類とも?

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類とも?

(1) 「あれ?音無さんは今日はお休みですか?」 まゆみちゃんが、誰も座ってない席を見て言った。 僕もなんとなくカンナの席を見る。 どうしたんだろう?昨日は元気だったのに。 まわりはひそひそ話をしている。 「初っ端からサボりかよ……」 「やっぱ向こうでも相当のワルだったのかな?」 「タバコ吸ってるところ見たって話だぜ」 「エンとかもやってるとか……」 「し、静かにしてください!」 まゆみちゃんが大声を出すと、騒ぎはしずまった。 (そんなやつじゃなかったのにな……) そう思いながら隣の席を眺めていた。 1限目が終わると、愛莉がやってきた。 「音無さんどうしたんだろ?冬夜君何か聞いてないの?」 僕は首を横に振った。 「サボりとかする奴じゃないのにな」 「音無さんなら矢口先輩と一緒にいるとこみたぜ!」 そう言って誠が混ざってきた。 「矢口先輩ってあの矢口先輩か?」 僕が聞き返すと誠は得意げに頷いた。 「そうそうあの矢口先輩だよ。朝練してたときに部室裏に連れていかれてた。やっぱ類は友を呼ぶってやつなんかな」 「カンナはそんな奴じゃないよ」 「人を見た目で判断するのは良くないよ。多田君」 意外にも愛莉が味方してくれた。 「で、でも二人で行動してたのは事実だぜ。音無さんが何もやってないなら絡まれたのか……」 「私がなんだって?」 その声を聞いて誠が驚いて振り返る。 驚いたのは僕たちもそうだった。 その声の主は紛れもなくカンナだった。 「い、いや。別になんもねーよ……」 引きつった笑みを浮かべそう言うと誠はその場から離れた。 「カンナどうしたんだよ?」 「音無さん何があったの?」 二人同時にカンナに聞くと、カンナはめんどくさそうな顔をした。 「どうだっていいだろ?大したことじゃないよ」 そう言うとカンナは席に座り、机に突っ伏して寝た。 「矢口先輩と一緒にいたって本当か?」 「そうだよ」 「何してたんだよ」 「だから大したことじゃないって!」 それっきりカンナは黙ってしまった。 (2) 昼休みも何も話してくれなかった。 矢口先輩について少し話そう。 一口で言うとワルである。 タバコは吸う、売春はする、授業はサボる、けんかはする……一つ一つ取り上げていたらきりがない。 カンナも感化されてしまったのか? いや、まだ今日は初日だ。 まだ助けようがある。 終礼が終わり、帰ろうとするカンナを呼び止めた。 「カンナ!ちょっと……」 「音無!ちょっとこいや!」 丁度待っていたかのように矢口先輩が現れた。 矢口先輩に言われるままついていこうとするカンナ。 僕は意を決してカンナの腕をとった。 驚いてこっちを振り向くカンナ。 「すいません矢口先輩、カンナは僕たちと帰る約束してあるので」 「あ?音無、なんだこいつ」 僕をにらみつける矢口先輩。こ、怖い。 「なんでもないです。おい、勝手に決めんなよな!」 それは面倒くさそうにではなく僕を庇おうとしてるように聞こえたのは気のせいか? 矢口先輩は僕に近づくといきなり胸ぐらをつかんできた。 「余計な真似してると、しばくぞこらぁ!」 その大声は教室にいた全員が動きを止めるほどのものだった。 静まり返る教室。 「先輩!こいつは本当関係ないんです!ほらとーやも謝れ!」 「うるせぇ!音無はひっこんでろ!」 そう言って矢口先輩の袖を引っ張るカンナを突き飛ばす。 僕は思わずカッとなった。 「カンナに手を出すな」 「あ?誰に口きいてんだこら!」 女子にグウで殴られたのは初めてだった。 後ろに吹き飛ぶ僕。かっこ悪いな。 「冬夜君!」 愛莉の悲鳴が教室に響く。 ざわつく教室。 誰かが職員室に知らせに行ったのか、生活指導の先生がやってきた。 「何事だ!?矢口!またお前か!!」 「ちっ!なんでもねーよ!!」 矢口先輩はそう言うとドアを蹴飛ばし教室を去った。 「冬夜君大丈夫!?」 愛莉がハンカチを取り出し僕の口からにじむ血をふき取る。 口の中を切ったらしい。 「今の時間なら保健室がまだ空いてるはず。行こう?」 そうして僕と愛莉……そしてなぜかカンナも保健室に向かった。 (3) 保健室 窓にうつるのはサッカー部と野球部の練習風景。 保健室では騒がないとよく言われるが、実際騒いでるところを見たことが無い。 そんな静まり返った部屋で手当てを受けていた。 と、いっても腫れあがった頬に湿布をはっただけだが。 「はい、これでOK。元気があるのはいいけど彼女を泣かせるようなことしちゃだめだぞ」 なんか誤解してるが、敢えて何も言わない。 「そっちの子も、あまり無理しないようにね」 カンナも突き飛ばされたときに腰を強く打ったみたいで湿布をはってもらってた。 「ありがとうございました」 愛莉がそう言うと僕とカンナも頭を下げると、保健室を出た。 「なんであんな真似したんだよ」 保健室をでるとカンナがそう聞いた。 「お前はああいう人間じゃないだろ?なんか脅かされてるんかと思ったんだよ」 「馬鹿じゃねーの。それで痛い思いして彼女泣かせて。頼んでないだろ」 まだ、目を赤く腫らしてる愛莉を見て言った。 そういうカンナも目を赤くしていたが。 「放っておけなかったんだよ。仕方ないだろ」 「馬鹿だな本当に……ここまでしてもらったんだから黙ってるわけにもいかねーよな」 そう言ってカンナは少し立ち止まり、愛莉の方をちらりと見て言った。 「今日夜家にお邪魔してもいいか?」 「うん?じゃあ、今日はお勉強は無しにする?」 ちょっと不満げに言う愛莉。 「そ、そうじゃないんだ、遠坂さんにもいてもらった方が良い。妙な誤解されたくないから」 「まあ、僕は問題ないけど……」 そう言ってちらりと愛莉を見る。 愛莉はため息をついて頷いた。 「まあ、そういうことなら仕方ないわね。じゃあ、いつもの時間に……」 (4) 僕の部屋。 「相変わらずおばさんのご飯はうまいな」 ふーと床に寝転ぶカンナ。 くつろぎ過ぎだぞ。 その時。 ピンポーン。 呼び鈴がなった。 愛莉だ。 「あら、愛莉ちゃんこんばんは。いつもありがとうね」 「いえ、一人でするより楽しいから。冬夜君は上に?」 「そうなの?神奈ちゃんと一緒なのよ」 「お邪魔します!」 ズンズンと階段がきしむ音がする。 バン!とドアが勢いよく開かれた。 愛莉の視界に入ったのは愛莉の方に足を向け寝そべるカンナとその横にいる僕。 「音無さん座って!」 「へ?なんで?」 「良いから座って!冬夜君もどこみてたのよ!」 「な、なにも見てないよ!」 愛莉の剣幕におされ、しぶしぶクッションの上に胡坐をかいた。 まだ何か言いたげだが愛莉も座る。 3人がテーブルについて数分がたった。 暫しの間沈黙が流れる。 「えーと……」 「それで……」 愛莉とカンナが二人同時に話だした。 「あ、ごめんなさい」 「いえ、音無さんどうぞ」 なんとなく気まずい空気。 ようやく意を決したのか細々と話し始める。 「……売れって言われたんだよ」 「え?」 聞き返した。 「だからパンツを売れって言われたんだよ!」 ちょっと焦った。親がお茶でも持ってこようものなら間違いなく聞かれてたに違いない。 そのくらいの大声だった。 幸い来なかったが。 余りの出来事に頭が付いていけないのか、何も言わない愛莉。 代わりに僕が尋ねた。 「それで……売ったのか?」 「売るわけねーだろ!」 顔が真っ赤だ、怒ってるのか恥ずかしいのか分からないが。 カンナの話は続く。 「それで『向こうではそのくらい普通なんだろ?そんな恰好して恥ずかしがんな』って……」 東京に住んでる皆さんごめんなさい。 と、心の中で思ったが。 カンナは僕をじっと見る。 「なあ?私ってそんなに軽く見えるか?チャラそうに見えるか?」 回答に迷った。 正直に回答すればいいのかどうかわからない。 茶髪に染めて両耳にピアス。膝上何センチあるんだというくらいのスカートの丈の短さ。 ピンク色の口紅もしているみたいだ。 「誤解を招く格好だとは思います」 代わって愛莉が答えてくれた。 「そっかぁ、向こうじゃ普通だったんだけどな……」 しょんぼりするカンナ。 「だけど、そういう人ではないということは分かりました」 愛莉がフォローする。 「そっか、それでどうすればいいと思う?」 「先ず服装をどうにかするべきです……、冬夜君良いよって言うまで部屋の外でまっててくれない?」 そう言われ、部屋をでようとしたとき、お茶を持ってきた母さんに遭遇する。 「ど、どうしたの?」 まさかさっきの会話聞いてたのか? 「なんでもないよ、2人っきりにしてほしいていうから出ただけだよ。あ、それ預かっとく」 そう言って持ってきたお盆を預かる。 「いいよ、降りてて」 母さんは下りずに耳打ちする。 「神奈ちゃん何かとんでもないことに巻き込まれてるのかい?」 「大丈夫だよ」 「あんたも今日怪我してきたし」 「ちょっとボールが当たっただけだよ心配しないで」 その時 「もういいよー」 愛莉の声だ。 意外に早かった。 「じゃ、母さんそう言うことで」 そう言い残して自分の部屋にもどった。 するとカンナがもじもじしながら、突っ立っていた。 スカートの丈が長くなってる。 「私も知らなかったんだけど、切ったわけじゃないんだね」 そう言って笑う愛莉。 スカートの丈が長くなっただけでこうも印象が違うのか? サイドポニーにしていた髪も降ろすとピアスが隠れて洒落っ気が大分無くなっていた。 「茶髪はそんなに目立たないのよね」 私もしようかな?と付け足す愛莉。 「あと化粧は控えた方が良いよ。それで大分良いと思う」 「ありがとうな、遠坂さん」 「愛莉でいいよ、私も以後は神奈って呼ぶから」 人の知らないところでどんどん親密になっていく二人。 いつの間にか携帯番号の交換までしていた。 「そうだとーやも……あ、でも……」 そう言って愛莉の方をちらりと見る。 「私は良いよ、神奈なら」 「じゃ、とーや……」 そう言って番号の交換をする。 「じゃ、用は済んだし私は消えるわ」 「そんな、折角だし一緒に勉強していかない?」 と、愛莉が呼び止める。 「いやあ、私勉強ダメなんだよねぇ」 そういって頭を掻くカンナ。 「冬夜君も最初はそうだったんだよ」 「とーやは何でもやればそれなりに出来てたからなぁ」 「神奈も出来るって」 「でも、なあ」 「折角夜二人っきりでいるとこ邪魔するのもなぁ……」 「まあ、何も無いから大丈夫だぞ?」 (まあ、期待はしてるけど) と、心の中で付け足しておいた。 愛莉の執拗な勧誘についにカンナも降りたのか。 「じゃあ、まあ明日からでってことで。今日は準備もしてないし」 「決まり。じゃあ明日からね!ついでに明日の朝冬夜君の家きなよ。一緒に登校しよ?」 「は?さすがにそこまでは……私朝苦手だし……」 「一緒に登校したら変なのに絡まれないよ!ね?冬夜君」 「まあ、そうだなぁ」 「じゃあ決まり!冬夜君の家に8時までにくればいいから」 こういう妙に押しの強い所が愛莉の長所なのか短所なのか。 「……わかったよ。8時だね。遅れたら先行っててくれよな」 「はーい」 「じゃあ、今夜はこれで」 「あ、玄関まで送って行くよ」 そう言って愛莉一人を部屋に残し部屋を出る。 「……断言していい。告白したの彼女の方からだろ?」 帰り際にカンナが一言。 「……まあな」 「精々尻叱れないようにがんばんな!じゃあな」 「遅いし気を付けて帰れよ」 「ああ」 そう言ってカンナは家をでた。 部屋にもどると、愛莉が勉強の準備をしていた。 「彼女良い子だね」 と、愛莉。 「そうだろ?人は見た目に寄らないもんだろ?」 そもそもどうしてあんな風になってしまったんだろう。 元々あんな性格じゃなかった。 東京で何があったのか? 今度聞いてみよう。 「じゃ、時間も遅くなったしちゃちゃっとやろっか?」 「そうだな、宿題くらいは済ませておきたいな」 そう言っていつもの時間にもどるのだった。 そしていつも通りの時間に勉強を終え、僕は彼女を家まで送る。 そして彼女が家に消えていくのを見届けて帰るはずだったのだが。 「!?」 昨日に続いて今夜も軽くキスをする。 昨日より若干長い時間だったかな? 夜の暗い道だったので彼女の表情はよみとれなかった。 少し沈黙の時間が流れる。 そして 「じゃあ、また明日ね」 そう言って家に入って行った。 僕も家に帰ってシャワーを浴びベッドに入る。 時計は23時をまわっていた。 照明を消して寝る。 と、携帯が鳴り響く。 慌てて取る。 「もしもしとーや?」 カンナからの電話だった。
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