはよう…何処へ行くの?」 「ゆうべのが片付いたからな、依頼主に連絡したら 久しぶりにちょっと大きな案件を紹介されてね。 先にこの家の仕事を終わらせなければいけないし 落ち着いて作業出来る宿を探しに行くのさ」 「この街では無く、他の場所へ?」 「そうだ。あの花畑はしばらく困らないくらいの金にはなったからな。 少しでかい街へ行こう。ウィステリアかそれとも…」 上機嫌で身支度をしているグレインとは裏腹に 浮かない表情で逡巡(しゅんじゅん)しているアイシャが 玄関へ向かおうとするグレインのコートの裾を引っ張る。 「……付いていってもいいの?」 「来たきゃ来ればいい。好きにしろ」 「……いつまで?いつまでそこに居られるの?」 「まぁ行きずりの安宿だからな。そんなに長居はしない。 この仕事が終わり次第また次の先に移動するが…」 「それが終わったら?」 深憂(しんゆう)に満ちあふれた瞳から アイシャが真に訊ねたい事を理解したグレインは ひと時の沈黙ののち、アイシャの頭の上に手を乗せる。 「そうだな。それが終わったら春幻樹でも探しに行くか。 実は以前から噂に聞いている場所があるんだ。 そこに無くたって、見つかるまで世界中を旅したっていい」 少女に、大輪の、笑顔が咲く。 明日がどうなるのかは判らない。 それだけは誰にも判らない。 だからこそせめて今日は 暖かいベッドを用意してやろう。 明日も、その次の日も。 出来る事なら一緒に 桜を見られるまで。 そう思いながら、男は扉を開ける。 ・・・・・・・・・・終・・・・・・・・・・ f67d803f-adb5-4bea-91f4-6b099803dd27
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