第4章 機巧

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文政9(1826)年 江戸 俺、動達の孫である、功達(こうた)は、近頃、巷で評判のからくり人形の興業を見に来ていた。 あれから、祖父の動達は、兄弟子の妻である、縞さんを殺した下手人の手がかりを探して、方々歩き回ったが、結局、何も見付けられなかった。 死の間際、後を託すと言い残して、十年ほど前に亡くなった、祖父の想いを、受け取った父は、同じように、ここのところ、手がかりを探して、方々歩き回っていたが、何も分からなかった。 このまま、ただ歩き回っているだけでは、祖父の二の舞になるだけかも知れぬ。 そう考えた父は、自分は手がかりを引き続き探す一方、俺に、かつての平賀源内のような天才を見つけて、弟子入りするように頼んだ。 そのほうが、翔時機のような物を作り、下手人を早く見つける事が出来るかも知れぬと………。 俺は、噂では、あの平賀源内以上の才能を持っているという、この興業の座長で稀代のからくり師と呼ばれている、「からくり儀右衛門」という男に弟子入りをするべきか、迷っていた。 その男は、本当にそんなすごい人物なのか? まるで分からなかった俺は、とにかく、それを、見定めてやろうと思い、彼の興業を見に来たのだった。 俺は、興業が行われている建物に入った。 そして、この興業の評判を、長椅子の隣の席の男に聞いてみた。 俺「このからくりってそんなに凄いのかい?」 隣の男「しー、静かにしろい」 男は、俺の口を指で塞いだ。そして目配せして言った。 隣の男「まぁ、見てればアンタにも凄さが分かるさ」 俺は、数尺先の、真正面にある、からくり人形をじっと見つめた。 人形は、俺から見て、右の方にある、的を見ていた。 その人形は、ゆっくりと、背中の矢筒から矢を一本取り出すと、弓につがえて、的に向かって構えた。 すると、間もなく、矢を放った。矢は見事に的の真ん中に当たり、人形は、「どうだ」とばかりに、首を動かした。 隣の男は、それを確認してから俺に話かけてきた。 隣の男「なぁ、凄いだろ?」 俺は思わずうなづいた。 隣の男「あれが有名な『弓曳童子(ゆみひきどうじ)』だよ。儀右衛門の傑作の一つさ。この後、もっと凄いのが見れるぜ」 俺「あれより凄いのか?」 隣の男「まぁ、見てろって」
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