ふっくら艶やかなる

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ふっくら艶やかなる

「はぁ…………っ」  大きなおおきな溜息を吐いた。  さまざまな理由のひとつは目の前でケロっとした表情に頬杖をついて、やたらと肉厚な焼き鳥を頬張ろうとする亮がいるからだ。 「どしたの、颯ちゃん」  パクッと頬張るそれは、薄暗い照明のせいでタレが黒光りしている……気がしてるんだけど。それは俺の目がおかしいのか、こんなことで顔が熱くなる俺の頭がおかしいのかわからない。そもそも鳥に失礼だ。いや、作ってくれた店主にも申し訳ないだろ。  そもそも平然と俺を見てくる目の前の亮が何よりもおかしい。  あんなことがあってから、時間にしてまだ30分しか経過してない。  何故、そんなに普通でいられるんだ……? 「なあ、亮」 「んー?」 「俺、いま現実を生きてる?」 「ぷはっ なんだそれ。これが現実じゃなくて夢だと思ってるの?」 「だって……だってさ……おかしいじゃんか」  急上昇する赤ら顔を両手で隠す俺に対し、亮はぶら下がる電球を見上げ、頭を左右に振りながら「んー」と考え込む。  俺にはもう亮の考えていることなんて検討すらつかなくて、大切にしてきたこの友人関係が壊れてしまうことを何よりも恐れていた。  なかなか返答が返ってこない亮に怯えている自分がいる。今更無かったことにしようと言われてもすぐには無理だし、実際してもらったのは自分なんだから……あー……もうわかんねえ。全然わからん。てか俺イっちゃったし。こいつ俺のアレ飲みやがったし。馬鹿なんじゃねえの……ああ、これも冗談なのか? だめだ……亮の本気と冗談のラインがわからない。あー……現状にちっとも頭が追いつかない。 「とりあえずさ」  やっと声を出した亮に隠していた手を退けると、 「あーん」  目の前に差し向けられた肉厚の焼き鳥。 「ほら、口開けて」 「……」  これはやっぱり赤茶色のようなねっとりとした艶やかさでいて、今の俺にはもう…… 「い、いらない」 「えー美味いのに」  残念と言いながら、ニヤッと笑ってくる亮は、俺がこの焼き鳥に対して何を想像しているのかわかっているんだ。 「そんなに俺のこといじって楽しいか」 「いじってるつもりはないんだけどね」 「なっ……なら、俺に一体何を求めてるんだよ」 「うーん、言っていい?」 「言えよ」 「好きになってよ」  俺はその一言で、なにもかも亮は理解してるんだとわかった。
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