離愁

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 かわたれ時、遠方に見える黛青の山脈の鞍部から太陽が顔を覗かせ始め、やがて尾根全体が朝日で光り輝き、棚引く雲のかかった空が朝焼けして微かに赤みを帯び、山脈の麓の方へ流れる川の水面が魚眼石のように淡桃にも淡黄にも淡青にも煌めいて来た。  今、その背景をバックに橋の欄干の袂で若い男女が抱き合っている。  男は背が高い為に背中を丸め首を前に倒して女の肩に顔を埋め、女は男の肩と胸の中間あたりに顔を埋めている。  そのバランスの取れた背格好と言い、調和の取れたファッションと言い、お似合いのカップルのように見える。  剰え二人は一つの絵画の中にいるように背景と溶け合い、マッチしている。
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