譲れない想い

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譲れない想い

(1) 放課後 「悪いけど急用ができた。先に帰ってて」 そう言って重い足取りで教室を出るトーヤ。 (何かある!) 「後つけるぞ愛莉」 「え?でも先に帰っててって……」 「何か隠してる。怪しすぎるって」 「そう言うのって良い行動じゃないと思うけど」 愛莉はあまり乗り気じゃない。 「誰かに告られるかもしれないぞ!」 「そ、それはない……んじゃない?」 「わかんねーぞ、愛莉はトーヤのどこが好きになったんだよ」 「うーん……優しい所かな。不器用だけど」 「それだよそれ、あいつ誰にでも優しいところあるから、誰に惚れられてもおかしくねーって」 「うぅ……冬夜君なら大丈夫だよ」 「じゃあ、愛莉一人で帰れよ、私一人で後つけるから」 と、いいながら。既に尾行を開始してるのだけど。 「やっぱり神奈よくないよこういうの」 「じゃあ、なんでついて来るんだよ?」 「うう……やっぱり気になるから。気づかれないよね?」 「あいつそれどころじゃないって顔してたろ?」 「そうだね」 行きついたところは体育館裏だった。 「あ、あれあの人確か……」 愛莉は、トーヤと一緒にいる男に気が付いた。 どこかの坊ちゃんと言った感じの男だ。 耳にかからない程度の髪を下ろしていた。 黒縁の眼鏡をかけている。 「仲摩君だ!」 「愛莉声でかい」 慌てて愛莉の口を塞ぐ。 幸い気づいてないようだ。 もう少し近づかないと何を話しているか聞こえない。 が、遮蔽物がないから体育館の影に隠れているのが精いっぱい。 ここから様子を伺うことにした。 (2) 放課後体育館裏に呼び出された。 文面からすると物騒な感じだが呼び出した相手が仲摩君だし大丈夫だろう。 仲摩修治、中学2年生。 あまり面識はない。 ただ頭がいい、お金持ちのお坊ちゃんとだけは聞いたことがある。 地元の建築設計会社の社長の息子らしい。 そんな坊ちゃんが庶民の俺に何の用があるんだか。 どうせ、ろくな話ではないんだろう。 まあ、無視することも出来たが……来てしまった。 仲摩君は先に来ていた。 こっちに気づくと手を挙げる。 開口一番に言った言葉は 「君と遠坂さんは付き合っているんだってね」 やっぱりもう噂になっていたか。 「そうだけど?」 「別れた方が良いよ」 は? 「言いたい事はそれだけ?」 「そうだよ」 「じゃあ、答えはノーで」 そう言うと踵を返して立ち去ろうとした。 「少しは僕の話も聞いた方が良いよ?理由とか知りたくないの?」 僕は振り向くとこう答えた 「どんな理由があろうと僕は愛莉が好きだ。だから別れない」 「君たちの存在が彼女を苦しめてるとは思わないのかい?」 彼女を苦しめてる? 「どういう意味?」 「君たちの相手をしてるせいで彼女は成績を落とした。違うかい?」 ああ、そういうことか。 「僕とカンナが足を引っ張っているといいたいのかい?」 「君、思ったより物分かりが良いね」 そう言うと仲摩君は眼鏡をクイっと上げる。 「所詮君たちと遠坂さんは済む世界が違うんだよ」 どくん。 心臓の鼓動が大きくなる。 僕は動揺していた。 「彼女は優秀だ。君たちにその才を分け与えるほどにね。しかし君は彼女に何かしてあげられるのかい?」 体が震えていた。 「彼女が君に抱いてるのは好意じゃない、同情だよ。君にしてあげられるのは彼女を彼女がいるべき世界に戻してあげられることだよ」 こいつ本気で言ってるのか? 「そして僕なら遠坂さんを本来あるべき姿にしてあげられる」 しげあげられる? こいつ何様だ? 「わかったろ?君は遠坂さんと別れるべきなんだよ」 僕は突然笑い出した。 笑わずにはいられなかった。 「何がおかしいんだい?」 仲摩君の……仲摩の表情が一変する。 「とんだ茶番だね。君の価値観はよくわかった。やっぱり君に愛莉を譲るなんて無理だ」 「物分かりが良いといったのは撤回するよ。やっぱり馬鹿は馬鹿だ」 「馬鹿で結構。精々頭のいい者同士で仲良くやれよ。ただ、愛莉は僕を選んでくれた。それだけだ。諦めろ」 「馬鹿と自覚してるなら同じ馬鹿の音無と付き合ったらどうだ?」 「今、なんて言った?」 頭に血が上ってくるのを感じた。 「馬鹿同士で盛り上がってればいいのに、なんで遠坂さんを……!?」 気が付いた時には仲摩をぶん殴ってた。 思いっきり吹き飛ぶ。 「カンナに謝れ!!」 そう叫んでた。 あいつが今どれだけ努力してるか知りもしないで。 許せなかった。 仲摩は起き上がりながら殴られた頬を触り半泣きで叫ぶ。 「やっぱりこれだから低能は、力でしか物事を解決できない」 まだいうか……この!! もう一発殴ってやろうとしたとき誰かががっしり腕をつかんだ。 「止めろ!トーヤ!」 「離せカンナこいつは許せない!」 ってなんでカンナがいるんだ。 「やっぱり低能同志お似合いじゃないか」 「まだいうか!」 「やめろって、こいつみたいなのぶん殴る価値もねーよ」 「そうだよ冬夜君」 「愛莉!?」 「遠坂さん?」 愛莉は僕のそばに寄る。 「話は大体聞いてたよ。拳大丈夫?」 「大丈夫だけど……先に帰ってろって」 愛莉は僕の話を聞かずに仲摩のそばにいった。 「遠坂さん」 バシッ! 乾いた音が響く。 愛莉は仲摩の僕が殴った方の頬を思いっきり平手打ちしていた。 「二度と私たちに関わらないで!」 今まで聞いたこともない愛莉の怒声。 「こらぁ!お前ら何やってる!?」 やばい生徒指導の先生だ。 「先生こいつが僕を殴ったんです!」 「そうなのか片桐!」 「……はい、殴りました」 「おまえらちょっと生徒指導室に来い!」 「愛莉とカンナは関係ありません。止めに入っただけです」 「そうかじゃあ、仲摩と片桐だけ来い」 「先生関係なくありません!」 愛莉がそう叫ぶが僕は首を振った。 そしてにっこり笑う。 「今度はちゃんとまっすぐ帰れよ」 (3) みっちり叱られた。 母さんまで呼び出される始末だ。 母さんは泣いてた。 そして後から家で母さんにみっちり怒られることになるのだが……。 校門を出るとそこには愛莉とカンナが待っていた。 「よう!どうだった?」 「冬夜君大丈夫?」 二人とも心配してくれてたのか。 「一週間謹慎だって」 笑って答えた。 すると無言で近寄ってくるカンナ。 一応言っとこう、母さんも一緒だ。 バシッ! カンナの平手打ちが僕の頬を打った。 「2度とあんな馬鹿な真似はすんな。される方が迷惑なんだよ」 静かな怒りというやつか?妙な威圧感があった。 そして気づいた。神奈の頬を伝う一滴の涙を。 4人で帰ることにした。 試験勉強も終わったし、今日は勉強会は無しでってことになった。 愛莉を送り、カンナを送ることに。 途中一言も交わさないカンナ。 そしてカンナの家に着いた。 何も言わず、家に入ろうとするカンナ。 「さっきは……ごめん!」 そう叫んで、僕も振り返り帰ろうとしたとき。 カンナが後ろから抱きとめた。 あまりの出来事に思考が追い付かない。 「なんで、そんなに優しいんだよ!トーヤは優しすぎるんだよ!愛莉にだけ優しくしてりゃいいんだよ!」 抱き着く腕が微かに震えている。 泣いてる? 「だって、カンナの事侮辱してたからつい……」 「だから私の事なんてどうでもいいだろ!?トーヤの彼女は愛莉だろ?愛莉が可哀そうだ」 「カンナだって友達だろ?」 「……ちょっとこっち向け」 僕は言われた通り振り返る。 カンナは背が高い。 僕より少し高いくらいだ。 カンナは僕の顔を抑えると口づけをしてきた 「!?」 カンナは舌を僕の口に入れてきた。 カンナの舌は僕の舌に絡み合う。 数秒間の事だったがとても長く感じた。 キスが終わると僕を抱きしめる。 「……なよ」 「え?」 「いつまでも友達というポジションで抑えられると思うなよ」 そう言って、カンナは全力で家に帰って行った。 ぼくは呆然とその場に立ち尽くしていた。
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