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ドアが開く。
「お財布をわすれちゃったわぁ。あら?ベッキーどこに行っちゃったの?ベッキー?」
ママが私を探している。
私はここよ、ママ。
私が自分の部屋を出ると、ママは安心したように微笑んだ。
「自分のお部屋に居たのね?あら?キッチンの戸棚が開いてるわ。おかしいわねえ。出る前はきちんと閉まっていたはずなのに」
やばい、気付かれてしまった。
ママがキッチンの棚に近づいていく。たぶん、クッキーが減っていることに気付くはず。このままでは、ママに叱られちゃう!
ママを悲しませたくない。
私は、思わず大声で叫んだ。
「ワン!ワンワン!」
驚いたようにママが振り向いた。
「あら、ベッキー。どうしちゃったの?」
ママの気を引くことに成功した。
次は、哀れに鳴くのだ。
「クウーン」
「まあ、ベッキー。寂しかったのね。かわいそうに。よしよし、いい子いい子。ママはすぐに帰ってきますからね」
気を引いている間に、なんとか戸棚のドアを閉めることができた。
一通り、ママが私を撫でたあとに、思い出したように振り返る。
「あら?戸棚のドアが閉まってるわ?変ね、先ほどは開いてたと思ったのに。
あ、それより、財布財布」
ママはバタバタと財布を取りに、ベッドルームへと走って行った。
私はほっと胸を撫で下ろす。
ママはきっと、買い物から帰ったら、クッキーが減っていることに気付くだろう。でも、大丈夫。私に戸棚を開けられるはずもないって思ってるだろうし、1番に疑われるのは、戸棚を開けることのできるトーマスだから。
いい気味。トーマスはまだしゃべることができないから、ママに叱られても反論できないもんね。
1時間くらいして、ママとトーマスが買い物から帰ってきた。
そして、ママがキッチンの戸棚を開けて首を傾げる。
「あらぁ?クッキーが減ってるわ?これはどういうことかしら?トーマス、昨日焼いたクッキー、いつ食べちゃったの?」
ママはトーマスがつまみ食いしたと思っている。トーマスは、お菓子を食べるとご飯を食べなくなるから、いつも戸棚に隠しているのだ。
「ダメじゃない。おやつの時以外にクッキー食べちゃったら。ご飯が入らなくなっちゃうでしょ?」
ママが困った顔をして、トーマスに小言を言っている。
もちろんトーマスはわけがわからなくて、キョトンとしている。
トーマス、いつも身代わりに叱られてくれてありがとう。ごめんね、でもやめられないの。
ところが、トーマスが突然私を指差して
「ベッキー」
って言ったのだ。
ウソ、トーマスがしゃべった!しかも、私を犯人だと知っている。
「今、ベッキーって言ったの?トーマスがしゃべったわぁ!凄いじゃない、トーマス。でも、初めての言葉がベッキーだなんて」
ママは複雑な顔をして笑った。
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