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春風
(1)
「冬夜君、朝だよ~。起きなきゃだめだよ~」
愛莉が体を揺する。
「今日は休みだろ?」
「ブーッで~す。休みの日はお出かけするって冬夜君言ってたよ~」
ああ、それがあった。
愛莉を外に連れ出さないと家事をしてしまうんだった。
とはいえ、どこに連れて行こう?
取りあえず日課をすませるか。
着替えて愛莉と一緒に日課を済ませる。
シャワーを浴びてる間に愛莉が朝食を作ってしまう。
朝食を食べ終えると愛莉がシャワーを浴びてる間にコーヒーを持ってあがる。
モーニングコーヒーを一緒に飲みたいという愛莉の細やかなお願いだ。
そのくらい聞いてあげても罰は当たらないだろう。
愛莉がシャワーからもどってくると髪を乾かしながらテレビを見ている。
「冬夜君最近ゲームしないね?」
「イベントがあるときはしてるだろ?」
「そうじゃなくて、ジャムが飛び散る奴とか。私に遠慮してる?」
「もうそういうのは、現実で慣れてしまったから」
「あ、そっか……」
とは、いうものの新作出たんだよな確か。
今度買おうかな?
「愛莉はロボット物とかはだめなのか?」
「駄目じゃないよ~ただ興味わかないだけ~」
なるほどね。
「愛莉はどんなゲームが好きなの?」
「う~ん、可愛いキャラとかきれいな絵の奴は好きだよ」
自分じゃ難しくて動かせないけどと付け足す。
「あと血とか飛び散るのはちょっといやかな、ホラーは絶対いや」
僕は無言でホラーゲームを取り出す。
サスペンスものでサウンドノベルと言われるタイプのゲーム。
愛莉はオープニングを見ただけで拒絶反応を示した。
ぽかっ
「冬夜君の意地悪がはじまった!」
「ごめんごめん!」
愛莉は本気で怒ってるわけじゃない、ただじゃれ合いたいだけだ。
その証拠にぽかぽか叩く愛莉を受け止めてやると愛莉は大人しくなる。
「今日はどこ行きたい~」
「う~ん、ドライブとかいいかもね。どこがいいかな~」
愛莉が僕の腕の中でスマホで検索を始めるとメッセージを着信する。
「今日暇な奴滝を見に行かないか?」
誠が提案していた。
愛莉と相談の末誠の提案に乗ることにした。
行くのは僕と愛莉、多田夫妻、石原夫妻、公生と奈留、高槻君とちぃちゃん、如月君と朝倉さんだった。
他の人はバイトしてるからとか二人でのんびり過ごしたいとか色々理由があった。
一旦青い鳥に集合することにする。
既に皆来ていた。
「じゃ、出発しようか」
誠が言うと皆が出発する。
先頭を多田夫妻が、最後尾に僕達がついて列を作る。
皆スピードを出すのが好きらしく僕達はあっという間に取り残されてしまう。
「冬夜君は本当にマイペースだね」
愛莉は笑う。
飛ばした方がいいのかな?
「そんな冬夜君が好きだよ」
愛莉が言うと右足の力が緩む。
今日も晴れ晴れとしていて絶好の行楽日和だった。
(2)
正直怖かった。
お世辞でも翔ちゃんの運転は上手じゃない。
上手じゃないけどやたらとスピード出す。
何度も「ブレーキ」って叫びたくなる運転だった。
荒いってレベルじゃない、分かりやすく言うとへたくそだった。
それでもそんな事口にしない。
折角結んでくれた赤い糸を自ら断つような真似はしたくない。
「今日はいい天気だね」
当たり障りのない会話を始める。
「うん、絶好のドライブ日和だ」
翔ちゃんは言う。
多田先輩の選んだドライブコースは見晴らしも良くのんびり走るにはいい。
柔らかくその事を伝える。
ゆっくり慌てず行こう?そんなに無茶しないで。
しかし目的地に近づくと、段々と車の進みが悪くなってきた。
目的地はどうやらイベントが今日はあるらしい
遅々として進まない渋滞に彼は苛立ちを見せ始める。
目的地はすぐそこなんだからそんなに焦らなくても。
そうだ、やってみたかったことがあるんだ。
「翔ちゃん口開けて」
翔ちゃんに口を開けるように言うと翔ちゃんは口を開けてくれた。
その中に飴玉を放り込む。
それでも舐めて落ち着いてよ。
しかし彼は飴玉を噛み砕いてすぐに飲み込んでしまう。
学校の様子はどう?とか、普段どんな曲を聞くの?とか持ち合わせの話題を振ってみせた。
しかし翔ちゃんとの会話は弾むことなく私が一方的に喋ってるだけになってしまう。
翔ちゃんの機嫌は悪いみたいだ。車内の雰囲気は悪くなってしまう。
こんな時どうしたらいいんだろう?
私は一人スマホを操作していた。
「一人でのんびりスマホ操作していい気なもんだな!」
翔ちゃんの怒りを買ってしまった。
「ごめんなさい」
初めてのデートにしては早くも暗雲が立ち籠っていた。
(3)
兄に誘われてきた初デート。
人生で初のデートかもしれない。
別に好きでも何でもないけど嫌いじゃないならって付き合い始めた人生初めての彼氏。
彼の運転は兄にそっくりだった。
無謀な暴走運転。
助手席に座っていて恐怖を感じる運転。
男の人の運転は皆そうなのだろうか?
助手席に座ってる彼女の事をただの人形としか思ってないのだろうか?
そうではないことは片桐先輩を見ていて確認した。
彼はのんびりとマイペースで走っていて、あっという間にルームミラーから消えてしまう。
彼の運転は一流だと兄から聞いていた。
どうして飛ばさないんだろう?
助手席の彼女を大切にしてるから?
私は大切にされてない?
そうでもないらしい。
コンビニの看板が見えると喉渇いてないか?とか聞いてくれる。
「大丈夫」と彼に伝える。
彼はあまり喋らない。緊張しているのだろうか?
緊張しているのならこの暴走を止めて欲しい。
私は率直に伝えてみた。
「先輩たちまだ来ないし少しスピード緩めたら?」
彼は気づいたのかアクセルを少し緩めた。
「ごめん、スピード出すの苦手だった?」
「危ないって思っただけ。何が飛び出してくるか分からない路上で凄いスピードだったから」
速度は免停寸前のスピードまででていた。
「免許も大事にしたほうがいいよ。この辺ネズミ捕りやってるらしいから」
ネズミ捕りとはスピードガンを持った警官が潜んでいてわき道に誘導して速度超過の車を引きこむスピード取締りの事。
「大丈夫レーダーをつけてるから」
そういう問題じゃないと思う。
レーダーが違法じゃないのはあらかじめやってくる区間を伝えてスピードを出さないように注意を喚起する事。
死亡事故が多発している区間によくあるらしい。
しばらく進むと町中ににでる。町中を抜けてしばらく走ると渋滞が始まっている。
この時期目的地ではイベントをやってるらしい。
だからこそ兄は目的地を選んだのだろうか。
彼はFMラジオを聞き始めた。
渋滞の中を進むのを観念したのだろう。
のんびり行こう。
そんな気持ちが伝わってきた。
渋滞を抜けると誘導員に従って駐車する。
そこは沢山のチューリップに包まれた広場だった。
先に来ていた兄の夫婦と朝倉さん達と合流する。
朝倉さん達は何か気まずい雰囲気を出していた。
神奈さんもそれに気づいていたらしくて二人の話を聞いている。
「それにしても冬夜の奴遅いな」
それから20分くらいしてから片桐さん達はやってきた。
「遅いぞ冬夜!」
「ごめん、思った以上に混んでてさ。で、二人どうしたの?」
片桐さんも朝倉さん達の雰囲気を察したらしい。
神奈さんが説明する。
なんでも渋滞に巻き込まれてイライラしてる中一人でスマホを触りだしたのが如月君の勘に触ったらしい。
「ごめんなさい」
朝倉さんは泣いていた。
「どうしてスマホを触りだしたの?」
遠坂さんが聞いていた。
「それは……彼の機嫌が悪くて何話していいか分からなくてつい……」
遠坂さんはスマホを見る。
「一人でスマホを見た伊織にも問題あるけど一番の問題は如月君の態度だよ?彼女一生懸命場を和ませようとしてるのにそれに気づかなくて一人でイライラしてるのに問題あるんじゃない?」
遠坂さんが言う。
「そうだな、まあこの馬鹿に触発されたんだろうけど、彼女が恐怖を感じるような運転して一人でイライラしてるってのはどうかと思うぞ」
神奈さんが言って兄を小突く。
「ま、腹も減ったし何か食おうぜ。腹も満たされたらイライラもおさまるだろうさ。な?冬夜」
兄が言う。
「千歳さんごめん、俺もそこまで考えてなかった」
高槻君が頭を下げると「お前もか!?」と神奈さんが怒る。
「もう済んだ事だから、分かってもらえたから良いです」と私は言った。
食事をした後、色とりどりのチューリップを見て、滝を見てそれからつり橋をわたって滝の上を渡っていく。
つり橋を揺らして奈留ちゃんを怖がらせる公生君を窘める遠坂さん。
兄と片桐さんはそれぞれのパートナーの手を取って誘導してやりながら滝の上についてた気を見下ろすように見ている。
高槻君も照れくさそうに私の手を握って誘導してくれた。
違うのは如月君だけ。
「もたもたするなよ!早く来いよ」
しかし石の上をサンダルで飛び歩くのは危険があるというもの。怖くてなかなか足が出ない。
「そこは如月君がちゃんと先導してあげないとだめでしょ!」
遠坂さんが怒ると仕方なしにと如月君が誘導する。
「如月君にはやはり教育が必要のようね」
恵美さんが言っていた。
石原先輩は苦笑いする。
しばらく滝を見てから駐車場に戻る。
ソフトクリームを全種類制覇しようとする片桐さんをぽかっと叩く遠坂さん。
時間は2時を回っていた。
「さてどうする?」
兄が相談する。
「とりあえずお土産屋見てかない?」
恵美さんが言う。
私達はそれぞれのパートナーと一緒にお土産を見て回る。
片桐さんは食べ物ばかりを見ていた。
ぽかっと叩く遠坂さん。
石原夫妻は適当に見繕ってる。
兄夫妻は飲食コーナーで寛いでる。
公生君と奈留ちゃんはキーホルダーを見ていた。
何処の道の駅でもあるような商品ばかり。
竹細工や木製の玩具など。
朝倉さんは少しでも楽しもうと如月君に話題を振るけど如月君は興味なさそう。
私もあまり興味は無かった。
だけど、高槻君が記念にキーホルダーくらい買って行こうよと言う。
私が承諾すると私の分とお揃いでキーホルダーを買ってくれた。
「ありがとう」
私の初めてのデートの記念品。さっそくキーホルダーを取り換える。
皆の買い物が済むと時計は3時を回っていた。
兄がまた悩んでいる。
このまま帰っても時間が中途半端だし竹田市内でも回って帰らないかと言う。
皆が承諾した。
石原先輩が如月君に言う。
「名誉挽回のチャンスですよ」
分かってるのか分かってないのか分からないけど彼はうなずく。
そして私達は滝をあとにした。
(4)
翔ちゃんはごめんと謝ってキーホルダーをプレゼントしてくれた。
「それお揃いだからちゃんと使えよ」
私は車の中で鍵を新しいキーホルダーに付け替える。
初めてのプレゼント。
今までバレンタインのお返しすらもらえなかった。
誕生日プレゼントも渡していたのに私はもらえなかった。
帰りは竹田市内を回って帰るらしい。
山道を通ることになるが先頭を片桐先輩が走ることになった。
片桐先輩は安全運転でスムーズに走る。
速度も無謀なスピードは出さない。
業を煮やして翔ちゃんが追い越しをかけようとするがそれに合わせて片桐先輩がスピードを上げて追い越しをさせない。
勇気を振り絞って言ってみた。
「しょ、翔ちゃんむやみに反対車線に飛び出すのは危ないよ」
翔ちゃんはわかってくれたみたいだ。
「女性ってもっとスリルを求めるものじゃないのか?」
え?
「退屈だろ?こんな運転」
「そんなことないよ、のんびりとお話ししながらドライブした方が楽しいよ」
「そうなのか?僕はつまんないけどな……」
「翔ちゃんは暴走していて怖いと思ったことない?」
「そんなんでビビるほどの男じゃねーよ」
「ビビるとかそういう問題じゃないと思う」
危険な事は危険。人様に迷惑をかけちゃいけない。その為の交通法規だと私は説明する。
「決められたレールを走るなんて僕には似合わない」
そう言い切る翔ちゃん。
どう言ったら分かってもらえるだろうか?
「もし翔ちゃんが事故して怪我したら私は悲しい。翔ちゃんは私が怪我したらどう思う?」
分かりやすく説明したつもりだった。
「僕は事故なんかしないよ」
「事故は自分で起こすだけじゃない、巻き込まれることだってあるんだよ?」
「……片桐先輩はすごいね、運転が凄く上手い。僕にだってそのくらい分かる」
確かに片桐先輩の運転は不思議だ、安全運転でノロノロ走ってるだけなのに凄く安定してる。
変な急ブレーキや急加速もしない。
山を抜けると竹田市内に出る。
城下町の面影を残した街並みを抜けて再び国道にでると山道に入る。
すると不思議な事が起きた。
普通に走ってるだけなのに翔ちゃんが片桐先輩の車に追いついていけない。
車の性能は翔ちゃんの方が上だと聞いていた。
実際そんなにスピードをだしてるわけじゃない。
だけどカーブを一つ抜ける度に差が開く。
なぜだろう?
翔ちゃんも不思議に思っていたようだ。
山の上で片桐先輩はハザードランプをつけて待っていた。
片桐先輩はにっこり笑っている。
「遅かったね」
片桐先輩が速いんだよ。
「山を下りたらファミレスに寄ろう。そこで夕食食べて今日は解散」
多田先輩が言う。
「冬夜君はやっぱり最後尾じゃないと駄目!山道だと皆置き去りにしちゃう」
遠坂さんが言う。
「じゃ、また俺が先導するわ」
多田先輩が言う。
多田先輩を先頭に、最後尾を片桐先輩が。出発した時と同じ編成で移動した。
私達の後ろをつけてくる片桐先輩。
前の2台はスピードを出す。
こんな細道で民家もあるのに……。
翔ちゃんは前の2台を追おうとする。
「翔ちゃん駄目!」
「だって置いてけぼりにされちゃうぞ!」
「目的地分かってるんだからそこに向かえば良い」
いざとなったら、スマホで連絡が取れる。そう翔ちゃんに言う。
その時違和感を感じた。
片桐先輩の車はストレートでは引き離されるのにカーブに差し掛かるとすぐに追いついてくる。
それを何度も繰り返す。
「俺って運転下手なのかな?」
「そんなことないよ、ただ片桐先輩が上手すぎるだけ」
慰めになってない言葉を翔ちゃんにかける。
翔ちゃんは諦めて速度制限を守って走り始めた。
嬉しかった。
最初は険悪なムードだったのに少しずつ翔ちゃんに気持ちが伝わっていくのを感じた。
それはまるで優しい春風を浴びるように。
少しずつ仲良くなれたらいい。
付き合い始めたきっかけなんて何でもいい。
そこから少しずつお互いを理解することが大事なんだ。
想いを伝えていくのが大事なんだ。
その事を学んだ一日だった。
(5)
「お疲れさまー」
誠がコップを上げて言う。
僕達はファミレスにいた。
僕はいつものメニューを頼む。
皆もそれぞれメニューを頼む。
「4人はどうだった?楽しかった?」
愛莉が4人に聞いていた。
「まあ、悪くなかったです」と如月君が言う。
「楽しかったです。ありがとうございます」と朝倉さんが言う。
「色々あったけど楽しかったです」と高槻君が言う。
「悪くは無かった」とちぃちゃんがいう。
「まあ、最初はそんなもんだよ。これから渡辺班で色々していくから覚悟しとけ」
カンナがにやりと笑って言う。
「あ、来週末と祝日は空けとけよ。新歓と合宿やるから」
「合宿?」
ちぃちゃんが聞く。
「渡辺班毎年恒例の行事だよ」
カンナにそう言ってにやりと笑う。
今年の犠牲者は如月君か……。
「楽しいよ~楽しみにしててね!」
僕は敢えて何も言わない。
誠も石原君も黙っている。
まあ、僕達は平気だけどね。
「誠はサッカー大丈夫なのか?」
僕は誠に話題を振った。
「俺は平気だよ。後は調整だけしてる感じ。監督も無事に地元チームに送り出せるように協力してくれてるし」
「それよりトーヤだろ?お前今月の強化試合にも呼ばれなかったんだって?」
カンナが聞いてきた。
「……来月の李相佰杯には呼ばれてるよ」
「そうか!でも久しぶりの試合で大丈夫か?勘が鈍ってないか?」
「今調整中」
「そうか……ならいいんだが……」
カンナは険しい表情をしている。
「カンナどうした?」
「いや、お前の目標もあと少しなんだなと思うとな……」
「目標ってなんですか?」
高槻君が聞く。
「冬夜君の夢はね~。金メダル取ってバスケット引退する事なの~」
「まじで!?そんな勿体ない事するんですか!?金メダルまでとって引退なんて信じられない!」
「皆を納得させるにはそのくらいしないと駄目だと思ったからだよ」
「なるほど……それができたら最高にカッコいいですね」
高槻君が震えている。
「遠坂さんは止めないんですか?プロからもスカウト来てると聞きましたけど」
「冬夜君が本気で頑張ってる事だから応援するだけだよ~」
ちぃちゃんが聞くと愛莉が答えた。
「片桐君がバスケ引退するのはいいけど、就職先決めてるの?いい加減決めないとまずいんじゃなくて?」
「うん、今探してるんだけどね……。なかなかみつからなくて」
やはりユニティの悪評が妨害してるらしい。
「何ならうちの会社で雇うわよ。望の入る会社に入ったらいいわ」
「僕よりカンナも就職先探さないとだろ?」
「私は決めたよ」
「え?」
皆が驚く。
「どこに行くんだ?」
「まだ応募しただけだけどな。デパートの案内係。書類選考は通ったみたい」
「マジかよスゲーな」
お前が知らなかったことの方が凄いと思うぞ誠。
「と、いうわけでトーヤお前だけだぞ決まってないの」
カンナが言う。
「まあ、じっくり選ぶと良いわ。卒業間近まで。私の会社という保険はあるんだから」
一応面接だけ受けときなさい。どうせ出来レースなんだから。と恵美さんが言う。
「まあ、考えておくよ」
そう考えた方が気が楽か。
そんな話をしながら、僕達は夕食を食べ終えると家に帰った。
「う~ん……」
「どうした愛莉?」
家に帰って二人ともシャワーを浴びて酎ハイを飲みながら愛莉が悩んでいる。
「冬夜君てさ、逃げてる様で実はすごい戦ってるよね?」
へ?
「だってサッカーもバスケも就職も楽しようとしたらいくらでもできるのに敢えて難しい所に挑んでる」
「そのくらいしないと他の人に不公平だろ?」
「そんな才能あって利用しない方がずるいよ」
「才能だけじゃないよ、才能だけだと限界ある」
「他に何があるの?」
僕は愛莉を指差す。
愛莉は不思議そうに僕を見る。
「愛莉って言う幸運の女神がいるからね。それ自体が反則だよ」
えへへ~と笑う愛莉。
「じゃあ、その幸運の女神に何かしてくれてもいいんじゃない?」
愛莉が抱き着いてくる。
「そうだな、ちゃんとケアしてやらないとな」
「わ~い」
「ただし、もうちょっとまって。まだ飲み終わってない」
「は~い」
愛莉はそう言うとベッドに先に入る。
酎ハイを飲み終えると僕も照明を落としてベッドに入る。
春の息吹の香りに愛莉を感じながら僕は歩いて行く。
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