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祈り、人の望みよ喜びよ
(1)
目覚ましの音で目が覚める。
今日は日曜日。
冬夜君の応援に行く日。
冬夜君は初戦を圧勝したあとも快進撃を続け決勝に辿り着いた。
後は私が約束を守るだけ。
冬夜君にちゃんと伝えるんだ。「優勝おめでとう」って。
朝食を食べて支度を済ませるとリビングで冬夜君の両親とテレビを見ていた。
健康についての番組とかやってる。
どうせ冬夜君に言ってもやらないだろうな。
やるんだったらまず食事制限からだよね。
そんな事を考えていると呼び鈴が鳴る。
「愛莉ちゃんお友達来たわよ」
「は~い」
「じゃあ、おばさん達の分も応援お願いね」
「分かりました」
迎えに来たのは石原君だった。
「おはようございます。時間大丈夫でしたか?」
「大丈夫だよ」
小さな紳士は私を車に案内してくれる。
私の隣には公生君と奈留ちゃんがいた。
「2人ともバスケットボールの試合は始めて」
2人ともうなずいた。
「興奮するからね。冬夜君のプレイは凄いよ!」
「ニュースでやったから知ってるよ」
「テレビで観るのと生で見るのとは全然違うんだよ~」
二人にどうやって冬夜君の凄さを伝えようか迷っている間に集合場所につく。
「遠坂さんは俺の車に乗ってくれ。石原君の車に5人はきついだろ?」
私は渡辺君の車に移動する。
「じゃあ、久留米ICまでいくぞ、トイレとか緊急の時はメッセージくれ」
渡辺君がそう言うと渡辺君の車を先頭に皆が動き出す。
「楽しみだな」
美嘉さんが言う。
「そうだね」
「冬夜の奴昨日何か言ってたか?」
渡辺君が聞いてきた。
「いつもの調子だよ。『僕大会が終わったら久留米ラーメン食べるんだ』とか言ってたから真面目にやりなさい!って怒ってあげた」
「あいつらしいな」
渡辺君はそう言って笑っている。
暫くすると美嘉さんの寝息が聞こえてきた。
「すまんな、こいつは助手席にいるといつもこうなんだ」
「そうなんだね」
「しかし凄い結果出してるな、冬夜の奴。個人賞総なめしそうな勢いじゃないか?」
「そうだね」
個人賞にはMVP得点王アシスト王3ポイント王リバウンド王がある。
取れないのはリバウンド王くらいか。
それでも冬夜君はあの身長で味方が外したシュートを強引にねじ込む力がある。
まさに縦横無尽に暴れまわる冬夜君。
当然ニュースにも取り上げられていた。
でも本人は今後の事を考えるとあまり取り上げられたくないんだろうなと思う。
「大丈夫なのか?アイツが辞めると言って辞められる状況じゃなくなってきてる気がするんだが」
「それでも冬夜君は意地でも辞めるよきっと」
「まあ、五輪でメダル取ってからの話だけどな。俺はもう十分にやったと思うんだけどな」
渡辺君はそういう。私もこれだけ頑張ったんだから辞めさせてあげて良いと思う。
でも本人が言い出したことだから、きっと貫くんだろうな。
「遠坂さんは将来決めてるのか?」
「え?」
「冬夜の嫁さんになるのは聞いてるが他にやりたい事とかないのか?って思ってな」
「冬夜君の稼ぎだけで生活できないなら私も働こうとは思う。でもそうじゃないなら家にいようって思う」
すれ違いの生活なんて絶対に嫌だから。
「俺も同じ気持ちだよ。俺が安定した収入を得たいのは美嘉に余計な苦労をかけさせたくないと思ってな」
「そうなんだ」
「でも、美嘉が今の仕事を続けたいっていうならそれは尊重してやるべきだと思う。冬夜も同じ気持ちなんじゃないか?」
「どういうこと?」
「遠坂さんが何かやりたい事があるならさせてやりたいって思ってるんじゃないかなと思ってな」
「私のやりたい事ならさせてもらってるよ」
「ほう?」
「冬夜君のお世話」
冬夜君は一人でも生きていける。でもその分余計な事に力を注ぐことになる。それなら冬夜君の将来を支えていきたい。それが私の願い。
「結婚した先輩として言わせてもらうと。苦労するぞ……ずっと一人で家にいるのは」
「それは花菜とかいるから平気だよ」
「そうか」
「大変なのは亜依だよね。桐谷君留年確定だし」
「そうだな」
そんな話をしていると目的のICについた。
高速を出ると近くのコンビニに車を止め皆が来るのを待つ。
「みんな揃ってるな!じゃあ、行くぞ」
そう言うと皆で会場に行く。
駐車して会場に行くと3位決定戦をやってる。
終盤に差し掛かっている。次は女バスの決勝だ。
私達は席を確保して試合を観戦していた。
すると男バスの皆がぞろぞろやってきた。
「冬夜君~」
私は冬夜君を呼んだ。
「愛莉?また早く来たんだね」
冬夜君はリラックスしてるようだった。
「試合前の練習とかしなくていいの?」
「軽い調整ならしてきたよ、女バスの応援決勝くらいはしておきたいと思ってね」
「席ならとってるよ」
「ありがとう」
冬夜君は私の隣に座った。
「女バスは勝てそうなの?」
「問題ないんじゃないかな?」
冬夜君はあっさりと答える。
「冬夜君達は?」
「負けるつもりで試合に臨まないよ」
にっこり笑って答える。
3位決定戦が終わり女バスの決勝が始まろうとしていた。
冬夜君の言った通り終始女バスが圧倒していた。
あのディフェンスとオフェンスでゲームを支配していた。
女バスって強いんだ。
冬夜君達は真剣に見ている。
ハーフタイムに入ると熊工大の練習が始まった。
地味だけど洗練された動き。
冬夜君達は練習に行かなくていいのか?と聞いた
「準備は万端だから」と冬夜君は言う。
油断は禁物だよ。
そう思わずにはいられない相手のプレイ。
冬夜君達はそんな練習を見ていた。
そして第3Qが始まる。
相変わらずの徹底した女バスのプレイスタイル。
冬夜君の言った通り安定してゲームをコントロールしていた。
第4Qが始まる頃冬夜君達は「次は僕達の番だから」と言って去る。
「頑張ってね」
「任せて」
そう言って去って行った。
冬夜君達には前年度王者の貫禄が出ていた。
冬夜君達なら勝てるよね?
そう祈っていた
(2)
「結論から言います。恐らく藤間君と片桐君同時に抑えにかかるでしょう」
監督が言う。
それは僕も思った。
シューティングガードは多分エースキラーと呼ばれるレベルのディフェンスのスペシャリストだ。
去年チャージングをとっていった凄腕の選手。
攻撃もインサイドはもちろん強化されているし4番の攻撃力も3Pを覚えて強化されている。
弱点は無いかのように見えた。
が、隙はある。
勝敗のカギはやはり僕なんだろうな。
僕は笑う。
「笑ってる場合じゃないですよ。片桐先輩」
佐倉さんから注意される。
「佐と僕を同時に抑えるなんて無理。うちのインサイド陣も決して負けてない」
「片桐君の言う通りですね。インサイドが弱いとはもう決して言わせない。ディフェンスはプッシングに気を付けて、多少2点取られてもいい。ランアンドガンでガンガン攻めていきましょう。片桐君はチャージングに気を付けて」
「はい」
「一度勝ってる相手だからと言って慢心しないで。彼等もレベルアップしています。その事を叩きこんで」
「っす!」
皆が答える。
「女バス優勝しました!」
1年がそう言う。
「じゃあ、皆さん祝福に行きましょうか」
佐倉さんが言う。
皆は控室を出る。
最後に僕が出る際に佐倉さんが言った。
「監督も言ったましたが7番のディフェンスは脅威ですよ。大丈夫ですか?」
「さっきも言ったけど蒼汰と僕を同時に止めるのは無理だよ」
「自信あるんですね」
「まあね」
皆は通路で女バスと話をしていた。
夏川さんは「今年もアベックで連覇狙うよ」と言う。
真司が「任せておけ」と言う。
「男バスもレベルアップしてる、一緒に練習してた私達が保証する。自信もって」と夏川さんが言う。
皆こくりとうなずく。
そして会場に入る。
観客は満席になっていた。
まあ、想定していた事だけどね。
「蒼汰」
僕が言うと蒼汰がボールを渡す。
僕はエアウォークを決める。
皆の歓声が沸く。
その後は大人しく3Pを練習していた。
練習が終わると皆監督の周りに集まる。
「皆さん目を閉じてイメージして、観客の歓声に包まれて勝って祝福されてる姿をイメージして」
僕達はイメージする
皆が配置につく。
僕は8番の人につく。
ディフェンスはマンツーのオールコートプレス。
ジャンプボールが放られる。
相手の6番がボールを弾く。
早速8番にボールが回ってきた。
8番がドリブルを始めると同時に僕の手は伸びていた。
ボールを弾く。
呆気にとられる8番を後目に僕はボールを掴んでいた。
そのまま相手コートに入ってシュート。
先制した。
僕達の勝ちパターンに入った。
だが相手も負けてない。
すぐに8番にボールを渡す。
今日も試合に入れてる。
8番が狙うポイントがはっきりとわかる。
尽くカットしてシュートに持って行く。
8番以外の選手がボールを保持する。
僕は8番から離れてディフェンスする。
しかし8番は舌打ちする。
やられたらやり返す。
ボール保持者と8番の間に入ってディフェンスする。
4番にボールが渡る。
身長が高くドリブルも上手い彼は易々とインサイドに入ってレイアップを決める。
味方はブロックに跳ばなかった。
彼等の攻撃方法は知っていたから。
無駄なファールは取られたくない。
その代わり攻めは容赦しない。
藤間君のパスは冴えていた。
いつもの戦術でフリーになった味方に鋭いパスを放つ。
試合展開はシーソーゲームになり。最初に確保した2点差を保持したまま第2Qを終えた。
(3)
「男バスやっぱり強いよ!」
女バスの皆が騒いでいる。
「相手も去年より強くなっているって聞いたけど去年と変わらない試合展開だよ!」
「これならいけるね!」
女バスの皆がそう言ってた。
「先輩たちマジかっけーっす!」と晴斗は言う。
「これは今年も決まりかな」と渡辺君も言う。
「愛莉ちゃんどうしたの?浮かない顔して」
恵美が言う。私は答えた。
「これで終わりなのかな?」
「え?」
皆が私に注目する。
「地元大の肝心のランアンドガン止められてない。冬夜君の3P対策も出来てない。まだ秘策がるんじゃないかなって思うの」
「愛莉、練習してる私達が保証する。ハイペースになったときの男バスのランアンドガンは止められない」
冬夜君の3Pはどこからでも打ってくるからと言う。
「それに速攻が止められた際の戦術も洗練されてる。見てて分かるでしょ。男バスん運動量は半端じゃ無い」
女バスの皆はそういう。
だけど、熊工大には秘策があるんじゃないか?
現に藤間君冬夜君のラインは潰されている。
だから点差が伸びない。
私は危惧していた。
その危惧が杞憂に終わればいいんだけど。
そう思っていた。
第3Qが始まってその危惧が的中した。
相手のディフェンスが変わった。
皆が藤間君とマークマンの間に割り込むような位置取りを始める。
藤間君はパスコースを潰され動けずにいる。
しかし冬夜君がパスを取りに動くとみんな一斉に動き出す。
冬夜君はパスを受け取るとバックステップをして身を反転させる。
相手の右わきを狙てドライブするとシュートを決める。
攻守が入れ替わる。
地元大のディフェンスは中を固める。
すると相手のPGとSFは3Pを打ち出した。
リバウンドの数は相手の方が圧倒的。
外しても味方が取ってシュートに持ち込んでくれる。
冬夜君は一人で3人をケアしないといけない事態に追い込まれる。
さすがに冬夜君でも無理。
相手のディフェンスのせいで3Pが打てない。
2点と3点の差がついて逆転される。
うちの勝ちパターンの逆を行かれる。
逆転されて差は3点差にまで広がった。
第3Qが終ると地元大は監督の指示を仰ぐ。
的確に監督は指示を出しているようだった。
「まさかあのディフェンスをしいてくるとはね」
「でも、フルタイムではできないからこそ第3Qから始めたんでしょ?」
女バスが言ってる。
冬夜君の言ってたことを思い出してた。
「相手には3Pシューターが出来た」って……。
でも冬夜君は言ってた。
「必ず勝つから」
その言葉を信じて試合を見守っていた。
(4)
「まさかあのディフェンス敷いてこられるとは思ってなかった」
「冬夜を完全に警戒してる。うちのパターンに持っていけない」
「どうするんだよ」
皆慌ててる。
「皆落ち着こう」
僕は言う。
「落ち着こうって言ったって初めてなんだぜうちがリードされるなんて」
「まず思い違いをしてる。僕達のパターンは3Pで点差を広げる事じゃない。ターンオーバーからの速攻だ」
「片桐先輩の言う通りです。片桐先輩のスティールから生み出すターンオーバーからの攻撃がうちの持ち味です」
佐倉さんも言う。
「つまりどういうことっすか?」
蒼汰が言うと東山監督が動いた。
「ディフェンスをしっかりしましょう。2点じゃ致命傷にならない。3Pを警戒してください。その代わり最低2点は必ずもぎ取る。それは可能です」
「これ以上点差を広げないって事だな」
真司が言うと監督が頷いた。
「ディフェンスを変えましょう。藤間君が7番について片桐君が4番についてください。3P成功率は明らかに4番が上です」
4番と8番をケアしろと言う。
僕はうなずいた。
「慌てる時間じゃない。まだ10分残ってる。勝つイメージをしっかり持って。相手もあのディフェンスが最後まで持つとは思えません。うちの戦術が彼等の想像以上に動かしてる」
「わかりました」
皆が監督の指示に従う。
「スタミナが持たないのは立証されています、現にファールを誘ったプレイに持ち込めていない」
佐倉さんが言うと皆が頷く。
「皆さん、勝ちに行きますよ。ここが勝負どころです」
監督が言うと皆うなずいた。
「泣いても笑っても最後の10分。気張っていくぞ!」
真司が言うと、皆雄たけびを上げる。
そして第4Qが始まった。
蒼汰がボールを運ぶ。
僕がボールを受け取りに行く。
それはフェイクだ。
蒼汰はフリーになった祐樹にパスを出す。
祐樹はその場でシュートを打つ。
攻守が入れ替わる。
僕は4番と8番の間についた。
案の定4番にパスが入る。
4番は3Pを打つ振りをする。
ポンプフェイクには乗らない。
相手がジャンプしてシュート打つタイミングを見て僕は跳躍する。
それで十分ブロックできる。
ルーズボールに走り込む僕。
ルーズボールをしっかりつかんだ。
4番がディフェンスにつくが……遅い。
一瞬の隙を突いてドリブルで突破する。
お返しにポンプフェイクをかけてやる。
相手の体が流れる。
その隙を突いて3Pを打つ。
これで2点差返した。
相手はアウトサイドに拘りだした。
それが致命的な判断ミスになった。
まだ、インサイドで3Pプレイを狙っていた方が良かったかもしれない。
3Pは僕が徹底的にブロックする。
ドリブルで侵入も許さない。徹底したマーク。
うちに流れが来た。
一気に突き放しにかかる地元大。
終盤になるとやはり体力に問題があったらしい。
相手は動きに精彩を欠いてきた。
一方勝負どころと見て、たたみかける地元大。
勝負は真司のアリウープで決定づけた。
地元大が春季大会を連覇した瞬間だった。
(5)
沸き立つ観客。
私達も飛んで跳ねて喜んでいた。
「やったね愛莉ちゃん」
「やったね恵美」
「冬夜先輩連覇とかまじすげーっす」
「さすが片桐君だね」
「来週は祝勝会だな」
皆が口々に喜びの声を上げる。
表彰される冬夜君達を見守る私達。
キャプテンの吉良君が優勝旗を手にすると拍手が起こっていた。
この大会のMVPはやはり冬夜君だった。
一人で何点決めたんだろう?一人でどれだけ3Pを決めたんだろう?
アシストもしっかり決めてる。
個人賞はリバウンド王以外総なめにしていた。
大会が終わると私達は帰りにつく。
美嘉さんと渡辺君と感想を言い合っていた。
興奮は覚めない。
「こりゃ6月も忙しいな。檜山の結婚式に、伊織たちの婚約祝いに、冬夜の祝勝会に……」
美嘉さんが言う。
「俺達も合否が決まるはずだしな」
渡辺君が言う。
「正志採用されなかったらどうするんだ?」
美嘉さんが聞く。
「恵美さん達に頭を下げるよ」
渡辺君はそう言って笑う。
「美嘉さんは渡辺君が就職したら専業主婦になるの?」
「いや、働くよ。今の仕事楽しいし」
「そっかぁ」
「愛莉は専業主婦だっけ?」
「うん」
「退屈じゃないのか?」
「いろいろやることあるから」
「そっか~」
「美嘉も片づけくらい覚えてくれたらいいんだがな」
渡辺君がそう言って笑う。
「この後帰ったら打ち上げしようぜ!」
「明日は授業なんだかんべんしてくれ」
美嘉さんが言うと渡辺君が返す。
「私も冬夜君迎えに行きたいし」
「そうか、じゃあしゃあねえな」
美嘉さんは納得したようだ。
その後疲れたかのように眠っていた。
「今日はたっぷり冬夜に甘えると良い」
渡辺君が言う。
「今日はやめとく~、冬夜君疲れてるだろうし」
「そうか……」
渡辺君はそう言うと黙ってしまった。
私は景色を見ていた。
そして思う。もう冬夜君が逃げたなんて言わせない。
冬夜君は十分にやった。温かく冬夜君の行く末を見守ってあげよう。
それがどんなに過酷な道でも。
そんな必要は無いのかもしれない。
どんなに寒い空でも温かく心の灯を灯すのだから。
(6)
「皆さんご苦労様でした。あとはリーグ戦ですね。気を抜かず練習に励みましょう」
「っす!」
「片桐君はオリンピック頑張って」
「はい」
「じゃあ、帰るとしましょうか?」
監督がそう言うと皆バスに乗り込む。
バスに揺られて、僕達は眠りにつく。
起きた時はICを出た後だった。
渋滞の中を抜けて地元大に着く。
バスを降りると愛莉の声が聞こえた。
「冬夜君~」
「愛莉」
愛莉は僕に駆け寄ってくる。
「迎えに来たよ」
「ありがとう」
「片桐先輩。今日はゆっくり休んでください」
佐倉さんが言う。
「わかった、佐倉さんもお疲れ様。佐とゆっくり休んで」
「なんでそこで佐の名前が出て来るんですか!?」
「いい加減認めろよ。周知の事実だろ?」
真司が言う。
「認めてますけど……」
「じゃあ問題ないな」
「……冷やかされるの慣れないんです」
「あんまりマネージャーをいじめちゃだめよ」
女バスの監督が言う。
「じゃあ、皆お疲れ様。来週末には祝勝会しましょう」
女バスの監督が言うと皆歓声を上げた。
僕は食べれるならどこでもいいよ。
もう6月か。
渡辺班も忙しくなるな。
愛莉の運転で家に帰るとご馳走が待っていた。食べて飲んで親が騒いでいる。
「……冬夜君は就職も決まってるそうで」
「ええ、あとは目的を果たすだけだと言ってます」
「……今夜は盛り上がりましょう!」
「そうですね」
僕たちは食べるだけ食べてそして風呂に入って部屋に戻る。
「お前も来年には一人前の男なんだ。そろそろ孫を見せてくれてもいいんだぞ!」
まだ結婚してないのになんてことを言うんだ親は。
部屋に戻るとテレビを見ながらくつろぐ。
愛莉がもってきた酎ハイを飲みながら。
「冬夜君はどう思ってるの?」
「なにが?」
「子供欲しい?」
酎ハイ吹いた。
「何を言ってるの!まず結婚が先だろ!」
「うぅ……冬夜君私の事お嫁さんだと言ってくれたよ?」
「愛莉、僕に出来婚なんてみっともない真似させないで」
「うぅ……」
愛莉は不満のようだ。
今日は疲れてるけどしょうがないな。
僕はテレビを消して照明を落とすとベッドに入る。
「愛莉おいで」
愛莉は喜んで僕に抱き着く。
「あとは五輪だけだね」
「できればリーグ戦勝ってから引退したいけどね」
「アジアカップは出るの?」
「代表は引退するよ」
「そっか~」
望んだ事が叶う喜び。
愛莉も祈ってくれてる。
今日も歓喜の歌声を上げながら、休息の時を迎えた。
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