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愛とはつまり幻想
(1)
「冬夜君おはよう朝だよ~」
まだ眠いけど愛莉の機嫌を損ねたくないので気合を入れて起きる。
「おはよう愛莉」
愛莉と朝の挨拶を交わすと愛莉は上機嫌になる。
「今日は素直でよろしい。顔洗って着替えて行こっ!」」
愛莉の言われるままに顔を洗って髭を当って、朝食を食べる。
部屋に戻ると愛莉が仕度を始める。
昨日より1時間早めに出る。
相変わらず待ち人数が多い。
開園時間まで愛莉と話をしている。
パンフレットに書かれた地図に書き込まれた愛莉の見たいところを頭に叩き込みながらルートを作る。
とはいえやはり混雑状況にもよるんだろうけど。
愛莉もルートを考えていたようだ。
愛莉の提案するルートを聞きながらルートを作り出していく。
「楽しみだね!」
愛莉の笑顔を見ていればこっちも楽しみになる。
開園時間になった。
僕達は比較的早く入園出来た。
急いで最初のアトラクションに向かう。
比較的ライド物が多い。
暗闇の中大きな音が出るのも多い様で。
「きゃっ!」
愛莉は僕に抱き着く。
そんな事を繰り返していれば愛莉も落ち込む。
「うぅ……」
愛莉が落ち込んでいれば助けてやるのが僕の役割。
「愛莉、次乗りたいのがあるんだけどいいかな?」
「いいよ?」
愛莉を連れて、移動する。
ゴンドラにのって魅力的な運河の風景とロマンティックな雰囲気を。
そんなうたい文句のアトラクションに乗る。
愛莉のご機嫌はよくなったようだ。
「綺麗だね」
「本当だな」
夕食を食べてパレードを見て、買い物をして。
お菓子・雑貨・アパレルなど色とりどりが揃っている。
一件ずつ見て回りながら愛莉とショッピングを楽しむ。
ショッピングをした後は宅配サービスで荷物を家に送る。
そうして一日が終わった。
アトラクションを一回り出来た愛莉は満足していたようでご機嫌だった。
こういう時は疲れたという顔を見せてはいけない。
「楽しかったね?」
「うん!でも冬夜君あまり食べなかったけど大丈夫なの?」
「帰ったらたくさん食べるよ」
「そっか~、今度は許してあげる♪」
愛莉のお墨付きを頂いた。何食べようかな。
お互いにシャワーを浴びるとテレビをつけてくつろぐ。
今日の渡辺班の行動をチェックしていた。
(2)
「伊織~如月君来たわよ」
「は~い」
私はバッグを手に外に出る。
そして玄関で待ってる翔ちゃんに挨拶を言う。
「準備出来てるみたいだね、行こ?」
今日は翔ちゃんと水族館でデート。
翔ちゃんは渋滞にイライラしていたけどそこは話しかけて気を紛らわす。
そうこうしているうちに順番が回ってきた。満車の二文字が私達を遮る。
「しょ、翔ちゃん……」
「僕って信用無いんだね。伊織との思い出作りに怒りとかそういうの要らないと思っていたんだけど」
「ご、ごめん……」
「ま、今まで散々文句言ったからしょうがないよね。でも心配しないでもそのくらい弁えてるから」
「うん」
翔ちゃんは何か思うところがあるんだろう。
少しずつ変わってる。
今までの翔ちゃんじゃなくなってる。
翔ちゃんの変化をいち早く感じることが出来る自分に喜びを感じていた。
水族館の中でも翔ちゃんは私と手を繋いでエスコートしてくれた。
……もうちょっとゆっくり見たいな。
色を変化させるクラゲをみて写真を撮ろうとすると。
「いつでも来れるんだから取る必要ないだろ!」
と怒られた。
いつでも連れてきてくれるんだろうか?
アシカやイルカのショーを見ては「子供の為のショーだね。くだらない」と言っていた翔ちゃんが夢中になってた。
その後お土産屋さんでお土産を買って帰った。
帰ると思っていた。
しかし車は反対の方向へ進む。
「このまま帰ってもつまんないだろ?」
翔ちゃんとドライブを楽しんだ。
翔ちゃんの運転はお世辞にもうまいと言えない。
でもあの合宿以降、安全運転を心がけてくれているのは分かった。
煽られて追い越されてムキになって追いかける翔ちゃんを抑えるのは私の役目。
翔ちゃんはわかってくれた。
夕食を食べて公園に車を止めると少し話をする。
退屈そうに話を聞いている翔ちゃん。
ボキャブラリーがたりなくてごめんね。
話が一区切りつくと家に帰り始めた。
「明日はどうする?」
翔ちゃんが言った。
「翔ちゃんの好きなところでいいよ」
「本当に?」
きっと変なところには行かないだろう。
まだそんな段階には達してないと思う。
当たっていた。
「日田に行きたいんだけど?」
日田に何があるの?
「城下町が綺麗らしいんだ。伊織そう言うの好きそうだと思ってさ」
私の事を考えてくれたのね
でも私はどこでもいいんだよ。翔ちゃんと一緒なら。
「わかった」
そう一言伝えた。
家に帰りつく。
「じゃあ、また明日ね」
そう言って車を降りようとする私を呼び止めた。
どうしたんだろう?
そんな考えはすぐに吹き飛ぶ。
翔ちゃんは私を引っ張ると私の唇に唇を重ねる。
初めてのキス。
頭が真っ白になってよく分からなかった。
そんな私に向かって一言いう。
「じゃあ、また明日」
そう言って、翔ちゃんは走り去って行った。
家に帰って部屋に戻ってもまだ実感がわかない。
翔ちゃんはいつも突然で、私を驚かせてくれる。
メッセージが入った
「急にでごめん、本当は公園でしたかったんだけど人が気になって」
翔ちゃんにも恥じらいがあるんだね。
「いいよ、気にしないで」
そうメッセージを送ると私は風呂に入って一人寛ぐ。
明日はどんな一日が待っているんだろう?
恋とはつまり幻想。
一時の夢みたいなもの。
それが覚めてしまうと空しさが襲う。
だけど翔ちゃんがまた上書きをしてくれる。
そうして積み重ねていった先に愛があるのだろう?
愛とはつまり幻想。
喜びに触れたくて明日へ走り出す。
(3)
朝彼が迎えに来た。
彼の運転で学校に向かう。
学校に着くと体育館へ歩く。
すると、皆練習を始めていた。
彼も着替えるとすぐに練習を始める。
練習には水島先輩と佐倉先輩も参加していた。
休憩時間水島先輩は彼に質問する。
「翔、いいのか?オフの日くらいどっか連れて行ってやらなくて」
「今日練習が終わったらご飯に誘ってます」
「ちゃっかりしてんなお前も。どこに連れて行く気だ?」
「片桐先輩が言っていたイタリアンのお店に……」
「ああ、街中のな。じゃあ、今日はお泊りか」
「いや、そういうわけでは」
「佐(たすく)!余計な事を言わない!!」
千歳にとって初めての彼氏なんだよ!って水島先輩を注意する佐倉先輩。
「まあ、上手くやれよ」と水島先輩は言う。
練習が終わると高槻君は着替えて「おまたせ」と言ってやってくる。
街の中に車を止めて商店街を歩きだす。
商店街を少し外れたところにそのお店はあった。
店の中は個室になってあり、それぞれにカーテンが着けられてある。
談笑しながら料理を注文して食べながら話す。
彼の話は聞いていて飽きない。
バスケの話は一切しなかった。
話しのネタが尽きようとしていたころラストオーダーの時間になった。
ジュースを飲み終えると会計を済ませて店を出る
「ごちそうさまでした」
「いいよ、当然だし」
それから家に帰ろうかと言う頃彼は「少し時間いいですか?」と聞いてくる。
彼は運転して国東の地元空港まで移動する。
小さい公園に車を止めて飛行機を見てる。
彼のお気に入りの場所らしい。
「昔から飛行機が好きでね」
彼はそう言う。
過去を語る彼はまるで子供のようにはしゃいでいた。
そして語り終えると車は帰りに着く。
メッセージを着信した。
兄からだ。
「ちぃ、どこにいるんだ!?まさかお前今日は帰らないつもりか?」
「今杵築のどこか。今日には帰る。母さんたちに連絡した」
「まだ付き合って一月足らずで傷物になるなんて兄は許さないからな……いてぇ!」
何を言ってるのかさっぱり分からない。
「ちぃちゃん、気にしないでゆっくり楽しんで来い」
神奈さんがいう。
「はい」と答えた。
「お兄さんなんて?」
「大したことじゃないと思う……」
「そうか、ならいいんだけど」
初めてのデートで夜遅くまで引っ張りまわすのはまずかったかな?と彼は言う。
何がまずいのか分からないけど。
家に着いた。
車を降りると彼を見送る。
今日は無いんだな。
ちょっと物足りなくもあり、さみしかった。
恋とはつまり幻想。
一時の夢を奏でるもの。
その夢に酔いしれ人は現実を忘れる。
しかし夢から覚めると残るのは寂しさ。
だから恋はつらいもの。
それでもまた明日があるから人は恋に生きる。
人は恋に落ちる。
長いレールの上を歩む旅路。
風に吹かれバランスを取りながら。
答えなんてどこにも見当たらない。
でもそれでいい。
流れるまま進むだけ。
自分の弱さを認められずに恋にすがり生きていく。
それは今ここにいる自分を誰もがきっと信じていたいから。
過ぎた日々を忘れて歩き出していく。
喜びに触れたくて明日へ走る。
(4)
カランカラン。
「いらっしゃいませ」
北村さんは立ち直ったようだ。
いつもの目に戻ってる。
「いつものお願い」
「コーヒーですね。かしこまりました」
そう言って伝票に書き込むと厨房に向かう。
北村さんもなれてきたもんだね。
栗林君も毎日よく来てくれるよ。
今日いるのは栗林君と晶ちゃん。
一ノ瀬さんは中島君とデート。
彼等も色々問題あるからね。
いい機会だしデートくらいしてくると良いよ。
僕は北村さんのフォローに回る。
とにかく目を離せない。
何もない所でも躓くという特技をもってるからね。
とはいえ、バイトで雇われている以上一人前にする必要がある。
渡辺班の接客は彼女に任せている。
今日は栗林君は晶ちゃんの隣……カウンターに座っている。
晶ちゃんと話しているよ。
話題の種は北村さんについてだけど。
北村さんは時々栗林君を見てる。
何か話したい事でもあるんだろうか?
そう思っていると北村さんから動いた。
「昨日はどうもありがとうございました」
「ああ、気にしなくていいよ。人として当然のことをやったまでだから」
「そうですか」
少し寂しげな表情に見えたのは僕だけだろうか?
片桐君なら何かを感じ取っていたんだろうけど、僕には生憎とそう言うスキルはもってなくてね。
「栗林さんでしたっけ?遊びに行ったりしないんですか?彼女さんと」
「生憎とそういう相手はいなくてね。今作るのに必死だけど」
「へえ、そういう相手いるんですね」
北村さんは明らかに動揺してる。
相変わらず興味なさげな顔してるけど、自分からそういう話を持って行くとは何か気持ちの変化があったのかね。
栗林君は話を続ける。
「その人は僕に興味を持ってくれなくてね。どうしたらいいか分からなくて困ってる」
北村さんは黙って話しを聞いている。
「君ならどうする?」
栗林君は話を切り出した。
「諦めた方がいいんじゃないですか?その人きっとそう言うのに興味ないんですよ」
「……君は恋をしたことがあるかい?」
「無いです。したいと思ったこともない」
「諦めろと言われて諦めきれないのが恋なんだと思う。どうしてもその人の事を考えてしまう」
気持ちは分からないでもないけどね。
一歩間違えたらストーカーだよ、それ。
「……その人の迷惑を考えたことは無いんですか?その人はそっとして欲しいと思ってるかもしれない」
「考えたよ……でもどうしようもないんだ。でも迷惑を考えて臆病になって気持ちを打ち明けられずにいる」
「……理解できませんね。栗林さんなら他の人探した方が早いと思います」
「他の人に替えられないのが人を好きになるという事なんだよ」
北村さんの気持ちもわかるけどね、男の性だろうか?栗林君に同情してしまうよ。
そんな気持ちがつらいから人は恋と言う感情を封印しようとする。
けれど抑えきれない気持ちが恋と言う感情。
どうにもならないのが恋と言う感情。
僕が言えることは何だろう?
「時間が必要なのかもしれないわね」
晶ちゃんが言っていた。
「私も似たような思いをしたことがある。一年近くかかってようやくその人に思いを伝える事が出来た。今ではその人と幸せに暮らしてるわ」
「それって旦那さんの事ですか?」
北村さんは興味をもったようだ。
「ええ、旦那も最初はめんどくさそうにしてた。私に靡こうともしなかった。諦めずに毎日通い続けた。渡辺班の力が無かったら今がなかったかもしれない」
「渡辺班のご利益ってすごいんですね」
栗林君が言う。
少々強引なところもあるけどね。
でも、その強引さも時として必要なのかもしれない。
しかし北村さんの心には届かない。
「……私には必要ない感情ですね。手に入れたいとも思わないし興味すらわかない」
「最初はみんな同じよ。でも一度その優しさに触れると離せなくなる。理屈じゃないのよ。どうしようもないものだから」
「そうなんですね」
北村さんは私には無関係だと主張する。
「コーヒーも飲み終わったし俺は帰ります。また……」
そう言って栗林君は帰っていってしまった。
今が押す時だと思ったんだけどちがったのかね。
でも晶ちゃんは笑みを浮かべていた。
その理由は僕でも気づいた。
彼の後姿を追う北村さんの表情を見れば一目瞭然だった。
愛とはつまり幻想。
仄かな夢に人は惑わされる。
それに心に染みていくようで、一度知ってしまったら手離す事が出来ない。
手に入れようと人はもがく。
本当のそれを手に入れる為ならどんなリスクも恐れない。
けれど失いたくないから人は臆病になる。
愛とはつまり幻想なんだよと言い切ったほうが楽なのかもしれない。
愛とは儚い幻想。
だからこそ人は夢見て憧れる。
手に届かないものを果てしなく追い求め続ける。
(5)
中島君と海岸線をドライブしていた。
延岡まで出て帰りにチキン南蛮を食べて帰るコースだった。
海は綺麗だった。
どこまでも続く水平線。
彼の運転はとても丁寧で、快適に海岸線を走っていた。
時々煽られることがあるけど、彼は黙ってハザードランプをつけて、道を譲っていた。
あの日以降彼の運転は変わったと思っていた。
しかし彼自身まだ整理がついていないんだろう。
強引に反対車線に出るとふいにシフトレバーに手が伸びる。
だけど軽く舌打ちしてシフトレバーから手を離す。
私が彼の自由を奪ってる?
不安になる。
そんな不安を払しょくするように彼に話しかける。
彼は明るく答えてくれる。
延岡市内に入って昼ご飯を食べる。
チキン南蛮を私達は頼んだ。
片桐君はこの店のチキン南蛮は絶品だと言ってた。
片桐君は味覚も確かのようだ。
確かに美味しい。
二人でそう言って盛り上がってた。
「このあとどうする?」
時間はまだたくさんある。
「そうですね。どこか寄り道してもいいかもしれないけど……」
「よかったら高速使わずに国道を通って帰りたいんだけど」
「いいですよ」
途中にある道の駅に寄りたいらしい。
帰り道も安定した運転をしていた。
トラックに煽られたら道を譲る。
彼の表情は険しかったけど、そんな彼が抱いてる感情を拭ってやるのが私の役割だと遠坂さんから聞いていた。
「運転変わりましたね」
「え?」
「前みたいな怖さが無くなった。安心して乗っていられます」
「それはよかった」
彼は笑顔になる。
道の駅による。
温泉がある、それが狙いだったのね。
疲れてる彼を癒せるのなら。
私は承諾した。
和風風呂に入ってゆっくり浸かる。
のんびり入って風呂を出ると彼が先に出ていた。
「ごめん、ついのんびりしちゃった」
「いいよ休めて良かった」
そんな普通の会話が不安になる。
私は彼に無理をさせてる?
私に付き合わせることが彼の負担になってないだろうか?
私の我儘をおしつけてるだけじゃないだろうか?
そんな心配は杞憂に終わった。
「片桐君の言った通りだね」
「え?」
車には色々な楽しみ方がある。
スピードを出すだけじゃない。
恋人とゆっくり流れる時間を楽しむ楽しみ方だってある。
片桐君の言っていた言葉だ。
「今日初めて実感したよ。穂乃果とこうしてドライブに行けて」
「……うん」
「今度また遠出しようか?今度は一泊くらいする感じで」
「隆司君が就職決まったら考えてあげる」
帰りに夕食を食べて家に帰る。
「じゃあ、また明日青い鳥で」
「ええ、待ってる」
そう言って彼は帰っていった。
恋とはつまり幻想。
甘い甘い夢。
触れたら壊れそうな脆いもの。
傷つかないように幾重にも優しさで包んでいく。
思いやりと言う箱の中にそっとしまっておく。
だから時々見えなくなる。
見失ってしまう。
そんなときは箱からそっと取り出して確認しよう。
互いの気持ちを確認しよう。
甘えや嫉妬やズルさを抱えながら誰もが生きている。
それでも人が好きだよ。そしてあなたを愛してる。
自分の弱さをまだ認められずに恋にすがり傷つける度に認識する。
愛とはつまり幻想。
とても淡い夢。
一度知ってしまうと二度と忘れられずに生きていく。
何度でも何度でも繰り返して私達は生きていく。
(6)
どうしてあんなことを聞いてしまったんだろう?
どうして彼に話しかけたんだろう。
自分の迂闊な行動を呪ってしまう。
優しさが滲んで自分の弱さを知る。
電車に乗り流れる田園の景色を眺めながら私は思う。
終点に着くと乗りかえる。
私の住む町はそこから3駅離れた場所。
駅は無人駅。
電子マネーで料金を支払うとお弁当屋さんに向かい弁当を買うと自販機でジュースを買う。
家に帰るといつもの風景。
そして一人でお弁当を食べて風呂に入ってテレビをつけるとスマホを見る。
今日も恋人たちがデートをしてきたと知らせが入る。
「諦めようと思って諦められるものじゃない」
彼は言う。
「他の誰でもないたった一人の人間を好きになる気持ち」
私はその思いに一生応えることは無いだろう。
なぜだろう?
今日に限って空しく思える夜。
一人思う。
私の心はなぜこんなに動揺している?
面倒事に巻き込まれたくない。
そう思って頑なに守ってきた心の障壁。
わずかにできた日々に差し込んできた光に憧れる。
愛とはつまり幻想。
恋とはつまり幻想。
私にとって一生手に入れることのないもの。
失うことが怖いなら。
傷つくことが怖いなら。
裏切られる事怖いなら。
一生手に入らなくていい。
だけど優しさに触れてしまった今。
私の乾いた心に滲んでいく。
甘えや嫉妬やズルさを抱えながら誰もが生きているという。
私は何に甘えたらいい?
誰に嫉妬してる?
私は卑怯なのだろうか?
滲んでくる感情を遠ざけるようにその感情に怯えながら、その感情から逃げてる。
恋とはつまり幻想。
私には一生手に入らない物。
手に入れようとも思わない。
傷つくことから失う事から裏切られることから逃げるように。
私の頬を伝わる涙。
なぜ私は泣いているの?
その意味を抱えながら私は今日も一人で眠りについた。
(7)
今日は夢の海に行った。
ライド系は大丈夫だと思ってた。
あんなホラー系があるとは思わなかった。
思わず冬夜君に抱き着いて叫んでいた。
そんな自分を見っともなく感じて落ち込んでいた。
冬夜君が「乗りたいものがあるんだけど?」と言う。
偶には冬夜君の要望もかなえてあげなくちゃ。
またみっともない自分をさらけ出してしまうかもしれないけど。
でも冬夜君が選んだアトラクションはただのゴンドラだった。
「綺麗だね」
冬夜君はそう言って笑う。
「本当だね」
私はそう言って笑って返す。
その後も冬夜君と園内を回る。
夕食を食べてパレードを見てお店を回って閉園時間まで過ごした。
お土産は荷物になるから宅配サービスに預ける。
明日はいよいよ地元に帰る日。
冬夜君はシャワーを浴びてベッドの上で寛いでいる。
私もシャワーを浴びて髪を乾かす。
冬夜君はテレビを見ている。
私はスマホを見ていた。
渡辺班の皆が日常を送っていた。
「何か面白いことあった?」
自分のスマホを見ればいいのに私のスマホを覗き込むように見る。
それがスマホの内容が気になるわけじゃなくて私とのスキンシップを楽しんでくれてるんだって事くらいすぐにわかった。
「北村さんが動いたみたいだよ~」
「へえ~」
冬夜君いその部分を見せる。
冬夜君は笑っていた。
「帰ったらまた宴会でもしないとな」
冬夜君は言う。
「じゃ、冬夜君に頑張ってもらわないとね」
「え?」
「韓国遠征と、春季大会連覇。その祝勝会だよ」
「そんなに間をおいていいのかな?」
「大丈夫だよきっと」
「でもきっと壮行会とかやると思うよ?」
「かもね?」
スマホはすでに私の手元からなくなっている。
私は冬夜君の腕の中にいる。
私に布団をかけてくれてそしてテレビを切って照明を落とす。
愛とはつまり幻想。
こんなに甘い事は無い。
優しさに包まれて。
彼の心に直接触れて。
偶に傷つけあうけど。
互いに癒す術を手に入れる。
何度傷ついても。
何度でも修繕していく物。
年を重ねることに絆は強くなって磁石のように互いを求めあう。
愛とはつまり幻想。
お互いが共有する夢。
お互いが求めそして惹かれあう。
誰にも変えることが出来ないもの。
誰にも理解できないかもしれない。
だからこそ価値がある。
そんな2人に私達はなっていた。
冬夜君は私を包んで寝息を立てている。
いつもありがとうね。
お返しできるか分からないけど。
でも私の一生を費やしてもあなたの気持ちに応えてみせるから。
その時まで一緒にいてください。
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