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目覚め
(1)
「とりゃあ!」
「うわぁ!」
バタン!
亀梨君が思いっきり畳の上に投げつけられた。
僕達はそれを見守っている。
渡辺班の皆が通る通過儀礼。
「よし、次!!三沢君!」
軽く受け身を練習してからそこから公開処刑。
何度も投げつけられて鍛えられる精神。
女性に投げられてズタボロにされるプライド。
まずは間違った自信をへし折っていく。
そこから渡辺班の教育は始まっていく。
新人にとっては二日目の目覚めが悪夢の始まりだった。
何度も投げられて疲れ果て、それでも挑んでいく折れない心。
それを手にしたと確認すると次の人に変わる。
「次は……如月君だ!」
「僕もやるの!?」
渡辺班に例外は無いらしいよ。
「君は特別に鍛えてやれと言われているからな!まずは受け身だ」
だが、如月君の運動音痴は本物らしくて受け身の取り方すら危うい。
さすがに受け身を取れないと危ないと判断したのか如月君は災難を免れた。
「次は高槻君!」
高槻君は新條さんより体格は良かったがそんなの関係なしに何度も投げられる。
高槻君は下手に運動神経があったから、強引に投げられる。
一応来月末に試合を控えているのでその辺は考慮してくれた。と、いっても骨が折れないようにとかその程度だけど。
高槻君を投げ終える頃、一人受け身の練習をさせられてる如月君が呼び出された。
軽く投げられる如月君。
そこからが地獄だった。
関節技を極められ、絞められ苦しむ如月君!
「さあ、根性があるなら抵抗してみせろ!!」
しかしちょっとやりすぎたようだ。
彼はあっさりと気を失ってしまう。
「ちょっと寝せておいてやるとして……最後は公生だな」
「え?僕もやるの?!」
「なに、子供でも出来る。じゃあ、受け身から……」
公生は多少とも実戦経験がある為、軽々とこなしたがこなしたがゆえに新條さんが手加減を忘れてしまった。
公生の悲鳴は愛莉が「ご飯ができたよ~」と知らせるまで続いた。
心身ともにボロボロの5人。
「翔ちゃん少しでも食べた方がいいよ?」
「ごめん、食欲無い」
「まだ教育が必要?」
恵美さんが言うと慌てて食べ始める如月君。
ご飯を食べ終えると皆で片づけて石原夫妻と公生と奈留で買い出しに。
残った皆は新條さんのマナー講座を受けることになった。
僕達は去年受けていたからそつなくこなしたが、亀梨君達と高槻君、特に如月君は徹底的に教育された。
「君にはまずレディファーストということから教えないと駄目だな!」
容赦なく鞭を振るう新條さん。
それを満足気に見てる女性陣。
朝倉さんだけが止める様に新條さんに懇願していたが。
「あなたも他人事じゃない。その情けない根性を叩き直す必要がある」
「え?」
朝倉さんは如月君と共に文字通り鍛えなおされていた。
8人がボロボロになる頃石原君達が帰ってきた。
足りなくなったドリンク類と肉。その他諸々を買ってくる。
「新條どう?8人は鍛えられた?」
「今日のところは大丈夫でしょう。後は明日の実践ですね」
「そう?それは楽しみね」
新條さんと恵美さんは笑っていた。
石原君は苦笑いしていた。
公生と奈留は自分たちがいなくてよかったと安心していた。
「公生と奈留もまだ時間があるし受けておくかい?」
新條さんが言う。
「こ、公生そろそろお昼の準備!手伝ってくれるよね?」
「そ、そうだね。手伝わなきゃね!」
上手い事言い逃れる公生と奈留。
息はあってるようだ。
その事を確認した新條さんはそれ以上追及しなかった。
僕達もお昼の手伝いをする。
女性陣はメニューを考えている。
僕達はテーブルを拭いたりしている。
やがてそれぞれのパートナーが作業を始めると手伝いだす。
僕も愛莉になんかしようかと言うと……。
「冬夜君はテーブルに座ってて」
愛莉はにっこり笑ってる。
皆が忙しなく動いてる中一人ぼーっとその様子を見てる。
「だからなんでカレーにパイナップルを投下するんだ!未来!!」
「だって、酸味が肉を柔らかくするって書いてたし」
「何を見たんだ」
「漫画」
頭を抱える美嘉さん。
愛莉が僕に見ててといてる理由がわかった。
未来さんの指導に回って僕まで見てる余裕が無いから。
「君の彼女さんも大変だね」
丹下さんと椎菜さんがやってきた。
二人も邪魔だからと追いやられた口らしい。
丹下さんは海未ちゃんの行動をハラハラしながら見ている。
誠と渡辺君も戻ってきた。
カンナは海未ちゃんの、美嘉さんは全体の指揮で忙しいらしい。
その後も続々と男性陣は戻ってきた。
女性陣が20人もいればやることもなくなるだろう。
それぞれ話をしていたら、やっと女性陣から「配膳くらい手伝え!」と指示がくだった。
愛莉は僕のを特別に大盛りにしてくれた。
「その代わりそれ一杯で終わりだからね?」
「でも残ったら勿体ないだろ?」
「残らないように調整して作ったから大丈夫だもん」
「じゃあ、残ったら食べるよ?」
「他の人に分けてあげようね」
「他の人が食べれなかったら……」
「晴斗君が食べてくれるから大丈夫」
「いやしかし……」
「後がつかえてるんだからいい加減諦めろトーヤ!」
カンナに言われて渋々下がる僕。
皆の分が出来上がると皆で食べる。
いつもながら美味しい。
美嘉さんのスパイスの配合は日々進化しているらしい。
ちょっと辛いけどすぐに消えていく辛さ。
見事だった。
肉もヨーグルトにつけていたらしく凄く柔らかい。
昨日の夜の宴会の隙に漬け込んでおいたらしい。
「うぅ……」
愛莉が悩んでいる。
愛莉の目線の先には愛莉が食べかけのカレーが。
愛莉はこれ以上食べれないらしい。
「愛莉そのカレーもらってもいい?」
「しょうがないなあ」
愛莉のカレーを頂く。
皆カレーを食べ終わると片づけを始める。
広いとはいえ女性20人ほどが動き回っていると男性陣はやることが無い。
机の上を拭くと皆椅子に座って女性陣を見ている。
丹下さんと椎名さんは一服しに外に出た。
女性陣が片づけを終えるとお疲れと、肩を揉んでやる。
女性陣はそれだけで満足したようだ。
「今年の映画はなんだ?」
美嘉さんが聞く。
恵美さんが2枚のBlu-rayを取り出す。
一つは某有名会社のCG映画作品。もう一つは走り屋漫画の実車版。
走り屋漫画はは色々問題あると思うんだがまあ、いいや。
丹下先生達が戻ると僕達は視聴覚室に向かった。
(2)
俺達は食後の一服をしていた。
お互いの妻の事を言っていた。
もっぱら食事の事だが。
「俺はもう外食にしてますね。お金かかるけど命には代えられない」
「俺は海未には絵に集中してもらって自分で家事してる」
命を大事には言い過ぎだと思うが言わんとする意味は分かる。
「ところで教授やめたと聞きましたけど大丈夫なんですか?」
「まあ、他所から講義の依頼とかあるし、出版したりして生活はやりくりしてるよ」
海未の絵も高く買ってくれる人がいるしな。
「うちは共働きです。職場は一緒だけど」
「いいじゃないか」
「まあ、そうですけど。ヤッパリ身内贔屓したら悪いと思うから厳しくやらないとと意識してますね」
「大変なんだな」
「まあね」
「今週末にはもう引越し終わるんだって?」
「ええ、そのつもりです」
必要なものは既に買いそろえて椎名君が既に住み始めているという。
あとは未来さんが家財道具を持ってくるだけらしい。
夜遅くなった時はそのまま新居で夜を過ごしていたという。
来週にはいよいよ新婚生活か。
「昨日の夜話してたけどやっぱり海未ちゃんからも小言いわれるんですか?」
椎名君が聞いてきた。
「小言に入るのかな?『子供扱いしないで』と五月蠅くなってきてね」
自我の芽生えという奴だろうか?
「小言を言う未来が想像つかないんですよ」
椎名君が言う。
「最初はみんなそんなもんさ。さて、そろそろ戻ろうか?」
「そうですね」
俺達は食堂に戻る。
すると皆片づけを終えて待っていたらしい。
「これからみんなで映画鑑賞ですよ」
竹本が言う。
「わかった」
そう言うとみんなで視聴覚室に向かった。
(3)
映画鑑賞。
海外の有名CG映画だった。
よくあるお姫様のお話。
13年も閉塞的な生活を強いられていたら文句の一つも言いたくなるだろう。
私は20年間閉じ込められていた。
きっかけを作ってくれたのは檜山さん。
自由を与えてくれたのは晴斗。
私は変われた?
お礼がしたい。
だけど晴斗は現状で十分だという。
安息。
私にとっては大切な宝物。
晴斗にとって大切な物は私だという。
ならば私は晴斗の物になってあげたい。
晴斗のもとでならずっと閉じ込められていても構わない。
それは束縛ではなく絆だと誰かが言ってた。
本当は晴斗のもとで閉じこもっていたいんじゃない。
晴斗を閉じ込めておきたいんだ。
誰にも渡したくない。
晴斗は気ままに生きている。
そのうち私に飽きて他の人に心変わりするんじゃないか?
映画は終わった。
15分の休憩の後次の映画に移るという。
「おもしろかったすね」
晴斗が言う。
晴斗はあの映画を見てどう思ったのだろう?
晴斗に聞いてみた。
「真実の愛って興味あるっすね」
晴斗にも興味あるものだったらしい。
「私達も辿り着けるかな?」
「きっと難しいっすね?」
落胆。
晴斗は王子と同じ、興味本位で私に近づいていただけだというの?
「けど俺がきっとみつけてやるっす。俺が春奈に夏を見せてやるっす」
晴斗は自信たっぷりに言う。
私はうなずく。
本当は気づいてるはずなんだ。
真実の愛というものに。
「春奈今度行きたいところがあるっす」
「映画館?……『彼女と一度行ってみたかったところ』?」
「な、なんでわかったすか?」
そのくらい私でも分かる。
「いいよ、何かいい映画やってるの?」
「それはこれから探すっす」
晴斗と映画館のサイトを見る。
ハリウッドのCGをつかった特撮物シリーズを晴斗は希望していた。
「いいよ、それで」
「よかったっす」
「その代わり私のお願いも聞いて?」
「なんすか?」
「帰りにレストランで夕食を食べたい」
「そんなのでいいんすか?」
「うん」
「了解っす。じゃあ帰りはうちに泊まりでいいっすか?」
私は頷いた。
彼は喜んでいる。
私の希望をかなえてもらってるのに彼が喜んでいる。
そんな彼を見て私も嬉しくなっていた。
(4)
二本目の映画は某走り屋漫画の実写版。
原作とは全く違う酷い内容の出来栄え。
そんな中に春樹の車が出てきた。
春樹は私が車に乗ってる時は荒い運転はしない。
しかし偶に一人で暴走してる時があるらしい。
それは春樹だけじゃない。
渡辺班にも少なからず漫画の影響を受けている男がいた。
それでも去年問題になって皆やめたと思っていた。
しかし男たちはみんなカーレースのシーンになると食い入るように見てる。
やっぱり興味あるんだろうか?
片桐君は興味ないのか寝ていたが。
ぽかっ
「冬夜君はお嫁さんと映画を見るのがそんなに退屈ですか?」
「そうじゃなくて映画の内容がひどくてさ……眠くもなるよ」
「じゃ、お話ししよう?」
「皆映画見てるのに邪魔したら悪いだろ?」
「うぅ……」
「ちょっと抜け出そうか?」
「うん♪」
そう言って片桐先輩達は抜けだした。
私は隣に座ってる春樹の腕をつついていた。
「どうした?」
「映画楽しい?」
「いや、あまりにいい加減で見てるのも苦痛だ」
「じゃ、私達も外で話さない?」
「ああ、いいけど?」
視聴覚室をでると片桐先輩たちが居た。
「あれ?檜山先輩も抜け出したんですか?」
「ああ、あまりにも酷くて退屈だったしな」
二人で感想を言い合ってる。
「お二人に聞きたい事があるんですけど~いいですか~」
「なんだ?」
「何?」
「二人とも車の運転上手いんですよね~?」
「まあ、普通だと思うけど?」
「冬夜ほどじゃないけど、まあ普通かな?」
「今でも山に走りに行ったりするんですか~?」
「行ってないよ。愛莉に止められてるしね」
片桐先輩がいうと遠坂先輩がぽかっと片桐先輩を小突く。
「私のせいなんだ~?冬夜君は私のせいにするんだ~?」
「そうじゃないよ、可愛いお嫁さんを連れて行けないようなドライブはしないって約束したろ?」
「……えへへ~」
遠坂先輩は喜んでいる。
私は春樹に聞いてみた。
「春樹は私が止めてって言ったら止めてくれますか~」
「止めるも何もあの事故から行ってねーよ。命失いかけたからな」
「その割には高速道路でやたら飛ばしたり国道でやけに飛ばしますよね~」
「それも止めろって言うなら止めるよ。ただそういう車だから飛ばしてるだけだしな」
「先輩もスピードの向こう側ってやつを見つけたいんですか~」
「その先にあるのは死だよ……限界は見てきたつもりだ」
「そうですか~ならいいんです~安心しました~」
「話したい事ってその事だったのか?」
春樹は呆れている。
「正直あの手の映画は私あまり好きじゃないから~」
「分かる、冬夜君は理解してくれたけどすぐ影響受ける人いるもんね」
遠坂先輩は理解してくれた。
「女性って刺激を求めるものじゃないのか?」
春樹が聞いてきた。
「私は大事に想われてないのかな?って思うかな。大事に想われてるなら無謀な運転しないと思うから」
遠坂先輩の言う通りだ。
「私も遠坂先輩に同感です~」
「じゃあ、一人の時ならいいわけ?」
片桐先輩が聞く。
「それでも一緒だよ。もしものことがあったら大切な人が悲しむとかそういう風に考えられないのかなって」
「なるほどね」
「無事に帰ってきてくれることが一番うれしい事ですよね~」
私が言うと遠坂先輩がうなずいた。
4人で話をしていると映画が終わったらしい。皆がぞろぞろ出てきた。
「どうしたんだ冬夜?一番面白い所で抜け出すなんて」
多田先輩が言ってる。
「迫力あったよな。俺も車買い換えようかな」
桐谷先輩が言うと亜依先輩が桐谷先輩の頭を叩く。
「この馬鹿はまた映画の影響をすぐ受ける!」
その言葉を受けて一ノ瀬先輩が一言漏らす。
「亜依さん気づきました?昨日気づいたんだけど……」
「どうしたの穂乃果?」
「2人とも車の後部に同じステッカー貼ってあったんです。レッドブルって名前のステッカー」
空でも飛ぶつもりだろうか?
「瑛大~まさかお前……偶に帰るの遅いときあるけど……」
「桐谷先輩もレッドブルのメンバーだったの?」
如月君も入ってるらしい。
「翔太、どういうチームなのか説明してくれない?」
如月君は説明する。
昔話した元・ラリー選手の整備工場の社長が作ったチームらしい。
「この馬鹿まだ懲りてないのか!?」
「隆司君また約束破ったのね?」
二人とも怒ってる。
「これは今夜の議題ね」
恵美さんが言う。
桐谷先輩と中島先輩は頭を抱えていた。
(5)
「じゃあ、二日目の夜もお疲れ様でした。乾杯と行きたいところなんだが女性陣からクレームがついてな……恵美さん説明してくれ」
「男性陣の中でレッドブルってチームに入ってる人いたら挙手してちょうだい!車見れば分かるから隠しても無駄よ!」
桐谷君、中島君、誠、如月君、高槻君が挙手した。
「如月君と高槻君はともかくどういうつもり!?去年約束したんじゃなかったの?」
恵美さんが怒ってる。
怒ってるのは恵美さんだけじゃない。亜依さん、カンナ、一ノ瀬さんも怒ってる。
3人は理由を話す。
単純でしょうもない理由だった。
退屈な日常に刺激が欲しいから。
そんな理由を聞いて3人は激怒する!
「平穏な日常を求めていたはずだったんだがな」と渡辺君も険しい表情。
「そういう車に乗ってるんだからしょうがないだろ!」
桐谷君が反論すれば「だったら今すぐ車を買い替えろ!!」と亜依さんが反発する。
「それは止めた方が良いよ?」
僕が意見する。
「片桐君どうして?」
「3人とも本質的に変えなくちゃ意味が無い。下手に車変えて限界の低い車に乗ったらそれこそ危険だ」
「確かにそれはあるかもしれねーな、3人ともそれなりの装備してある車に乗ってる。ドノーマルの車で同じ事したら絶対事故る」
檜山先輩が言う。
「じゃあ、どうしたら本質を変えられると思う?」
亜依さんが聞いてくる。
「うーん、誠はどうして入ったんだ?誠の車向いてないだろ?」
「私の車つかってるんだよ」
カンナが言う。
「……とりあえず。3人とも止めた方が良い。だって3人とも大切な人いるんだろ?もしものことがあったら悲しませるよ?それとも彼女を失ってまで手に入れたいものなの?スピードの向こう側って」
「自分の限界を試したかったんだよ」
桐谷君が答えた。
「限界を知らずに走ってたわけ?尚の事止めるべきだ。前にも言ったけどいくら夜の山道でも限界って意外と低いんだ。知らずに走るなんて危険だよ」
「山道は危険なことくらい理解したよ、前回の件で反省してる。でも別に公道って山道だけじゃないだろ?」
「え?」
その内容を聞いて絶句した。
産業道路を使ったゼロヨンもやっていたらしい。
その事を知った3人はますます激怒する。一ノ瀬さんは泣いてた。
「どうして分かってくれないんですか!?もしものことがあってある日突然彼氏を失ってしまった彼女の気持ち考えないんですか!?」
一ノ瀬さんが叫ぶ。
桐谷君達は何も言わない。
どうしたらこの3人を止められるだろう?
取りあえず誠かな?
「誠、お前来年からプロなんだろ?だったらわかってるんじゃないのか?」
「そうだな……。ただどうしてもやりたくなるんだよ」
「ゲームで冬夜君は我慢してるって私言ったよ?」
愛莉が言う。
「この際決めちゃおうよ?3人とも車と彼女どっちを選ぶの?」
愛莉が尋ねる。
ここで車と言える勇気は誰も持ってない。
「彼女を取るから皆こそこそやってるんだよね?」
3人は頷く。
「中島君はともかく二人はもうただの彼女じゃない。お嫁さんだよ。もっと大切にしてあげないと」
「何かほかに趣味見つけたらいいんじゃないのか?」
渡辺君が言う。
「他の趣味も封印されてるんだぜ?何やれって言うんだよ」
桐谷君が言う。
「冬夜の趣味を真似てみたらどうだ?冬夜は上手い事車からの呪縛は抜けてるんだし。な?冬夜」
僕の趣味ねえ……。
「愛莉とドライブと街ブラデート。愛莉を乗せてる時は危険な運転はしない。意外と楽しいよ?のんびり運転しながら愛莉と話してるのって。檜山先輩はどうなの?」
「俺も一緒かな。咲良とドライブするときはそれなりに安全運転を心がける、少しくらいスピード出てしまうけど。死ぬほどやばいスピードは出さない」
「トーヤも檜山先輩もわかってねーよ。問題は私達がいない時なんだよ。いつもろくでもないことをやってる」
「冬夜は遠坂さんがいない時はどう過ごしてるんだ?」
誠が聞いてきた。
難しいな、そんな時間滅多にないからな……でもないか?
「誠が送ってきた動画とか見てる。誠はそれでいいんじゃないのか?」
「うぅ……やっぱり見てたんだね」
後で愛莉を宥めないと駄目なようだ。
「中島君もさ、彼女を趣味にしてみたらどうだい?」
「穂乃果を?」
「そそ、どうしたら一ノ瀬さんが喜ぶかとか。どうやって自分好みにしあげるかとかそういう時間を費やしてみたらどうだい?」
「冬夜君はいつも考えてるもんね」
愛莉の機嫌は直ったようだ。
「冬夜の言う事は自分の彼女・奥さんを大事にしてやれ。思いやってやれって事だな。そうしたら危険な運転なんてできないだろ?」
渡辺君が上手い事纏めてくれた。
「車ってただ飛ばすだけが楽しみじゃないっすよ。内装弄ったり音響変えてみたりやることいっぱいあるっす」
晴斗が言う。
「わかったよ、金輪際一人で山にはいかない」
誠が言うと残り二人も渋々承諾した。
残りは後二人か。まさか高槻君までとはね。
まあ、理由は車なんだろうけど。二人ともそっち系も車だしなあ。
「誠から言ってやるべきじゃないのか?『自分の妹を悲しませるような奴に妹は任せられない』って」
「そ、そうだな。高槻君。俺もやめるからどうかちぃの為に止めてやって欲しい。
「わかりました……」
「翔ちゃん……」
「分かってるよ。僕も止める」
「じゃあみんな駐車場に行こうよ」
愛莉が言う。
どうしたんだろ突然。
駐車場に着くと愛莉が桐谷君の車からステッカーを剥がし始めた。
「わあ!そうッと剥いでよ!あと残ったら格好悪い」
「そんなの関係ないよ。だってそれが戒めなんだから」
「いいわね愛莉!私もやる」
そう言って亜依さんも愛莉を手伝う。
「私は隆司君の車か」
「私は高槻さんの車をやればいいのね」
「わ、私翔ちゃんの車やります」
そう言ってそれぞれん車からステッカーを引きはがす。
「これでよし、もう二度としちゃだめだよ。3回も許してくれると思ったら大間違いだからね」
愛莉が言う。
「じゃあ、問題は解決したし皆騒ぐとするか!」
渡辺君が言うと皆戻って行った。
僕も戻ろうとすると愛莉が引き止める。
「冬夜君はまだ問題あるよ?」
「なに?」
「私に黙ってこっそりとえっちな動画観てたんでしょ!」
ああ、覚えてたんだね。
「一人の時間の時くらいいいだろ?」
「冬夜君はどんなのも吸収して真似しようとするから駄目!観る時は一緒に観るの!」
「わかったよ……」
愛莉に見せられないようなのもあるんだけどなあ。真似しようとは思わないけど。
「私に見せられないようなのは削除しまーす。ブーッでーす」
「わかった」
「んじゃ、もどろう。お肉食べないと」
「今日は食べていいんだな?」
「うぅ……食べ過ぎたら駄目だよ?」
「分かってる」
そう言って宴の席へと戻る。
皆既に始めている。
「冬夜ちょっといいか?」
誠と桐谷君と中島君が呼んでいる。
「実際お前走りたいって思ったことないのか?」
ああ、そういう話ね。
それだったらいい例え話がある。
「誠達は隣に自分の彼女や奥さん乗せてダウンヒル出来るか?」
「いや、流石にそれは怖いな」
「そういうことだよ。やれる自信があるならやればいい。ただそれで怖がるようなら止めとけ。そこまでしてやる芸当じゃない」
「なるほどな」
「でも、まさかゼロヨンまでやってるとはね」
「車の性能的に有利だと思ったんだよ」
「まあ、同じ事だよ。産業道路でゼロヨンなんて僕は間違ってもしたくないけどね」
まだ山道の方が安心だ。
話はすんだみたいだしお肉お肉。
「片桐君ありがとうね」
恵美さんが来た。
「正直止めさせる手立てが無かった」
「実際止めるって決まったわけじゃないと思うよ?」
「え?」
「スピードの魔物に憑りつかれたらそう簡単に抜け出せないってね」
「じゃあ、またやるかもしれないって事?」
「可能性はあるね?」
「どうすればいいの?」
「後は5人次第じゃない?さっきの言葉がどれだけ染みたかにもよるから」
「そうね……」
恵美さんはそう言って笑うと石原君の元にもどっていった。
「冬夜君どこに行ってたの?」
愛莉が探していたようだ。
「ちょっと相談うけてただけ。どうしたの?」
「はいこれ?」
愛莉が差し出した取り皿には焼きそばと肉とハンバーグが絶妙なバランスを保って乗っていた。
「食べていいの?」
愛莉はにこりと笑って頷く。
「今日は特別だからね」
「ありがとう」
食べ終える頃にはもう肉は無くなって皆片付けに入っていた。
僕達も片付けの手伝いをする。
夜はまだ始まったばかりだった。
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