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僕は父であるタンスの前面と、母であるタンスの側面の間に生まれた。
同じタンスという存在を成り立たせるものだけれど、両者の間には決定的な差があった。
格の違い、とでも言えば良いのかな。
それはタンスの持ち主に接して貰う事の出来る頻度の高さ。
タンスの前面はまさしくタンスの顔だ。
引き出しが付いていたり、戸棚があったり。
言わばタンスの機能の殆どがそこを起点にしている。
一方で側面はどうだろう。
精々子供に落書きされるのが関の山。
あるいは押しピンを刺されたり、シールを張られたり。
どちらもタンスをタンスたらしめる大切な部分であるにもかかわらず、父は活用され、母は我慢を強いられ続けた。
そのせいか、父と母の間はいつもギクシャクしていた。僕を挟んで九十度に体を背け合い、お互いの顔すら見ようとしない。
夫婦の会話なんて一度も聞いたことが無かった。
僕が間にいるから二人は離れ離れになる事が出来ないだけで、心なんて通い合っていないんだろう。
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