「初めて」を何度でも

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 出かける準備をして、最終チェックのために鏡の前に立つ。  鏡には活発な少女が映っていた。髪はポニーテールでメイクはナチュラルに。シンプルなTシャツにジーンズ生地のショートパンツを合わせてくるぶしまでの短い靴下を履く。最後にニカッと快活な笑みを浮かべれば、最高のが完成する。  スマホを開いて、今日の予定を確認した。  今日の彼氏(お客様)はハルトくん。25歳で幼馴染の男の子という設定だ。今日の私は男勝りなおてんば娘。だけど彼の前ではちょっとツンデレで甘えん坊。  ……正直、反吐(へど)が出る。好きでもない男にベタベタ触られて、「好きだよ」なんて言われて。そして「私も好きだよ」なんて笑って返す自分が、どうしようもなく気持ち悪い。  だけど私は、こうやって生きていくしかない。ちょっと可愛いだけで他には何もない私には、こうやって自分を売ることしかできないのだ。若く美しい今のうちに、お金を稼がなくてはならない。 「……いってきます」  返事の聞こえない空になった部屋にそう呟いて、私は部屋を出た。  一瞬視界の端に写った、の写真から無理やり目を逸らすように。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加