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恋とか愛とか
「俺の言った……好きの意味ちゃんとわかってたんだな」
「わかってるに決まってるじゃん。俺、そこまで馬鹿じゃないし」
「お前はどこまで」
「本気」
「……マジで……気がつかなかった」
前の職場でも同じ営業職で共有する時間は多かった。プライベートでも、亮とは頻繁に飲んだり食事していたし、互いの家に泊まるなんて数え切れないほど。転職した今でもそれは変わらない。それなのに全然気がつかなかったなんて……
「いつから……」
「うーん、はっきり言っていい?」
「うん」
「美緒ちゃんと付き合い出してからかな。苦しそうに笑う必死な颯太を見てて、心臓が抉られるんじゃないかと思うくらい苦しかった。正直、あの女を立ち上がれないくらい罵倒して滅茶苦茶にしてやりたかった。俺の友達を馬鹿にすんなって……ふざけんのもいい加減にしろって……何度も何度も」
「……亮」
「それで気がついたら、いつの間にか俺の颯太を苦しめんなって思うようになってさ」
あの時、俺は必死で周りなんて見る余裕なかった。逃げていこうとする美緒を繋ぎとめるので精一杯。苦痛の表情を笑顔で隠され、その隣で俺の心はどんどん削れていった。
不倫相手から引き離してやっと手に入れたのに、どうしたら手に入れられるのだろうと毎日悩み続けた。
男のくせに泣くなんてかっこ悪いから、マンションの駐車場の車内で声を押し殺して泣いた日もある。
「俺だったら苦しめたりしないのに」
俺だけが何故こんなに苦しまなきゃいけないと思ったこともある。
「俺を見ろって思った」
俺だけを見て想ってくれたらと何度も祈った。
「男同士で何言ってんだって思われても仕方ない」
地位も名誉もないけど、平凡な幸せならしてあげられるって……
「でもさ、男女が成立して、同性同士が成立しないなんておかしいと思うんだよ。どっちも同じ人間だろ」
「……」
「俺は男が好きなわけじゃない。颯太、お前だから好きなんだ。俺が幸せにしてやるなんて高い位置から見下ろしたような言葉は言わない」
亮が何を言おうとしているのか検討もつかない。
「俺が求めるのは」
「うん」
「一緒に幸せでありたい」
その言葉を聴いて、俺が美緒を手に入れられなくて当然だと知ることができた。
「ははっ……そういうことなんだな」
どうして気がつかなかったんだろう。
俺はいつだって俺のことばかりだ。相手を一番にしているようで、まったくなってない。相手を思っているようで、独りよがりでみっともない。
あの時、俺もそう言っていたら、何かが変わっていたのだろうか。
「颯太の中に美緒ちゃんがいることはわかってる」
俺はまた失うのだろうか。
あとどれだけ大切に想う者を失っていくのだろう。
「亮」
「好きになってくれるまでいくらでも待つって、俺は覚悟決めてる」
「ありがとう」
「だから、颯太」
俺は自分が思っている以上に情けなくて弱い。そして、脆い。
「ごめん……無理だ」
誰かと付き合って失うのはひどく辛いから。
だったら、始まる前にぶった切ってしまえばいい。
俺はもう恋とか愛とか、二度と関わらないと決めたんだ。
過ちは繰り返さないと決めた、俺の予防策。
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