改造計画

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改造計画

(1) 「おはよう冬夜君、朝だよ~」 愛莉に起こされる、今日は日曜日。 しかし変わらず日課は続けてる。 日課をこなすとシャワーを浴びて朝食を食べる。 朝食を食べるとコーヒーを持って部屋に上がる。 ぼーっと朝のテレビを見てると愛莉が戻ってくる。 愛莉は出かける仕度をしている。 今日は女性同士で集まって何かするらしい。 朝倉さんの改造計画だそうだ。 何をするのかは男性陣には秘密らしい。 「見てのお楽しみ」 亜依さんはそう言っていた。 「冬夜君は今日は練習?」 愛莉が聞いてきた。 「愛莉が出かけるなら暇だし練習でも行こうかなって」 「わかった~」 愛莉が出かける準備をすると僕の隣に座ってカフェオレを飲んでいる。 「どこに行くの?」 「内緒だよ~。……他の人にはね」 「わかったよ」 「美容室と服屋さんとか。見た目をイメチェンするって言ってた」 そんな事だろうと思ったよ。 「どんな風になるのかは冬夜君にも内緒だよ」 「そこは見てのお楽しみにしておくよ」 「うん……でも」 でも? 「どんなに素敵になったって浮気はだめだからね?」 本当にしょうもない事を考える子だな。 「そんなこと思うはずがないだろ?」 「うん!あ、そろそろ時間だ。行ってくるね~」 愛莉が出かけると僕もそろそろ準備をする。 体育館に着くと、恭太が一生懸命練習してる。 新しいセンター、高槻君は身長もあるし足腰も鍛えてある。 恭太が優ってる点、うちのチームのフォーメーションに対応できる点も直ぐに順応してみせた。 体力も恭太よりもある。 恭太が焦るつもりも分かる。 監督の判断は非情でセンターの交代を告げられた。 個人的には恭太を応援したいが、しかし実力差は歴然としていた。 佐倉さんも悩んでるようだ。 でも露骨に恭太贔屓をするわけにもいかない。 女子との練習試合は高槻君を起用している。 このままだと春季大会も高槻君を使うつもりだろう。 実際高槻君を使う事によって攻撃のバリエーションが増えた。 しかし、一つだけ欠点がある。 まだうちの速攻スタイルに慣れてないのか、攻守の切り替えが遅い事。 それは女子との練習試合でわかった。 後は自分が決めるんだと意気込むところ。 積極的なプレイと言えば聞こえはいいけど、うちのフォーメーションには合わない。 実際女子との練習試合でわかった。すぐに女性陣のディフェンスに押さえ込まれる。 それでも動いてパスコースを作るのは凄いけど、そんなプレイが40分続くはずがない。 後半バテる。 恭太を起用するとしたらそこからだろう。 恭太の出番は必ず来る。焦る必要はない。皆が説得する。 「心配はいらないよ、すぐにレギュラーに返り咲いてみせる」 恭太は言う。 「無理しなければいいんだけど……」 佐倉さんは言う。 でも恭太も最後の試合。やはり出たいんだろう? 事件は今日起こった。 「俺、レギュラー降ります。恭太先輩最後の試合だし花持たせたい」 高槻君に悪気は無かったんだろう。 だが恭太のプライドを傷つけるには十分すぎる発言だった 「そういう上から目線が気に入らねーんだよ!」 恭太はそう言って体育館を出る。 「皆さんは練習を続けてください」 僕達は練習を続ける。 佐倉さんはここを新しく入ったマネージャーちぃちゃんに任せて後を追う。 休憩時間僕達も後を追った。 行き先はだいたい見当がつく。 レギュラー組で後を追った。 (2) 「レギュラーを降ります」 屈辱だった。 必死にレギュラーを狙ってる奴だっているのに。 俺は怒鳴りつけると体育館を後にする。 そしていつもの場所に座り込む。 まさかセンターに新星が現れるとはな……。 いつもゴール下を任されていたのに、監督はあっさりと交代を告げた。 くそっ! 苛立ちを隠せないでいると、現れたのは瑠衣だった。 「恭太……気持ちはわかるけど……」 「お前にはわかんねーよ、レギュラーを奪われた俺の気持ちがわかるってのか?」 「私だって必死なんだよ。体格のいい女子なんていくらでもいる。私がセンターを請け負っているのが不思議なくらい」 「……そうだったな。すまん。一人でいじけていたみたいだ」 「皆恭太の心配している。戻ろう?」 瑠衣はそういう。 「そんなことしていても事実は変わりませんよ」 そう言ったのは佐倉だった。 「速攻が通用しなくなったときセットプレイに向いてるのは身長のある高槻選手です。この事実は変わりません」 佐倉の冷酷な言葉が突き刺さる。 「……でも速攻が通用してる間は赤井先輩に分があります誰よりも早く何度でもゴール下に走るセンターは赤井先輩です。代表戦をみてわかったはずです、片桐先輩の居るチームは片桐先輩のスティールから始まる速攻。スピードとスタミナが試されるのはセンターです。ファーストブレイクが通用しなかった時のセカンドブレイク。それに対応できるのは赤井先輩だけです」 佐倉が言う。 「落ち着けよ恭太。らしくねーぞ。いつもならそのくらい自分で理解するはずだろ?」 そう言ったのは佐(たすく)だった。 振り返ると他のメンバーも来てる。 「僕が思い切って3P打てるのは恭太が誰よりも早く戻ってリバウンドを拾ってくれると信じてるからだよ」 冬夜が言う。 「お前は関係なく打ってるだろうが」 佐が言うと皆が笑う。 「高槻君を使ってるのは今のうちにフォーメーションに慣れさせる為です。自分の足りない点を教える為です。現に今も彼はタップの練習を続けています。セットプレイでは彼の方が利があります。でも試合展開の早いゲームではまだ実力不足です」 佐倉が言う。 「こんなところでいじけてる場合があったら、練習しないと。本当にレギュラー奪われてしまうぞ」 真司が言う。 俺は体育館に戻る。 俺に気づいた翔は俺に駆け寄る。 「先輩さっきはすいませんでした。気に障ったのなら謝ります」 俺はフッと笑った。 「気にするな、それより練習するぞ。うちのフォーメーション覚えるんだろ?」 「はい!」 そして再び練習時間が始まる。 女バスとの練習試合には出れなかったけど。それでもいい。 翔のプレイを見ていて分かった。 速攻が決まらなかった時の秘密兵器か……。 俺は体育館をあとにして走り込む。 ただ見ていたってしょうがない。 自分が出来ることをやる。それだけだ……。 (3) 僕はサークルの勧誘合戦に巻き込まれていた。 「幸せを運ぶサークルだよ」とか「縁結びのグループ」だとか色々あった。 どこでもいいや、美女と仲良くなれるなら。 「うちは美女ぞろいだよ」 決めた、言われた通り入部届を書き込もうとすると知らない二人組が僕を掴んだ。 「君、如月翔太君だよね?」 うち一人がそう聞いてきた。 「そうだけどあんたらは?」 「俺は多田誠、こっちは桐谷瑛大。君にとっておきのグループ招待してあげる」 サークルの人が抗議する「人の客を掻っ攫うな」と……。 「悪い、こいつだけは譲れない」と多田君が言う。 そして俺は引きずられる。 「君車持ってる?」 多田君が聞いてくる。 「持ってますけど?」 「じゃあ、車で来てよ。国道沿いの喫茶店青い鳥ってところ」 「まだ入部するって決めたわけじゃ」 「あ、入部届とかいらないから、うちただのグループだから」 「あんた達はいったい?」 「何心配することは無い。君にとっておきの幸せを運んであげる」 胡散臭いグループだ。逃げた方が得策かな? 「逃げようとしたって無駄だから。君の家ばっちり掴んでるから」 いよいよ怪しいグループだ。 「まあ、悪いようにはしないよ?美人をお求めなんだろ?」 「本当に美人なんですか?」 「ああ、飛び切りのね。しかも君をすごく気に入ってる」 そんな美味しい話があるのだろうか? 「じゃ、ついて来て。案内するから」 桐谷君が白いスポーツカーにのると僕を誘導する。 国道沿いにあるぼろい喫茶店。 内装はお洒落な感じだった。 「いらっしゃいませ」 細身の男が言う。 「酒井、もう来てる?」 「ええ、来てますよ。此方の席へ……」 そう言って6人掛けのテーブル席に案内された。 そこには二組のカップルがいた。 僕はショートボブの栗色の髪形の小顔の綺麗な女性の隣に座らせられた。 「紹介するよ、彼が如月翔太」 そう言うと対面に座ってた男が僕の顔を見る。 しばらく見ると納得したかのようににこりと笑う。 「君、美人がすきなんだって?」 世の中の男に美人が嫌いな奴なんているのだろうか? 「はい、好きです」 「隣の子なんてどう?」 隣のショートボブの子は頬を赤らめて俯いている。 悪くない、むしろこの子ならいい! 「めっちゃ好きです!」 「じゃあ、うちのグループに入る理由ができたね。彼女うちのグループの子なんだ」 「まじっすか!入ります」 二つ返事で返した。 「じゃあID交換しよう」 そう言ってメッセージのIDを交換するとグループに招待される。 渡辺班というグループだ。 「よろしくお願いします」ととりあえず打った。 皆「よろしく」と返してきてくれた。てか何人いるんだ。40人近くいないか? その中に気になる名前がいた。 朝倉伊織。僕の幼馴染だ。彼女もいたのか? 「伊織もいるんですか?」 僕が聞くとみんな笑っていた。 「ああ、いるよ。地元大にいたからね」 地元大のグループなんだ。 「地元大のグループに俺入って良いんですか?」 「いいんだ、俺達インカレのグループだから」 ショートボブのこの隣に座っていた大柄の男の人が言った。 「自己紹介まだだったね。僕は片桐冬夜。隣にいるのが遠坂愛莉。僕の彼女」 遠坂愛莉さんも凄くきれいな人だった。片桐君にべったりだったけど。 「俺の名前は渡辺正志。そして隣にいるのが朝倉伊織さんだよ」 えっ? 僕は隣のショートボブの子を凝視する。 僕の知ってる伊織じゃない。 「嘘でしょ、そんな冗談通じませんよ」 「それが本当なんだな。伊織さん、君からも何か言わなきゃ?」 「お久しぶり……翔ちゃん」 声は伊織の声だった。伊織ってこんなに美人だったのか!? 言葉を失った。 「女性は化けるんだよ。ちょっとイメチェンするだけで変わるんだよ~」 遠坂さんがそう言う。 「伊織さん、言う事まだあるだろ?」 片桐君が言う。 「……ずっと好きでした。小学校の頃から」 僕は小学校の頃からこんな可愛い子に好かれていたのか!? 「どうだい?彼女と付き合ってみない?」 片桐君が言う。 「はい、わかりました!伊織、よろしく」 「よろしく……翔ちゃん」 「じゃ、あとは二人に任せるか。俺バイトあるし」 渡辺君が言う。 「僕達も部活あるし行くかな?」 そうして僕達は取り残された? 「おどろかせてごめんね……私似合ってるかな?」 僕は無言でうなずいた。 「よかった。夢みたい……本当に幸せにさせてくれるグループなんだね?」 「でも急にどうしてそんなに変わったの?」 「先週末に先輩たちに呼び出されたの……」 そして美容室に連れて行かれて服やアクセサリーを選んでもらったらしい。 僕の知ってる伊織から想像もつかないほど変貌していた。 「本当に私でいいの?翔ちゃん?」 「僕こそ気づかなかった。伊織がこんなに可愛いなんて」 可愛いの一言で伊織は頬を赤らめていた。 「ありがとう」 そう言うのがやっとだったみたいだ。 その後伊織と連絡先を交換すると伊織はバイトがあるからと店を出た。 夢のようだった。美人の彼女が出来た。しかも相手は僕の事を好いているという。 浮かれ気分で家に帰って夜彼女と電話をした。 (4) 学校が終わると僕達は家に帰る。 奈留を待っていた。 奈留はいつもの恒例行事だ。 体育館裏で告白。 虐められていた日々が嘘のようだ。 連日彼女はラブレターを受け取りそして告白を受けていた。 その度に彼女は「付き合ってる人がいるから」と断るわけだが。 そしてその恒例行事を終えると彼女は車に乗り込む。 さすがに連日の行事でうんざりしていたようだ。彼女は疲労の色を見せる。 「めんどくさいなら無視すればいいのに」 「でも、手紙を書いてくれた人の気持ちを無碍にするわけには行かない」 「そんなに真剣に考えなくてもいいんじゃない?」 「……ひょっとして妬いてる?」 悪戯っぽい笑みを浮かべて麗しの君は言う。 「そりゃ、妬くさ。君を誰かにとられちゃうんじゃないかってね」 「私信用されてない?」 奈留は少し機嫌を損ねたようだ。 「信用と心配は別物だよ。全く心配してないって言ったら奈留怒るだろ?」 そう言うと奈留は納得したようだ。 「だったら公生も一緒にくればいいのに」 「奈留がそれを望むならついて行くけど」 「じゃあ、お願いしようかな?『公生と付き合ってるの』って一々説明するの面倒だし」 「わかった」 「逆に聞くけど公生はそういうの全くないの?」 奈留は僕の事を心配しているようだ。 「僕は問題児だからね。そういうのは全く無いよ」 そう言って笑う。 「皆見る目が無いね」 奈留はそう言って笑う。 「麗しの君が見てくれてるから問題ないよ」 僕はそう返す。 「ずっと見てるよ……」 奈留がそう言う。 「その言葉だけで十分だよ」 奈留は嬉しそうだった。 「麗しの君が喜んでくれるだけで僕は十分だよ」 そう言うと照れる君の姿を見てるだけで僕は本当に充分だった。 (5) 「今回ばかりは愛莉達にしてやられたなあ」 部活が終わり、ご飯を食べてお風呂に入ったあと酎ハイを飲みながら愛莉と話していた。 「えへへ~、ほとんど亜依の好みに合わせたんだけどね」 なるほどね。 「誠君も行動が早かったね」 それは誠の特技を使ったんだろう? 「二人上手くいくかな」 「どうだろね、まだ一日目だしね。何とも言えない」 家の問題とかもあるしね。 「そっか~……でもうまくいくと良いね」 「そうだね」 「千歳さん達の方はどうなの?」 「見た感じ何の進展も無いみたい」 「じゃあやっぱり……」 「合宿次第かな~」 とはいえ、高槻君はバスケ部の大事な戦力。怪我させるわけには行かない。 「2人でまた遊びに行かせる?」 晴斗と白鳥さんみたいに。と愛莉は言う。 「それも手かもね」 「今回は順調に言ってるね」 「そうだね」 これから何が起こるか分からないけど。 何か心境の変化があるかもしれない、 そればっかりはなってみないと分からない。 まだ絆というには弱い赤い糸のようなものなのだから。 それを束ねて行って太い物にすることは二人でする作業。 僕達は見守ることしかできない。 「冬夜君は就職先みつかりそう?」 「何件か面接を受けるつもりはあるけど」 「いいとこ見つかると良いね?」 「愛莉の為にも良い所見つけないとな」 「頼りにしてますよ。旦那様」 「任せておいて」 まさかこの就活が運命の細い糸を引き合わせることになるとは思いもよらなかった。 その晩あの夢を見た。 あの子の夢を。 忘れたい過去の夢を。 それは言葉に出来ないほどの悲しい出来事だった。
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