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静かなる決意
(1)
「冬夜君おはよう朝だよ」
愛莉が体を揺すってくる。
僕は起きると着替えを始める。
日課を済ませるとシャワーを浴びる。
愛莉はその間に朝食の準備。
朝食を食べると愛莉はシャワーを浴びる。
その間にコーヒーを入れて部屋に持って行く。
今日は連休初日。
今日から渡辺班の合宿も始まる。
愛莉も戻ってくると急いで髪を乾かして仕度をするとカフェオレを飲む。
「う~ん……」
「どうした?」
「そろそろ買い替え時かなと思って」
愛莉はマグカップを見てそう言った。
「今度夢の国に言ったら買おう」
「そうだね!」
愛莉の悩みを一つずつ解消してやるのも僕の役目。
愛莉はマグカップを持って部屋を出ると僕も一緒に部屋を出る。
愛莉が仕度してる間に荷物を車にのせる。
冷蔵庫があるんだからと二日分食材を分担して持って行く。
結構な荷物だ。
それでも二日目に飲み物とか買い出しに行くんだろうなと思いながらも荷物を積み終わった。
愛莉も支度が済んだらしい。
母さんたちに挨拶すると、僕達は出発した。
例年通りいつものコンビニで待ち合わせする。
先に来ていたのは晴斗達。
そして最後に来たのは如月君達。
朝倉さんが必死に謝っていた。
しかし理由を聞くとやっぱり遅刻の原因は如月君にあった。
しかし今日は女性陣は怒らない。
理由は明日になれば分かる。
先頭を石原夫妻と公生と奈留が行って、最後の僕達が後を追う形になった。
山を登り始めると男性陣は憑りつかれたかのようにスピードを上げる。
僕は付き合ってられないとのんびりマイペースで進んでいる。
そしてしばらく進んでいるとハザードランプをつけて待っている車がいる。
如月君達が迷ったらしい。
先に行くからゆっくりついておいでと言うと如月君達の前を進む。
ルームミラーで如月君達が来るのを確認しながら進む。
大幅に遅れて僕達は宿泊施設についた。
今年も男女二つずつの4つの部屋に分かれて過ごす。
皆既に昼食の準備は出来上がっていた。
それを食べると午後は自由時間となる。
僕と佐(たすく)と高槻君は体育館でバスケの練習。
他の皆も自由に行動する。
如月君達と石原夫妻、公生達は近くをドライブしてくるという。
高槻君にも行けば良いのにと言ったのだけど「春季大会まで時間が無い、先輩たちが練習すると言うなら自分もする」と言う。
「今からそんな事言ってると千歳ちゃんに愛想つかれるぞ?」
佐が言う。
そのちぃちゃんはというとマネージャーの仕事を佐倉さんから学んでいる。
愛莉は僕の練習風景を見てる。
「そんなものなんですかね……?」
高槻君がシュート練習をしながら言った。
「何事も最初が肝心て言ってな。……お前今まで彼女は?」
「居ました。けど、部活が忙しくて彼女に構ってられなくて……」
「そうなるんだよ。今のうちに遊んでおけ?連休明けたら練習の日々が始まるんだから」
「じゃあ、そうします。おーい千歳さん」
高槻君に呼ばれてきょとんとしてるちぃちゃん。
きっとデートに行く約束でもしてるのだろう。
しかしある意味ちぃちゃんの方が難しいかもしれない。嫌いではないけど好きでもない。何とか恋愛に興味が湧いた程度だ。
けどそれより。
「佐はいいのか?佐こそバスケ漬けで佐倉さんの相手してないだろ?」
「俺は良いんだよ、桜子がバスケ馬鹿だから。バスケで相手してやるのがちょうどいいんだ」
「佐聞こえてるよ!!」
佐倉さんが叫んでる。
「別に聞かれて不味い事言ってねーし。それとも何か?デートでもして欲しいのか?」
「もっと普通に誘ってくれたっていいじゃない!」
……誘って欲しいんだね。
「わーったよ。後半一日オフにしてどこか行くか?」
佐倉さんは悩んでいるようだ。
悩む事なんかないのに。
あ、そうか。
「愛莉、僕達も練習やめてちょっとそこらへんで時間潰さないか?」
「うん、わかった~」
「ちょっと片桐先輩クールダウンちゃんとやっとかないと」
「分かってる。じゃあ、愛莉着替えてくるから外で待ってて」
「は~い」
愛莉は僕の意図を察したらしい。
単に僕が誘ったから喜んでるだけかもしれないけど。
僕は着替えると、愛莉と体育館を出た。
「冬夜君も気が利くようになったんだね」
意図を察したらしい。
「僕達に遠慮してるみたいだったからね」
「今更遠慮しなくてもいいのにね?」
「そうだよな」
僕も愛莉も笑顔だった。
「で、どこに連れてってくれるの?」
「愛莉はどこ行きたい?」
「展望台」
「わかった。じゃあ車にいこっか?」
「うん」
僕達は車に乗ると展望台に向かった。
(2)
「わーったよ。後半一日オフにしてどこか行くか?」
佐が誘ってくれた。
これじゃ私が誘ってくれって頼んだみたいじゃない。
「愛莉、僕達も練習やめてちょっとそこらへんで時間潰さないか?」
片桐先輩まで気を使わせて。
佐は私の返事をニコニコ笑って待ってる。
あまり待たせても悪いかな?
素直になれない自分に嫌気が指す。
「後半忙しいって言うなら別に無理にとは言わないけど」
「そんな事は無いけど……」
「けど?」
「私が佐の足引っ張ってるんじゃないか?って不安になるの」
本音を語ってみた。
だけど佐は笑ってる。
「一日や二日休んだくらいでどうにかなるもんでもないだろ?」
「遊んでる最中に怪我でもしたら」
事故にでも巻き込まれたら取り返しがつかない。
春季大会まで一か月しかないんだよ。
佐は私の隣に来て座ると、私に座るように言った。
「こう見えても俺の高校時代バスケ部のエースでな。そりゃモテたもんよ」
自慢話?
「でも、高槻と一緒だよ。一個下に凄い奴が入って来てな。負けるもんかとバスケ漬けの毎日を過ごしてた。絶対にレギュラーは渡さないって意気込んでた」
「……それで?」
「そんな俺に愛想が尽きたのか突然別れようって言われてな。でもあんまりショックじゃなかった……でも」
「でも?」
「最後のインハイ予選で負けてこれで俺の高校時代は終わったんだなって思った時にふと見ると周りに誰もいなくてな。そりゃつらかったぜ」
「佐でもそんなことあるんだ」
「まあな、だから次の彼女は大事にしようって決めてるんだ。バスケよりも大事なものがあったんじゃないかって思えてな」
「佐……」
「まあ、それでもまた大学に入ってバスケ漬けの毎日を過ごしてたんだけどな。冬夜が入ってきてまた焦ったよ。桜子がいなかったら今の俺は無いと思う。多分故障したまま無理して一生を棒にしてたかもしれない。だから桜子は大切にしたいんだ」
佐の顔は真剣だった。
「私も人の事言えません。人に自分の期待を押し付けて無理矢理背負わせて。自分の夢に必死で恋愛なんて考えてなかったから。だから上手に甘えられなくて」
「わーってるよ。そんな桜子と思い出を作りたいと思ってる。大学最後の年だしな」
「佐は進路決めてるの?」
「ああ、春季大会の結果次第だけどな」
「……我儘言ってもいいですか?」
「ああ、何でも言ってくれ」
私は思い切って自分の欲求をぶつけた。
「4連休佐の家で過ごしたい」
「いいのか?」
「だめですか?」
「そんなことねーよ」
「楽しみにしてますね。じゃあ、もうちょっと練習していきませんか?」
「デートはいいのか?」
今の状況見てよ。周りを見て。今私と佐以外に誰もいないよ。
「……佐が初めての交際相手だから上手く分からないけど二人で何かをしてる事ってデートになりませんか?」
「わかったよ」
想いが通じたようだ。
その証拠に佐は笑ってる。
そうして夕方まで佐の練習に付き合っていた。
(3)
「やっぱり車こんでるね」
翔ちゃんは無言だ。
またイライラしてるのかな?
「来て後悔してる?」
「そんなことないよ」
じゃあ、どうして何も言わないの?
「渋滞もフラワーパークを抜けるまでだよね?」
「そうだね……」
「いやな気持ちもきっと一時的なものだと思うんだ。」
どうしたの?急に……。
「渋滞を抜けた後の先の解放感みたいなものもあるのかな?ってさ……」
「それは何に対して?」
翔ちゃんは私を見る。
「伊織に対して」
私翔ちゃんを嫌な思いにさせてる?
私何かドジしちゃった?
「わ、私何か翔ちゃんに嫌な事しちゃった?」
「逆だよ伊織。僕が伊織に嫌なことしてるんじゃないかって話」
「そ、そんな事無いよ」
「そんな誤魔化さなくてもいいよ。自覚くらいしてる。嫌な気分になるんだ」
やっぱり私が翔ちゃんに嫌な思いさせてるじゃない。
フラワーパークの入り口を抜けると道は空いていた。
爽快に駆け抜ける私達。
目的地の展望台まであっという間だった。
高原独特の解放感ある絶景は心も開放的にさせる。
翔ちゃんと来てよかった。
こんな気持ちになれるんだから。
「思ったより何もないね?」
つまらなそうな翔ちゃん。
展望鏡で眺めると馬や牛が見える。
翔ちゃんにも見せてあげる。
やっぱりつまらなさそうにしてる翔ちゃん。
……せっかくここまで来たんだから。
「翔ちゃん写真撮ろう?」
「別にいいよ、そんな特別な場所でもないだろ?」
それを特別な場所にしていくんじゃない。
自撮りで上手く撮ろうとするも上手くいかないところに声をかけられた。
「撮ってあげようか?」
遠坂先輩と片桐先輩だった。
遠坂先輩にスマホを渡して撮ってもらう。
「もっとくっついて~」
無理難題を言う遠坂先輩。
遠坂先輩の目が「がんばれ!」って後押ししてくれる。
私は思い切って彼の肩を掴み屈んで頬をくっつける。
パシャッ
「ありがとうございます」
私は遠坂先輩からスマホを受け取る。
「待ってよ!」
翔ちゃんが遠坂先輩たちを呼び止める。
「どうしたの?」
「折角だから僕のも撮ってよ」
「……いいよ~」
翔ちゃんがスマホを遠坂先輩に渡す。
「じゃあ、さっきみたいにくっついて……はい、チーズ!」
パシャッ
「ありがとうございます」
「もうそろそろ時間だから戻った方が良いよ~」
遠坂先輩たちはそう言って去っていった。
「帰ろうか?」
翔ちゃんが言う。
「うん」
なぜだろう?あんなに嫌がっていたのに普通に手を繋いでくれた。
これが嫌な気持ちをくぐり抜けた後の解放感ってやつなのかな?
こんな気持ちを味わえるならどんな苦境も乗り越えてみせる。
でも、運転中に手を握るのは止めようね?
この車MTだよ?
(4)
渋滞を抜けるとドライブインまでは快適に行けた。
そこで千歳さんは休憩する。
俺も今のうちにとお土産屋を散策する。
スマホが鳴る。
「いまどこ?」
千歳さんからのメッセージ。
「お土産屋さん」
「じゃあ、私車で待ってる」
急いで車に戻る。
「おかえり、早かったね?何か買ったの?」
「特に、お菓子とか買ってもしょうがないしね」
「だと思った。そろそろ時間だよ?帰ろう?」
「そうだね……帰ろうか」
車を発進させる。
「綺麗……」
千歳さんは景色を見てそう漏らした。
確かに青と緑の交わる景色は綺麗だった。
後は特に何もなく車を宿泊施設に向けるだけ。
千歳さんと二人きりになるとどうしても無言になってしまう。
彼女は景色に夢中になってるようだ。
「ここに来るのは初めて?」
「昔家族で来たことある。兄はつまらなさそうにしてた思い出がある。だから高槻さんもつまらないんじゃないかって」
「まだ小さかったんだろ?」
子供の頃には分からないかもしれない。この景色のすばらしさが。ただ退屈な思い出。
「兄はどこに行ってもつまらなさそうにしてた。私は兄と一緒に遊べるだけで嬉しかったのに。私は男の人にとってつまらない存在なのかな?って思った」
「そんなことないよ、少なくとも僕は今楽しいよ」
「どうして?」
「それは、彼女と二人きりでこんな素敵な場所をドライブしてるからだよ」
「それが好きってことなの?」
「多分そうじゃないかな?」
「じゃあ、私も高槻さんの事好きなのかな?楽しいし」
そう言ってもらえると嬉しいよ。
「俺も千歳さんと一緒でさ……」
「?」
「高校時代はバスケ一筋で彼女に振られた。バスケ一筋なのは後悔してない。それなりに楽しかったし。でもやっぱり悲しかったかな?」
「今では後悔してる?」
「言ったろ?後悔はしてないって。それでいいんだと思ってた。千歳さんに声をかけたのは本当に直感なんだ。この人ならって」
「私は中学高校と交際相手なんかいなかった。誰にも相手にされてなかった。だから今でも実感わかない」
「僕が実感させてあげるよ」
「どうやって?」
「内緒?」
千歳さんはちょっと悩んでいた。
そんな千歳さんを見て俺は笑う。
千歳さんは不思議そうに俺を見る。
そうか、初めてなのか。大切にしてあげないとな。
(5)
「公生来て来て!すっごい眺め良いよ~」
あんなにはしゃいでる奈留を見たのは久しぶりだ。
「ありがとうね、石原君」
「どういたしまして」
「奈留があんなに楽しそうなの久しぶりに見るよ」
「ならあなたも楽しそうにしなさいな」
恵美さんが言う。
あんな風にうまく喜びを表現する方法を忘れてしまった。
もっと奈留みたいにはしゃいでもいい年頃なのにいつからだろう?今のようになってしまったのは。
奈留は写真をとったり展望鏡をのぞいたりお土産をみてまわったりとにかく元気だった。
「公生も一緒に選んでよ」
奈留が呼ぶので僕も一緒に選ぶ。
キーホルダーが主だった。
後はどこでも売ってるようなお菓子に玩具。
結局何も買わなかった。
奈留も特に気になるものがなかったらしい。
景色を背景に奈留の写真を撮ってやろうとすると石原君が「僕が撮るから公生も入って」と言う。
写真を撮ると石原君が「そろそろ時間だよ」という。
宿泊施設に戻る間奈留は僕の方にもたれかかって眠っていた。
「余程楽しかったんだろうね」
石原君は奈留を見て笑う。
「去年の今頃は大変だったから」
「もうあれから一年経つのね」
恵美さんが遠くを見るような目で言う。
「一年も経つんだから公生もいい加減忘れたほうがいいよ。もう二度と縁のない世界なんだから」
「そうだね」
「そういえば公生の両親は何してるの?」
「調べてないの?」
「戸籍すらなかったのよ。調べようがないじゃない」
そうか、高橋グループが手を回してたんだね。
「両親はいたよ。今はいない」
「死別?」
恵美さんが聞いたらいけないことを聞いたような顔をしている。
「そんなんじゃないよ。僕が勝手に家を出ただけ。その後高橋グループが僕の戸籍を抹消したみたい。親には交通事故で亡くなったと伝えてね。葬儀すらだしてもらえなかったよ」
「なるほど、それでうちの親が苦労してたのね」
戸籍が無い僕を義務教育に戻すのは苦労したらしい。僕は今江口家へ養子として入れてもらってる。奈留も一緒だ。
「でも両親も両親ですね。捜索願やら出さなかったのかしら」
「親には多額の金が渡されたらしいよ、それこそ一生遊べるくらいの金を」
二人とも言葉を失っていた。
両親はその金に喜んだらしい。もともともっと真面目な優秀な子供を想像していただけにこんなすれた子供は煙たがっていたんだろう。
「公生、私のせいだよね……ごめんね」
いつの間にか奈留が起きていたようだ。
「麗しの君に人生を捧げたようなものだ……何とも思って無いよ。それどころか将来を約束してくれた。こんなにうれしい事は無いよ」
あの家にいたら絶対に味わえないこの幸福感。
そうか、僕は今幸せなんだ。
自分の心境に納得していた。
だから、後悔も未練もない。あるのは充実感だけ。
親、高橋グループ、奈留、そして渡辺班の皆。
全てに感謝しよう。
そのおかげで今の僕はいるのだから。
(6)
宿泊施設に戻ると皆がもうBBQの準備を始めていた。
如月君も高槻君も手伝ったらしい。公生はテーブルを用意して奈留は一緒におにぎりを作っていたらしい。
皆の準備が整うと渡辺君が言う。
「それじゃ今日は一日ご苦労様!盛大に盛り上がっていこう!」
ここからは宴の始まり。
僕はひたすら肉を食う。
あ、おにぎりもちゃんと食べてるよ。
お酒もちゃんと飲んでる。
皆それぞれのパートナーと話しながら、また仲間内で集まりながらわいわい騒いでる。
「ほれ、肉は沢山あるからなじゃんじゃん食え!」
美嘉さんがビールを片手に肉を焼いている。
もちろん食べますとも!
ぽかっ
「冬夜君はもういいでしょ!」
「いや、まだたくさんあるそうだし……」
「いいの!」
「片桐先輩自覚してるんですか!?日本代表なんですよ!少しは食事バランス考えて!」
佐倉さんと愛莉に阻まれて肉がとれない。
「とーや、遠慮するな食え食え!」
美嘉さんが絶妙のパスを出してくれた。
肉を受け取ると食べる。
「肉だけじゃない!焼きそばもハンバーグもあるからな!」
それは頂かないといけないな。
次々と足されるメニューを余すことなく食べ続ける。
その都度愛莉と佐倉さんから注意を受けるのだが……。
佐はなにやってるんだ?
自分の彼女放っておいて。
「佐!佐倉さんの相手してやれよ!」
「今はお前の管理で忙しいからダメだってよ」
管理されるべきは佐だろ?
佐もかなり飲んでる。
「佐!見てないと思ったら大間違いだからね!飲み過ぎだよ!」
「固い事言わないで佐倉も飲めよ」
そう言って佐は佐倉さんにビールを手渡す。
「そうだぞ佐倉、こういう時は盛り上がっとくもんだ!」
「神奈先輩たちはいつも盛り上がってるじゃないですか!」
「いいんだよ。休みの間くらい盛り上がっていこうぜ」
カンナが佐倉さんを説得してる間に僕はチーズハンバーグに手を伸ばす。
ぽかっ
「冬夜君は飲むか食べるかどっちかにしなさい!」
愛莉に怒られた。
「愛莉も食べなよ。美味しいよこの肉」
「うぅ……もうお腹いっぱいだよ」
「んじゃ飲もう」
「だからお腹いっぱいだってば!」
愛莉の機嫌はあまりよろしくないらしい。
じゃあ、しょうがない。
「じゃあ、ちょっと運動しようか?」
「ほえ?」
「皆ごめん、ちょっと一回りしてくる」
「冬夜!照明が無いからって野外はまだ寒い……いてぇ!」
「この馬鹿が!ちぃちゃんの前でなんてこと言うんだ!?」
「ちぃだってそろそろそういう年頃だろ!?」
「余計な事は教えなくていい?」
そんな誠とカンナを放っておいて僕達はちょっと外を歩いて行った。
懐中電灯の明りだけを頼りに敷地内を散歩する。
「どうしたの急に?」
「こうでもしないと二人きりになれないだろ?」
「ほえ?」
よく分かってないらしい愛莉と手をつなぐ。
愛莉は意味を理解したらしい。
僕の腕にしがみ付く。
「こっちのほうがいい~」
「そうか」
「ねえ?冬夜君?」
「どうした?」
「気づかなかった?」
「何を?」
「伊織と如月君」
「ああ」
ちょっと壁が薄れてきてたね。
あの分だと早く片付きそうだ。
やっぱり問題はちぃちゃんだな。
まだやっと興味を示しただけの世界。
でも、高槻君なら上手い事やってくれる。
「やっぱり渡辺班は幸運をもたらすグループだね」
「そうだな」
僕には愛莉がついているだけでいいけど。
一回りして戻ってくると片づけが始まっている。
僕と愛莉も手伝う。
今夜はまだ始まったばかりだ。
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