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変わらないもの
16歳の誕生日プレゼントは、新しい腕時計だった。薄桃色のチタン製---
今まで使っていた子ども用で、電池もなかなか取り替えができなかった。
小学5年に進級してからは鞄につけて持ち歩いていた。
「これなら高校を卒業するぐらいまで使えるから」
お母さんは、時計のハリをあわせながらそう言った。
腕時計がないと時間の感覚を忘れてしまう。
お父さんに「似合う似合う」と言われてお祝いに来ていたおばあちゃんに軽く睨まれた。
私も同じ。わかってないなと思う。
「体調が良くなれば、また学校に行けるから。」
両親は言う。でも私は知っている。
一度折れた木の枝のようにあちこち壊れた心の傷を繋ぎ合わせることは難しい。高校一年生にもなれば人の気持ちもわかってくる。
「咲良も何かひと言挨拶しろよ。」とお父さんが言った。これだから何にもわかってない。
ワインを飲みすぎて酔っぱらっているのかもしれない。
今年の誕生日に、家に招いた友達はいない。
八歳の弟がケーキを頬張って僕も「つけるー、つけるー」とはしゃぐ。
「あんたは、まだ使わなくていいでしょ。」
お姉ちゃんばっかりズルいと騒ぎ出す。やっぱりまだ小学校低学年だと
改めて実感する。
ちょっとだけなら貸してもいいかな。
最近の弟は、姉の持っているものに興味があるらしい。
「アキ、いいよ。少し使っても」
お父さんとお母さんは、目を丸くしている。おばあちゃんはなぜか微笑んでいつもより表情豊かな気がする。
「咲良は、大人になったな」
なんてお父さん言う。お母さんは、心配そうに頷く。一方、おばあちゃんはケーキを食べたあとリビングで座布団を敷いて横になっていた。
アキは、腕時計を握りしめながらリビングで駆け回っている。
すると、パキッと何かが割れるような音がした。
まさかと思い後ろに振りむく。
「えぇー、嘘だぁ」
新品の腕時計が見事に跡形もない状態になっていた。
そして私は思いきり叫んだ。
それでもアキが怪我をしていなかったかどうか心配だった。
こころなしか粉々になった破片が人の心のようだなと思った。
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