酔恋花

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酔恋花

(1) 帰り道、今だにすすり泣いてる伊織。 あんな伊織初めて見た。 伊織の気持ちにやっと気づいた。 同時に情けなく感じた。 どうして気づいてやれなかった? 伊織がこんなに可愛く成長していた事にも気づかなかった。 伊織は真面目で運動神経も抜群で僕なんかにはもったいないくらいだ。 だから伊織といると惨めになる。 それでも伊織は恋愛の対象外だった。 見た目で判断していた。 でもそれもこの前覆された。 十年近く一緒にいて気づいてやれなかった。 渡辺班に入って何もかもが変わっていった。 負けるもんか! 僕も頑張って伊織に相応しい男になるんだ。 そう気負っていた。 それが裏目に出たらしい。 何をやっても駄目な僕。 伊織といると現実を見せつけられる。 だから伊織を遠ざけていた。 だけどさっき店で伊織の話を聞いて打ちのめされる。 僕のやっていたことは間違っていたのだろうか? 帰り道にちょっと寄り道する。 夜景の綺麗なスポットだ。 「着いたよ伊織」 「ここ……どこ?」 「夜景スポット?」 「え?」 驚く伊織。 コンビナートの灯す灯が綺麗な場所。 伊織は見とれていた。 「綺麗……」 伊織は泣き止んでいた。 「伊織……さっきはごめん」 「え?」 「伊織にひどい仕打ちをしてしまった。反省してる。伊織はこんなに僕に優しくしてくれたり努力してるのに僕は何もしてやれない」 「翔ちゃんは十分してくれてるよ。私なんかと付き合ってくれてる」 付き合ってるうちにはいっているのだろうか? 「翔ちゃんは確かにダメなところがいっぱいある。でもそれもひっくるめて好きなの」 「本当に僕なんかでいいの?」 僕なんかより良い男はいっぱいいる。 渡辺班の女性は皆言ってた。 けれど伊織は言ってくれる。 「私の中では翔ちゃんが一番なの」って。 「翔ちゃんがいるから今の私がいるの」って。 「私の方こそごめん、取り乱してしまって」 「気にするなよ。悪いのは僕なんだから」 「悪いと思ってるならやりなおせばいい。いくらでもやり直す機会はあるんだから。私達付き合ってるんだよ」 伊織はそういう。 そんな伊織に僕は劣等感を抱く。 初めてだ、こんな気持ちに気づかされたのは。 そしてこんな僕を受け入れてくれたのは伊織が初めてだ。 伊織は窓に映る景色を堪能していた。 「翔ちゃんこんな場所よく知っていたね?」 「先輩に聞いたんだ。綺麗な場所があるって」 「そうなんだ」 「なあ、伊織?」 「どうしたの?」 「本当に僕でいいのか?」 「翔ちゃんだからいいんだよ?」 伊織はそう言って笑っていた。 「私より皆に謝った方が良いよ」 「そうだな」 僕は渡辺班のメッセージに「さっきはすいませんでした」という。 「今更過ぎたことをうじうじいうな。お前はもう徹底的に教育決定なんだから!」と返ってくる。 そんなメッセージを見て伊織は困っていた。 「僕合宿行くよ。伊織に相応しい男になってみせる」 「だから、そんな必要ないのに」 伊織は笑って言ってくれる。 「そろそろ帰ろうか?もうこんな時間だし」 時計を見て僕は言う。 「うん、今日はありがとうね」 些細な事で感謝してくれる伊織。 伊織を家に送って伊織は車を降りる。 「じゃあ、またね」 そう言って伊織は家に帰っていった。 僕も家に帰る。 返って風呂に入ると頃合いを見て伊織に電話をかける。 「もしもし?どうしたの?」 「いや、なんとなく話がしたくてさ」 夜遅くまで二人で話をしていた。 もつれた糸を解くように。二人の間を取り戻していく。 これからさきもやっちゃうかもだけど、渡辺班がきっと僕を変えてくれる。 その時僕から伊織にちゃんと自分の気持ちを打ち明けよう。 (2) 「翔太の奴もショックだったんだろうな」 美嘉さんが言ってる。 「まあ、あそこまで必死になって自分をかばってる彼女を見たら誰だって変わるよ」 僕は言う。 「荒療治ってやつか?」 渡辺君が言う。 「そうかもね?」 「でもこの際徹底的にしごいた方が良いわね」 恵美さんが言う。 「それも手かもね」 僕が答える。 でも彼も本当は気づいてるはずなんだ。自分に足りないものを。だからこんなメッセージを送ってきたんだろう。 「お客様そろそろラストオーダーのお時間です」 店員がそう言うと各々ドリンクを頼む。 「2次会に来れる人?」 渡辺君が聞く。 「今日は朝まで飲むっす!」 晴斗は言う。 「私も晴斗に付き合う」 白鳥さんも言う。 公生と奈留以外は2次会に行くという。 カンナが電話している。 この人数を収容できる店なんて限られている。 カンナがあらかじめ貸し切りにしてもれるように頼んでいたらしい。 店を出ると公生と奈留に「じゃあ、また合宿で」と伝えた。 「うん、またね」 そう言って公生と奈留は駅の南口に向かう。 「じゃ、皆ついて来てくれ」 カンナがそう言うと30人後半の人数が群れを成して歩いて行く。 店に着くとカンナの母さんが迎えてくれた。 「いらっしゃい、今日は貸し切りだからゆっくりしていってね」 カンナはカンナの母さんの手伝いをしている。 「はい、冬夜君はロックだよね」 愛莉がウィスキーを注いでくれる。 二次会が始まった。 (3) 「今日は楽しかったね」 公生が言う。 「そうだね」 最初ちょっとしたトラブルがあったけど。 あんなに感情を露にする人初めて見た。 「大きくなったら僕達も酒を飲もうか?二人っきりで」 「そうね」 「取り乱した奈留を見てみたい」 「絶対そんな事無いから」 多分大丈夫だと思う。 「あの二人大丈夫かな?」 私は話題を変えてみた。 「大丈夫なんじゃない。片桐君が大丈夫っていうくらいだし」 「……そうね」 私達が口を挟む問題じゃない。 二人で解決していく問題だ。 あの二人ならそれが出来る。 片桐君はそう判断したんだろう。 家に帰るとシャワーを浴びる。 そして部屋でテレビを見てる。 深夜の音楽番組。 あまり興味が無かったけど他に見たいのもないしそれを見てた。 公生も戻ってきてテレビを一緒に見る。 途中でテレビを切ってベッドに入る。 照明を落すと眠りについた。 爆音に怯えていた過去は無く今は風の音と車の音がするだけ。 平穏な夜を過ごしていた。 (4) 「あれ?これ美味しい?」 「そうだろ?じゃんじゃん飲め!」 そう言ってドリンクをちぃちゃんに勧めるカンナ。 「千歳、ほどほどにしとけ……」 誠が言うも。 「いいじゃねーか!?こういうのは早いうちに慣れておいた方が良い!」 そう言ってカンナはじゃんじゃん飲ませる。 30分もすればちぃちゃんはふらふらになっていた。 「よし、ここからが本番だな!」 「そうだな、この二人しか今日の酒の肴がいないからな!」 カンナと美嘉さんは狙っていたようだ。 「千歳さん大丈夫か?」 高槻君が心配してるが二人は全く意にも介してない。 「まずは高槻の事をどう思ってるかだな!」 「どうなんだ?ちぃちゃん」 美嘉さんとカンナがちぃちゃんに質問攻めする。 「どうって言われてもまだよくわかりません?」 「そうか……まだ恋をしてないのか?」 「千歳は恋愛経験は?」 「したことが無い。兄ほどの男に出会ったことが無いし」 誠が理想の男なのね。 その後も美嘉さんとカンナの質問は容赦なかった。 「千歳も合宿で教育だな!女としての心構えをおしえてやらねーと!」 「千歳に変な事吹き込まないでくれ」 「冬夜君に変な事吹き込んでる誠君が言っても説得力ない!」 愛莉が話に混ざる。 他の皆も懐かしい顔ぶれにあって話が盛り上がっていた。 「咲良さんは来月から同棲なんですか?」 「そうなんですよ~。未来さんはしないんですか~?」 「私もそうなんです。来月引っ越そうと思って」 「一緒ですね~」 「そうだね」 それを聞いてる、檜山先輩と椎名さんも話していた。 「住む場所は決めてるのか?」 「ああ、会社の近くのマンションにしようと思って」 近いと便利だしねと椎名さんは言う。 「俺は私立大近くのアパートにしました。咲良も学校に近い方が良いだろうし」 駅もそばにあるから通勤楽だしと檜山先輩は言う。 「ところで冬夜は地元銀行には来ないのか?」 「うん、やっぱり太陽の騎士団に喧嘩売ったのがまずかったみたい」 「そうか……でも神奈さんはデパート書類選考通ったんだろ?」 「カンナは見た目が綺麗だから……」 ぽかっ 「うぅ……お嫁さんの前でそう言う事言いますか?」 愛莉が聞いていたらしい。 「愛莉は僕にとって一番だから心配しないで」 「わ~い」 「そろそろ閉店時間なんだけど……」 神奈の母さんが言った。 「じゃあ、3次会だな!」 美嘉さんが言う。 「この時間でこの人数だともうカラオケしかないな」 渡辺君が言う。 「来れる人いるか~?」 「俺達はそろそろ失礼します。聡美が限界だし」 真鍋夫妻と丹下夫妻は帰るらしい。 「ちぃちゃん大丈夫なのか?」 「ちょっともうふらふらみたいですね。帰った方が良いかも」 「私は平気だよ~」 「母さんに見つかるとあれだから、カラオケで酔いを醒ました方が良いかもしれない」 誠が言う。 僕達はカラオケに移動した。 カラオケでは亜依さんと美嘉さんとカンナと晴斗達が歌ってる。 晴斗はヒップホップ系の歌が得意らしい。 白鳥さんとデュエットもしていた。 僕達も愛莉とデュエットで歌う。 「冬夜がバスケ招待されてないなら前半の3日間で問題ないな?」 渡辺君がいう。恐らく合宿の日程だろう。 「僕達は問題ないけど」 後半の四日間は愛莉に構ってやろう。デート行きたいって言ってたな。 どこに連れて行ってやろうかな。 檜山先輩と椎名さんは木元先輩たちと話をしていた。 きっと新婚の心構えとかそんな話だろう? 女性陣も未来さん達に色々レクチャーしていた。 そんな女性陣を羨ましそうに見る愛莉。 「ごめんね」 「大丈夫だよ~」 そんな僕達を見たカンナがやはり弄ってくる。 「だからトーヤはうだうだ言ってねーでさっさと結婚しろと言ってるだろ!」 「冬夜君に任せてあるから平気だよ~」 「まあ、冬夜に任せておけばいいだろ。絶妙なタイミングでプロポーズするさ」 「だからプロポーズする意味あるのか?愛莉は結婚したいって言ってるんだぞ」 「そこは男としてケジメつけたいんだろうさ」 渡辺君が間に入ってくれる。 宴は朝まで続いた。 カラオケ店をでると朝陽がまぶしい。 始発のバスに間に合いそうだ。 皆も始発で帰る人。 晴斗と白鳥さんは晴斗の家に泊まるらしい。 椎名夫妻も今日は椎名さんの家に泊まるそうだ。 「それじゃお疲れ様でした」 渡辺君がそう言うとみんな解散する。 駅前までぞろぞろ歩いてそして電車組と別れた。 高槻君とちぃちゃんは車で帰っていった。 バスに乗ると眠気が襲ってくる。 「冬夜君寝ててもいいよ?私が起こしてあげるから」 「いいよ、愛莉一人じゃ退屈だろ?話し相手くらいにはなるよ」 「うれしいな~。じゃああのね~……」 愛莉の話し相手になりながらバスは進む。 停留所で降りると家まで歩いて帰る。 家についたら、シャワーを浴びてテレビを見てる。 愛莉が戻ってくるとベッドに入って眠りにつく。 「ねえ、冬夜君?」 「どうした?」 「冬夜君が就職決めない理由考えたんだけど」 「うん」 「私の分も稼ごうと思って無理してない?」 「そんなことないよ」 「私も働きに出るって手もあるんだよ?」 「働いて愛莉に家事も任せて、愛莉に倒れられたら愛莉のお父さんに合わせる顔が無いよ」 それにそれなりに貯えてあるから心配しなくても大丈夫だよ。と愛莉に言う。 愛莉の容赦ない履修科目のお蔭で資格も取れたし心配いらないよと愛莉に言う。 「それならいいんだけど……」 愛莉は悩んでいる。 「いざとなったら恵美さんの会社のお世話になるから大丈夫だよ」 「そっか~そうだよね」 愛莉は安心したようだ。 「いよいよ連休だね」 「愛莉行きたいところないか?」 「う~んどこでもいい?」 「いいよ」 「じゃあね~……夢の国」 「就学旅行で行ったのに?」 「あの時あまりアトラクションで遊べなかったから、それに海の方も行ってみたいし」 「わかった。予約取っておくよ」 「うん」 「じゃあ、寝よっか」 「そうだね」 そう言って愛莉は眠りについた。 その間にスマホで予約を取る。 ぽかっ 「寝るって言ったじゃない」 「予約だけでも入れとかないと」 連休だから早いうちに入れた方が良いだろ? 「うぅ……じゃあ私も見る」 「ああ、いいよ」 「うん!」 そうして愛莉と夢の国のパスポートを手に入れて、眠りについた。 その前に合宿がある。 春の温かさを感じながら、愛莉の温もりの心地よさを体感していた。
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