第2章 切欠

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安永6(1777)年 春分の次の日 未明 江戸 貧乏長屋 男が家の入り口の扉を開ける。 ガラガラ………。 男「今、帰ったぞ。今日はちょっと仕事が忙しくて、遅くなってすまん………」 男「おい、お縞!まさか、旦那を置いてさっさと寝ちまったのかよ」 男「おい」 男は、奥の間の蒲団に、こちらに背を向けて、横になっていた、女の身体をこちらに向けた。 男「ヒャー、何でこんな事に………」 男に背を向けていた女の身体を、こちらに向けた時、真っ先に目に入ったものは、女の腹から流れていた血の跡だった。 ……………… チュンチュン………。 いつの間にか、雀が外で鳴いている。 ……………… 源内工房 男「大変です、師匠。源兵衛兄貴の奥さんが、夕べ(ゆんべ)、何者かに腹を刺されて亡くなったそうです」 源内「何だって?動達(どうだ)、もう一度言ってみろ!」 動達「だから、あの縞さんが、昨夜遅く、何者かの手にかかって亡くなったそうです」 源内「何てこったい。そんなひどい事が起こるなんて、世も末だな。それで、源兵衛は今、どうしてる?」 動達「八丁堀の旦那のところで取り調べを受けてる最中でしょう」 源内「犯人の目星はついていそうかい?」 動達「まだ、下手人に結び付きそうな手がかりはないみたいです」 源内「そうか………」 それから、一刻ほど後。 動達「何とか、兄貴のためにも、俺が下手人の手がかりだけでも、見つけたいが………」 ……… 動達、彼は、蒼井曹達の先祖である。彼は、かの有名な平賀源内の六番弟子として、彼の工房で働いている。源兵衛は、動達の兄弟子で、源内の一番弟子に当たる。源内の二番弟子から五番弟子は、仕事が合わなかったのか、辞めていて、現在どこにいるかは、分かっていなかった………。
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