生産性ゼロの愛。

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生産性ゼロの愛。

「ねぇ、ヒロ。これってどっちの意味かな」 「どっちって?」  ヒロキは腕の中に収まったトモヤの顔を、うしろから不思議そうに覗き込んだ。  目の前のテレビ画面には、黒字で書かれた『LGBTカップルには生産性が無い』の文字が映し出されていた。 「子供を産むことをって言ってるのか、子供を産まないから人が居ない。人が居ないから、が無いってこと。どっちの意味で言ってるんだろ」 「あぁ……。GDP(国内総生産)的な意味でってことか……」 「うん」  ヒロキの指に挟まった煙草から、風に揺れるリボンのように煙がゆらゆら立ち昇っていく。 「どっちにしても同じだろ」 「え? どういうこと?」 「子供をって言うことも、って考えも、どっちにしてもその程度ってことだろ」  ヒロキは煙草を口に咥えると、大きく息を吸い込み、一気に吐き出した。煙はトモヤの耳の横を真っ直ぐに通過し、一瞬だけ勢いを弱めると、部屋の中へ溶けるように消えていった。 「そっか。おれ達も、日本の生産のために生産されたんだって考えると、ちょっと哀しいね」 「あくまでそれは、そいつの考えだろ」  ヒロキは(あご)でテレビ画面を指した。 「そうだね」  ヒロキの腕の中で、トモヤは小さく体を揺らして笑った。 「ねぇ! でもおれ達、愛の生産だったら負けないよね」 「あぁ、そうだな」  楽しそうに振り返るトモヤの肩に顎を置き、ヒロキは照れくさそうに笑った。 「おれ達には、子供ができないけど……自分の子供を殺す親と、他人の子供を殺す親と、おれ達だったら、どれが一番いいんだろうね」 「生産性プラマイゼロと、ずっとゼロの俺達か……」 「うん」 「そいつらにだけは、勝ちたいな」 「そうだね」  強く引き寄せられたヒロキの腕の中で、トモヤは小さく笑った。
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