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初キス
二人きりの保健室。
「何かあったら呼びに来てね」と言い残し、山中先生は職員室へ向かった。
二つあるベッドのうち、窓側のベッドのカーテンが閉められている。近付くと、中からかすかに寝息(たぶん)が聞こえた。
深く大きく呼吸する。ぐらぐらと揺れる呼吸は、今の自分の心を写しているみたいだった。
「智矢、入るよ」
たぶん返事はないんだろうな、と思いながら小さな声で言った。
中からの返事は、やっぱりなかった。
少し顔を近付けたら、中が透けて見えるんじゃないかってくらい、ぺらっぺらなカーテン。なのに、目のまえに重厚な壁がそびえ立っているような威圧感があった。
すでに罪悪感を持っているのか、カーテンに伸ばす手が震えている。
普段は全く気にならないのに、寝ている人間がすぐ近くに居ると思うと、カーテンを開けるときの、シャッ!という音が、急に恐ろしく感じられた。ゆっくり慎重にカーテンを開ける。
その先に、ベッドで眠る智矢の姿が。
痛いくらい、心臓がバクバクと大きな音を鳴らした。
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