声にして伝える事が出来たなら

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声にして伝える事が出来たなら

(1) 「愛莉早く!」 「そんなに慌てなくても飛行機は飛ばないよ~」 いつもながらなんでこうギリギリになるんだろう? 昨夜愛莉の相手をしていたらつい寝過ごした。 「愛莉もなんで早く起こしてくれなかったの?」 「バスの時間は把握してたもん」 愛莉はしっかりしてる様で呑気なところがある。 多分愛莉ママの血をしっかり継いでるんだろうな。 「冬夜君眠いんだったら寝てていいよ?私が起こしてあげる♪」 まあ、終点まで行くんだから大丈夫だろう? 愛莉に甘えて少し寝ることにした。 「冬夜君着いたよ~」 愛莉の声で目を覚ますと空港のなかを駆け足で急ぐ。 飛行機は手続きが色々と面倒だ。 そして出発まで時間が余る。 愛莉はスマホで皆とやりとりしてる。 搭乗時間になった。愛莉に知らせる。 愛莉と飛行機に乗ると愛莉は僕に窓際をゆずってくれた。 「冬夜君景色みたいんでしょ?」 「愛莉は僕にくっつきたいんだろ?」 「えへへ~」 困ったお嫁さんだ。 「でもさ~昨日から考えてたんだけど」 「どうした?」 「初めてじゃない?二人で飛行機で『旅行』って……」 そう言われてみるとそうだな。 いつも車で移動してたもんな。 さすがに千葉まで車で移動する気にはなれなかった。 「チケット早めに買っておいて正解だったろ?」 「そうだね。人一杯だよ」 飛行機が離陸すると愛莉は遠慮なく僕にくっ付いてくる。 「こっち側だと富士山見えないね」 やがて愛莉も十分楽しむと機内放送を聞きながら本を読みだす。 僕はいつまでも景色を見ていた。 やっぱり主翼がガタガタ震えるのが楽しい。 こんな薄っぺらな鉄板でよく飛んでるな。 愛莉の反応が無くなった。 愛莉の方を見る。 愛莉は寝ていた。 愛莉も眠れなかったんだな。 飛行機で途中下車は無い。 僕ももう少し眠っておくか? そう思って眠りにつく。 少したってぽーんと音が鳴って僕と愛莉は起きる。 愛莉はシートベルトを着ける。 飛行機は羽田空港に着いた。 羽田空港を出ると直行バスに乗る。 電車って手も考えたんだけどややこしい東京の路線を見てるだけで頭が痛くなるのでバスにした。 バスに乗ると再び景色に見とれる。 やっぱりこの景色を自分の車で走ってみたいよな。 「う~ん、東京でレンタカー借りるってのはどうかな?冬夜君なら事故の可能性は無いと思うし」 「事故は自分で起こすこともあれば巻き込まれることもあるって言うだろ?」 「そうだね~。でも冬夜君なら大丈夫だよ」 愛莉の根拠のない自信に乗るわけじゃあいけどレンタカーって手はありかもな。 「私も冬夜君の運転で東京ドライブしてみたい」 「行くとしたら……秋かな?」 「夏は五輪あるもんね……でも、卒業旅行はどうするの?決めてあるの?」 「渡辺班の皆と行くなら要相談だけど……」 出来るなら愛莉と二人で行きたい。 「わ~い。場所決めてあるの?」 「うん」 「どこ?」 「北海道、愛莉の案じゃないけどレンタカーで北海道一周してみたいなって」 「それいいね!」 愛莉は乗り気のようだ。 ホテルに着くとちょうどチェックインの時間になっていた。 夢の国も夢の海も今日は休んだ。 ホテルのラウンジで軽食を食べると夕飯まで部屋で寛いでいた。 (2) 「じゃあ、私悠馬の車で行ってくるから」 「ああ、気を付けて」 「わかってる、じゃあね。よろしく」 咲を見送るとさっそく作業に取り掛かる。 ジャッキアップしてまずは足回りから。 クラッチプレートが痛んでるな。 この手の車はクラッチ板がすぐに痛むから。 普通のクラッチ板にしとくか? ブレーキも傷んでる。これも交換かな? そうやって一つ一つ部品を点検して弄って調整していく。 一度をジャッキを降ろすと昼飯ついでに試しに試運転する。 これなら咲が運転しても大丈夫だろう。 昼ごはんを食べるとSSに車を持って行く。 洗車をしてやる。 洗車が終ると家に持って帰って今度はエンジンを弄りだす。 片桐君が言ってたでチューンを施す。 基本スペックの馬力等をわざと下げる。 一通り終えた頃再び夕飯の買い出しがてらに試運転。 うん、大分快適に乗れ出した。 これなら言う事は無い。 仕上げにワックスをかけてやってお終い。 あとは咲が帰ってくるのを待つだけだ。 咲は帰ってくるとすぐに試乗したいと言い出した。 運転するのは僕。 車は別府に向かって走る。 そのまま別府のレストランで食事をする。 「凄い悠馬全然変わったじゃん」 「結構弄ったけどね」 「洗車までしてくれて、休む暇なかったんじゃない?」 「残り休日ゆっくり休むよ」 「最後の日は駄目だからね。私とドライブ行くんだから」 「わかってるって」 そうして僕達は家に帰るとシャワーを浴びる。 そして適当に時間を潰して眠くなったら寝る。 明日は何しよう。 部屋の片づけでもするかな? 随分散らかってるしな。 水回りも綺麗にしなくちゃ。 意外とやることが残っていた。 (3) 「伊織。お客様よ」 「誰~?」 「如月君。部屋にいれてもいい?」 「ちょ、ちょっと待って!?」 慌てて着替える。 翔ちゃんが家に遊びに来た。 いつぶりだろう? そんな事を考えながら慌てて着替える。 「いいよ~」 化粧台で寝ぐせを確認しながらそう返事してた。 コンコン ノックする。 「ど、どうぞ~」 翔ちゃんが入ってきた。 「なんだ、どれだけ散らかってるのかと思ってたら案外普通じゃん?何してたの?」 「着替えてた」 さすがに部屋着じゃ会えない。 本当は家にも入れたくなかった。 翔ちゃんちに比べたら家は狭いから。 「ところで今日はどうしたの?突然」 「彼氏が遊びに来たらまずいわけ?」 翔ちゃんの中でも私は彼女なんだ。 私はちょっと感動してた。 でもアポくらいとってくれたって……。 「でもうち何も無いよ?」 テレビくらいしか……。 「わかってるよ、だから外に遊びに行こう?」 「わかった、じゃあ外で待ってて。準備するから」 「わかった。急げよ?伊織昔っからそういうの遅いんだから」 「うん……」 それから洗顔して歯を磨いて服を選んで化粧して……。 準備は出来た。 居間で待ってた翔ちゃんに準備出来たと伝える。 「相変わらず時間かかるな」 これでも急いだ方だよ。 「翔ちゃんが電話してくれたら前もって準備したのに」 「何?僕のせいだって言いたいわけ?」 「そ、そういうわけじゃ……」 でも普通アポくらいとらない? 「じゃ、行くぞ」 「うん」 家の前にとめてあった翔ちゃんの車に乗り込む。 「どこに行くの?」 シートベルトを着けながら聞いてた。 「ショッピングモール。買い物したいって言ってたろ?」 「……うん!」 覚えててくれたんだ。 それだけでも嬉しい。 それから、翔ちゃんとショッピングモールでウィンドウショッピングを楽しんだ。 「……ちょっと待ってて」 そう言って店に入る翔ちゃん。どうしたんだろう? 「お待たせ。行こう?」 大きな紙袋を以って翔ちゃんは先導する。 昼食を食べる。 その後映画を見に行ってた。 「見たい映画があったんだよね?」 それは特撮物の劇場版。 映画を見終わるとコーヒーショップでコーヒーを飲みながら時間を潰す。 その後はまた本屋さんに行ったり。 ファッションに気を配れか……。 ファッション雑誌を買った。 その後も雑貨屋さんに行ったり……アナーキーって店にも寄ってみた。 この店の物は無理かな……。そんな事を考えると楠木先輩に会った。 「あれ?伊織と翔太じゃないっすか?今日はデートっすか?」 「そうだけど?」 翔ちゃんが答える。 「いいっすね。俺も一日くらい春奈の相手してやるつもりっす」 「休日は全部バイトなんですか?」 私が聞いていた。 「そっすよ、前半休んだから後半はバイトっす」 「晴斗……」 振り返ると白鳥先輩が待っていた。 「春奈!来たんですね?」 「暇だし……取り込み中?」 「晴斗!休憩時間まだだろ?夕食でも食べてこい」 店長らしい人が言った。 「じゃあ4人で晩飯食うっす」 それから4人で夕食を取って1時間くらい時間を潰して楠木先輩は店に戻る? 「じゃあ、3人ともまた」 「……明日も来るから」 白鳥先輩はそう言って、去って行った。 彼のバイトの間中来るつもりらしい。 そう楠木先輩が言っていた。 「僕達もそろそろ帰ろうか?」 「そうだね」 翔ちゃんに家まで送ってもらった。 車を降りる際に紙袋を手渡される。 「これあげる。欲しがってそうだったから」 そんなところまで見てたんだ。 「明日も同じ時間に遊びに来るから今度はちゃんと準備しとけよ」 そう言って翔ちゃんは帰っていった。 私は家に帰って風呂を浴びると部屋に戻って紙袋の中味を確認する。 確かに欲しがってたブラウスとスカートだ。 明日はこれを着て行こうかな? そんな事を考えながら夜を過ごした。 (4) 「未来、これはどこに置く?」 「あ、そっちの部屋に……」 渡辺班の皆が引越しの手伝いに来てくれた。 皆と言っても時間が空いてる人だけだけど。 大体の人が部活やバイトで忙しい。 忙しい中申し訳ないと言うと。 「これも活動の一環だ。気にするな」と渡辺先輩が言う。 「その代わり明日は手伝ってくださいね~」と咲良さんが言う。 引越しが終ると引っ越し蕎麦を出前で頼んで皆に振舞う。 それを食べ終えると皆は帰っていった。 皆が帰ると私は一人荷解きを始める。 「手伝おうか?」 倭(やまと)さんがそう言うけど申し訳ないので一人でやると言った。 荷解きが大体終わった頃倭さんが「そろそろ夕食食べに行かない?」と言う。 「休みの日くらい私作りますよ?」 「あ、今日は引越しで疲れてるだろうからいいよ」 倭さんはそう言って断る。 近所のファミレスで私は決断した。 「私週末にでも料理教室に通います」 倭さんは慌ててた。 「ど、どうしたの突然?」 「毎日外食だとやっぱり悪いです。せめて朝ごはんくらいは作ってあげたい」 「それなら俺が作るから」 「私も今日から主婦です。手料理くらい振舞ってあげたい」 旦那に手料理を食べさせてあげたい。 「分かったよ、けど休日出勤だってあるんだ。無理するなよ」 「はい!」 一つずつ苦手を克服しよう。 そう心に誓った一日だった。 (5) 今日も彼は来ていた。 コーヒーを頼むと一人でじっとこっちを見ている。 やっぱりストーカー? 大変な男に目をつけられたものだ。 しかし彼も大事な渡辺班と言う顧客。 蔑ろにはできない。 店じまいすると着替えて店の外を見る。 誰もいない。 一安心すると家に帰る。 帰りにコンビニで食事を買って帰る。 偶には外食でもしようかな? 家に帰るとスマホを見る。 今日も渡辺班のチャットログが凄い。 未来先輩が引っ越したらしい。 明日は咲良先輩の引越しだ。 バイトが入ってる私には関係ない。 ご飯を食べ終わると片づけてお風呂に入る。 それから風呂上りのコーヒー牛乳を飲んで、テレビをつける。 その間も渡辺班のチャットは続いている。 渡辺班のチャットを見ていると嫌な気分になる。 皆がカップルの中私一人だけ独りぼっち。 でも抜けたいと思わなかった。 カップルの人て何を思って生きているんだろう? そんな事を考えさせられる部分もあった? 私は恋に興味を持っていた。 興味をもつのと願望は違う。 私に彼氏は必要ない。 デートの為に惜しむ手間が煩わしい。 一々相手の顔色をうかがうのが面倒だ。 そんな私の気持ちをわかってもらえず渡辺班の女性陣はあれこれ指図する。 「こんな髪形似合うんじゃない?」 「こんな服装似合うんじゃない?」 「今の流行りのメイクはこうだよ。美里基本はそんなに悪くないんだから」 そんなものに金をかける意味が分からない。 どうして男に媚びを売るために金をかける必要があるの? そんな中片桐先輩だけは違う事を言う。 「北村さんの家からならあそこのラーメン屋美味しいよね?」 「駅前のラーメン屋行ってみると良いよ。美味しいよ」 「駅ビルの中のステーキ屋さんて結構おいしいしリーズナブルだよ」 食べ物の話しかしてこない。 そっちの方が興味がある。 私はそれをメモっていた。 連休が明けたら行ってみよう。 そんな話を持ち掛ける片桐先輩は非難を受けていたが、彼は臆することなく話をする。 ある意味度胸があるのかもしれない。 しかし片桐先輩は私に栗林さんをけしかけた要注意人物。 話は面白いけど気を許すわけには行かなかった。 何か企んでる。 そんな気がした。 だけどそれは害のないもの、むしろ私に幸福を授けてくれるような気がして。 ある意味期待していた。 私をどうこう出来るならしてみてよ。 そっとしておいて欲しい部分もあったけど。 彼の言動は非情に魅力的に思えた。 そろそろ時間だ。 私はベッドに入って横になる。 片桐先輩たちは今旅行に出ているらしい。 明日は早いらしい。 既にねている。 私も眠りにつくことにした。 また明日も彼が来ているんだろうか? そんな事を考えながら。 (6) 「うぅ……」 愛莉は悩んでいた。 「どうしたの?」 きっと聞かないと話が続かないだろうから聞いてみた。 「冬夜君は食べ物の話で北村さんと仲良くなろうとしてる」 別にそんなつもりで言ったわけじゃないんだけどね。 「冬夜君を北村さんにとられちゃうのかな?って思って」 僕は笑い飛ばした。 「それ絶対無いから」 「どうして?」 「僕達の目的忘れたの?」 北村さんと栗林君をくっつける事。 「その割には冬夜君北村さんと仲良く話してるじゃない」 「ヒントを与えてるって言えばいいのかな?」 「ほえ?」 「一人ステーキ。一人ラーメン。女性には敷居が高く感じるんじゃない?」 「言われてみればそうだね。でもそれがヒントって?」 「彼女を釣るには食べ物が一番だって事。それも気取ったレストランとかじゃなくて美味しくて安い店」 「栗林君に誘わせるの?」 「そういう風に男子グルで話してるよ?」 愛莉に男子グルのログを見せる。 「後はタイミング。彼女の警戒心が解けた頃に誘ってやればいい」 後は彼の手腕の問題だよ。 そう愛莉に伝える。 「冬夜君ならどう攻める?」 「ひたすら食べ歩く」 「ほえ?」 「そしたらきっと食べ物からちょっとだけ自分に興味が湧いてくるだろうから。後はタイミングだよ」 「うぅ……」 ぽかっ 「どうしたの?」 「冬夜君やっぱり北村さんと仲良くなりたいって思ってるでしょ!」 「思って無いよ、僕には愛莉がいるだろ?」 「北村さんだったら冬夜君好きなだけ食べさせてくれるよ!」 愛莉の機嫌が悪いらしい。 「愛莉、まだ今日だぞ?」 「ほえ?」 「約束……まだ覚えてるよ」 愛莉がその意味を解するのに少し時間がかかったらしい。 「そんな手で私を懐柔しようたってそうはいかないんだから!」 その割には愛莉はベッドに入ってる。 僕もベッドに入る。 「明日は寝坊しないようにしないとな?」 「そうだね……ねえ冬夜君?」 「どうした?」 「冬夜君の中では勝算あるの?」 「まだ分からないね。昨日の今日だしね」 「そっか」 彼女の心に変化が現れた。 今はその変化を見守るだけ。 下手に刺激しない方が良い。また殻にこもってしまうから。 そんな事よりは今は愛莉のご機嫌取りの方が大事だ。 「愛莉は明日回りたいコースとかあるの?」 「あのねえ、明日一日回るんだよね?」 「そのつもりだよ?」 「そしたらね~」 愛莉はまだ見ぬ夢の国に思いをはせる。 そんな愛莉の夢をのぞいてた。
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