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桜は香り君は麗し
(1)
「おはよう冬夜君、朝だよ~」
愛莉に起こされる。
「おはよう愛莉」
言葉と共に愛莉に口づけを。
喜んで僕に抱き着く。
「早く着替えて日課すませちゃお?」
「何でそんなに急ぐの」
まだ春休みだぞ?
「今日は花見の日だよ?お弁当作らなきゃ」
ああ、花見か。今年もやるんだったな。
僕達は戦いが終わり日常の生活に戻ることが出来た。
その最初の一歩が花見だ。
真鍋君達が場所取りをしてくれているらしい。
僕は着替えると日課を済ませてシャワーを浴びて朝食を食べる。
その後愛莉がシャワーを浴びてる間父さんとリビングでテレビを見ている。
テレビの内容も日常のものになっていた。
愛莉がシャワーから戻ってくるとコーヒーを入れて部屋に戻る。
愛莉は髪を乾かしながらテレビを見る。
特に目をやるニュースは無くなっていた。
ただネットではユニティ解散の噂が広がっている。
ユニティはスティンガーに潰された。
そんな噂だ。
でも僕達にはどうでもいい事だった。
須藤グループというバックが危うい今スティンガーが切り捨てられるのも時間の問題だろう。
またそんな物騒なサークルに入るのは自業自得だ。
僕達が悪いわけじゃない。
そう思っていた。
愛莉は髪を乾かすと僕の隣でのんびりとカフェオレを飲む。
朝から機嫌がいい。
もう緊張した時間は必要ないのだから。
カフェオレを飲むと愛莉はマグカップをもって下に降りる。
それからお弁当の仕度に入るのだろう。
僕もPCをシャットダウンしてゲームを始めた。
メッセージではいつもの他愛のない話が始まっている。
誠がまた馬鹿な動画を送ってくる。
愛莉に見られないうちにメッセージを削除する。
抗争が終わったのに愛莉と抗争は洒落にならない。
愛莉は未だにリストバンドをつけている。
喧嘩で変身されたらたまったものじゃない。
家が壊されてしまう。
ゲームをしていると愛莉が呼ぶ。
「お昼ご飯できたよ~」
ゲームを中断する。
インスタントラーメンだった。
玉子がちゃんと入ってある。
それを食べると部屋に戻ってゲームを再開してれば片づけを終えた愛莉が戻ってくる。
愛莉がじゃれついてくる。
僕はゲームをやめるとノートPCを開く。
「新しいイベントやってるらしいんだ。久しぶりにやってみないか?」
愛莉は僕と時間が過ごせるなら何でもいいんだろう?
快く承諾してくれた。
それも2時間くらいで飽きる。
残り時間はテレビを見ながら愛莉とじゃれ合う。
一緒にスマホのメッセージを見ながら愛莉との時間を楽しむ。
17時を過ぎた頃家を出る。
花見の会場へと向かった。
(2)
竹本夫妻と4人で場所取りをしていた。
4人で話をしながら、メッセージのやり取りをしながら。
「新婚生活どうですか?」
咲さんが聞いてきた。
「新婚といっても同棲期間がながかったから……」
聡美が答える。
「竹本たちはどうだったんだ?」
「僕達はまだ式も挙げてないから」
「あんた式を挙げる為にバイト頑張るなんていわないでしょうね!これ以上無理したら死ぬわよ!」
「わかってるよ、休みは合わせてるだろ?」
この二人も二年でだいぶ落ち着いたようだ。
去年は良くも悪くも抗争のお蔭で痴話げんかが無くなっていた。
寒い冬が解ければ春が訪れる。
今のユニティはまさに春の季節だった。
「なんだったんだろうな、あの抗争は?」
俺は一人呟いていた。
「なんでもなかった。それでいいじゃないですか」
竹本は言う。
「それもそうだな」
俺が答える。
「そんな辛気臭い話今だけにしてね!花見は皆で盛り上がるんだから!」
咲さんが言うと皆うなずく。
本来の渡辺班のあるべき姿に戻る。
それだけの事。
過ぎ去った過去は忘れよう。
「やあ、場所取りご苦労」
「おつかれ!飲み物もしこたま持ってきたぞ!」
渡辺夫妻がやってきた。
「遅れて申し訳ないっす!バイトがあってどうしてもこれなかったっす!」
「お弁当準備してきた」
晴斗と白鳥さんも来た。
続々と皆集まる。
30人超の人数が集まるんだ。
かなり広いスペースを必要としていた。
皆がお弁当を広げる頃片桐先輩たちがやってきた。
「あれ?皆もう集まってるの?」
「いえ、多田夫妻がまだ……」
多田夫妻は桐谷夫妻と最後にやってきた。
「瑛大が最後までゲームしてるからでしょ!?」
「しょうがないだろ!?あとちょっとでクリアだったんだから!」
この二人は相変わらずだ。
相変わらずの二人に戻れた。
それは喜ばしい事だ。
そして宴は始まる。
「じゃあ、皆前期も頑張ろう!乾杯!」
渡辺先輩がそう言うと宴は始まった。
(3)
「トーヤ、これ食え。結構自信作なんだ!」
「とーや、私のも食え。いけてると思うぞ!」
カンナと美嘉さんがおすそ分けしてくれると皆がおすそ分けしてくれる。
もちろん全部食べる。
愛莉の作ったお弁当も余すことなく。
「冬夜君?どれが一番美味しかった?」
愛莉は答えを知ってるくせに偶にこんな質問をしてくる。
「愛莉のが一番に決まってるだろ?」
「わ~い」
愛莉は喜んで僕にじゃれつく。
「春から見せつけてくれるな」
カンナが言う。
「春と言えば檜山先輩もう仕事始まったんだって?」
亜依さんが聞く。
「ああ、もう引越しも終えてるよ」
本店に配属したらしい。
新人研修の真っただ中だとか。
「冬夜は結局どうするんだ?地元銀行が第一志望か?」
「いや、多分無理だろうからやめておくよ」
「そうか……まあ仕方ないよな?あれだけ暴れたらな」
太陽の騎士団の息のかかった企業には就職できないだろう。
幸い愛莉の絶妙なスケジュール管理のお蔭で資格だけはきっちりとれてる。
どこかいい就職先がみつかるさ。
「皆は就職先決めてるの?」
僕は皆に聞いてみた。
「僕は恵美の会社にそのままつく予定です」石原君が答える。
「僕はいきなり社長ですよ」酒井君が笑って答える。
「俺も冬夜と同じだな。これから探すよ」と渡辺君が言う。
「俺は卒業後にプロだな。もう契約はすんでるよ」誠が答える。
中島君は公務員を目指すらしい。
桐谷君は一人沈んでいた。
「瑛大どうしたんだ?」
渡辺君が聞いている。
「この馬鹿春から早々やらかしたらしいんだよ」
亜依さんが溜息をつく。
「どういうことだ?」
渡辺君が聞く。
それは昨日の事だったらしい!
教務課に呼び出された桐谷君。
「今年度卒業できませんね?」
「え!?」
「あなた第2外国語履修してないでしょ?」
「英語ならちゃんと履修しましたよ!?」
「それは第1外国語……あなたみたいな人必ず毎年ひとりいるのよねえ」
「じゃあ、今から履修しますから!」
「もう受け付けは終わったわ。諦めるのね」
その後亜依さんと大ゲンカだったらしい。
「全くこの馬鹿は!」
亜依さんは今もまだ怒っている。
「それは災難だったな瑛大」
渡辺君も苦笑している。
「何。留年って言ったって半年もあれば一単位くらいどうにでもなるさ」
誠が言う。
「じゃあ、亜依は働くの?」
愛莉が聞いていた。
「ツテはあるし、働くかな」
「ツテ?」
「うちの病院いつも人手足りないから」
西松君が言う。
「じゃあ、穂乃果も?」
「ええ、二人で行こうって」
じゃあ、就職先が決まってないのは僕と渡辺君か。
「俺も公務員目指そうかなと思ってる」
渡辺君が言う。
「佐(たすく)は?」
「バスケ部の連中は皆バスケ部ある企業に行くつもりらしいぜ。冬夜のお蔭で名前も売れたしな」
これで今年の春季大会も優勝出来たら確実だろうという。
「今年の要注意なのはやはり熊工大ですね。あのディフェンスとオフェンスは脅威ですよ!」
佐倉さんが言う。
進路と言えば。
「公生と奈留はどうするの?」
「普通に高校進学するよ?」
「私も」
「公生と奈留はいい子だからね。うちのお父さん気に入っちゃってね。大学まで面倒見るって」
恵美さんが言う。
「片桐君もよかったらうちの傘下企業で雇うわよ?」
「最後は頼むよ」
「じゃあ、皆決まったも同然だね!」
「そうなるな?」
「じゃあみんなの将来を祝して乾杯!!」
進路か、ちゃんと考えたこと無かったな。
働く自分を想像してなかった。
みんなちゃんと考えてるんだな。
僕は何がしたいんだろう?
浮かれる皆をよそに僕は一人考えていた。
すると愛莉が僕の頬を抓る。
「冬夜君は一人で悩んだら駄目!!」
愛莉が言う。
「自分の進路くらい一人で悩むさ」
「ブーッです。冬夜君の将来には私がついてくるんだよ。私にくらい相談してよ」
「そうだったね」
愛莉の将来も背負わなければならない。
そんなに悩んでる時間もない。
「片桐君、そんなに思いつめなくてもいい仕事あるわよ」
恵美さんが言う。
「うん、ただ自分の進路くらいギリギリまで自分で探してみようと思って」
「ごめんね恵美。冬夜君なんでも自分でやろうとするから……」
愛莉が謝る。
「いいの、でも切羽詰まったらいつでも言ってね。片桐君なら歓迎するわよ」
恵美さんはそう言って笑った。
「そういや、今年は誰も入れないのか?渡辺班に?」
美嘉さんが言う。
「一応探してはいる。ただまだ前期も始まってないからな。ゆっくり探すさ」
渡辺君が言う。
「私も探してみるわ。ちょうどいいのがいるかもしれない」
亜依さんが言う。
「どうせなら調教しがいのあるやつが良いわね」
「そうね、張り合いのあるやつが良い」
恵美さんと晶さんが言う。
て、事は今年もあれやるつもりなのね。
「次の挙式は檜山先輩たちだっけ?」
渡辺君が言った。
「そうだな、6月に予定してる」
檜山先輩が言った。
その次が椎名さん達で……。
「椎名さん達の次は誰なんだ?」
渡辺君が言う。
誰も手を上げない。
「馬鹿瑛大が卒業したら考えるわ」
亜依さんが言う。
「私達の春は続くね」
「雪が溶けたからね」
愛莉と恵美さんが言う。
「愛莉も人の心配する前に自分の心配しとけ?」
カンナが言う。
「ほえ?」
「大丈夫だろ?冬夜は約束はちゃんと守るよ」
誠が言う。
守らないでも強制的に結婚らしいけどな。
「冬夜君なら大丈夫だよ~」
愛莉は上機嫌だ。
「お前らもしけた面してないで入って来いよ」
美嘉さんが亀梨君達に言う。
「君達も結婚とかは考えてないのか?」
渡辺君が聞く。
「卒業したら籍入れようって話してます」
亀梨君が答える。
「籍くらい勢いで入れてしまえよ。何も変わらねーよ!」
美嘉さんが言う。
4人は相談している。
「明後日からか。楽しみだな」
渡辺君がふともらす。
学校生活が楽しみ。
そんな感情を持てたのも非現実的な日常からの解放感からだろうか?
桜は香り、春の匂いで満たされる。
僕達の春の宴は深夜まで続いた。
(4)
家に帰るとシャワーを浴びて愛莉のシャワーを待つ。
テレビをつけるとドラマをやっている。
それをぼーっと見ていると愛莉が酎ハイを持って戻ってきた。
「はい、乾杯」
「乾杯」
酎ハイを飲む。
愛莉と二人でテレビを見る。
ドラマは終わり、トーク番組が始まる。
特に興味のないタレントだったのでただ見ているだけだった。
二人の時間を過ごす。
酎ハイを飲み干すころには眠気に誘われる。
「そろそろ寝ようか?」
「は~い」
愛莉も今日ははしゃいで疲れたのだろう。
大人しく眠る。
「ねえ、冬夜君?」
「どうした?」
「来週から楽しみだね」
「そうだな」
「どんな人が入ってくるのかな?」
「渡辺君達に任せよう?」
「そうだね」
愛莉は僕にしがみ付くと突然眠りだした。
「冬夜君……」
愛莉の夢の中には僕がいるようだ。
麗しの君の中に僕は要る。
僕の中にもきっと君がいる。
僕達は夢を共有しながら春の宵を満喫していた。
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