101人が本棚に入れています
本棚に追加
智矢の……。智矢の、唇……。
おれの目には……、頭の中にも、もう智矢の唇しか映っていなかった。
喉から手が出るって、きっとこういう感じなんだろうな。小さく開いたおれの口から、智矢に向かって見えない手が伸びていく。
触れたくて、触れたくて、仕方がなかった。
二つの唇の距離が、少しずつ縮まっていく。肌に、唇に、智矢の体温を感じ、目を閉じる。
唇の表面に、ちょんと智矢の唇が触れ……押し当てた。ぷにゅりと潰れていく、智矢の薄い唇。
温かい……。柔らかい……。智矢の……、大好きな智矢の……唇。
連打する太鼓のように、心臓がものすごい速さで脈を打っている。いけないことをしているはずなのに、嬉しくて、嬉しくて、たまらなかった。
このまま、時間が止まってしまえばいいのに……。
そうすればおれは、このあとおそらく……いや、確実に持つことになるだろう罪悪感を持つことなく、ずっとこの幸せな気持ちのままでいられる。
でも、そうならないことは分かってる。どれだけ望んでも、そうならない現実。
心臓をわし掴みされたみたいに、胸が苦しくなった。
最初のコメントを投稿しよう!