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鍋の中で5センチ角に刻まれたキャベツがグツグツと震えている。
深い森にかかった濃い霧のように眠気が頭にまとわりついて、瞬きする度に深い眠りへ落ちそうになる。
硝子の鍋の蓋越しに向こうを覗くと、キャベツの芯がうっすらとコンソメスープの色に染まっているように見えた。
蓋の取っ手を掴み、持ち上げた。
すると、もくもくと湯気が鍋と蓋の隙間から立ち上り、メガネを真っ白にする。
鼻から侵入した湯気たちはそのまま脳みそまで充満した。
煮えたコンソメとキャベツの匂いに睡魔も満足して引き揚げた。
フライパンの中心に少しの油を注ぎ、ベーコンを四枚並べる。
下を覗くと、青い火が底を丁寧に撫でている。
ゴーゴーと響く換気扇の音に加えて、パチパチとベーコンが縮み始めた。
すかさず卵を一つ、机の角でヒビを入れる。ヒビに両手の親指をかけ、熱を感じながら中心から少し外れたところに割り入れる。
そしてもう一つ。
ベーコンの額縁にきれいに目玉が収まった。
水を少し入れて蓋をした。蓋に手をかけたまま、目を閉じる。
睡魔はいない。代わりにフライパンの唸る声がよく聞こえる。
唸り声はだんだん乾いて、ここだ、という時に蓋を持ち上げる。
額縁の中から、プリッとしたピンク色の目玉がこちらを覗くと、ほのかな達成感が背中を撫でる。
一息ついたら寝室へ。僕の睡魔を引き受けてくれたあなたの元に。
そろそろ朝ごはんの時間だよ。
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