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最期
コルネ=ナイトレイは処刑された。
罪状は世界に対する反逆。神を殺そうとしたかどで裁かれた。前代未聞の大罪には死刑の一択。反対する者は本人含めて誰もいなかったーーたった一人を除いて。
今際の記憶に残るのは少年だ。悲壮な顔で死にゆくコルネを抱えて、何度も名前を呼ぶ。
「コルネ」
こちらを覗き込む少年の顔が絶望に彩られる。迷子のようで、コルネの目には今にも『彼』が泣きそうに見えた。
「どうして」
愚問だ。自分の力量くらいはわきまえている。本当に敵うなんて思ってはいなかった。それでも挑んだのは、どうしても譲れないものがあったからだ。
神殺しを目論んだ大罪人。神に敵うと思い上がった者の末路。後世にまで語り継がれるであろう不名誉も、罵詈雑言も甘んじて受けよう。
もちろん後悔なら山ほどある。未練だって数えきれない。それでもコルネは笑って逝くことができる。
だって守りたいものを守れた。自分の命よりも大切なものを。コルネは満ち足りていた。
「……おいていくのか」
(そんな顔をしないで)
すがりつく『彼』の頬に、コルネは手を伸ばした。が、鉛のように腕は重く、届かなかった。悲しませるつもりはなかったのに。力尽きた手では頭を撫でてやることもできない。
(きっとまた会えるから)
慰めの言葉は声にもならない。口から出るのは掠れた息だけだ。それもあとわずか。ひどく冷たくて、眠たかった。
「いくな。おいていくな」
(ごめんね)
覚悟した最期だった。何度生まれ変わっても自分は同じ道を選んだだろう。確信と満足感、そしてほんの少しの罪悪感を胸に、コルネは眠りについた。
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