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「毛糸以外にも温かいものなんか幾らでも在るだろ? 俺だったら、猫になって炬燵とか日溜まりの縁側とかでぬくぬくしたい」
そう思うのは、自由気儘だったりゴロゴロしていても、それが猫の良い所であり愛される部分でもあると言うことを知っているからだ。
しかし毛糸はどうだろうか。確かに、もさもさしていて温かいことは事実。
でも、それになりたいと思う程に、憧れの対象になり得るモノだろうか?
意思も感情も無い無生物に憧れる気持ち――。
俺にはどうやら理解出来そうにもない。
ただただ疑問符を浮かべる俺とは対照的に、神崎の奴は何がツボに嵌ったのかは分からないが、口許を押さえながら喉の奥で笑っていた。
そんな神崎の様子に気付いた純が、いつものゆるゆるした口調で声を掛ける。
「なぁに、誠一君。そんなに意味深な笑いしちゃって、どうしたの?」
すると、もう限界とばかりに神崎が噴き出した。
「イッスン、マジで勘弁してくれよー!『どうしたの?』じゃないだろ?」
「――じゃあ、『如何なさいました?』」
ゆるりと純が問えば、すかさず笑い混じりの言葉が続く。
「いやいやいや、違うから! そういうことじゃないから!
俺は超真剣なの、言葉遊びじゃないの。そこんトコ分かる?」
「僕も、超真剣に毛糸になりたいんだけど」
「ぶっ!」
「神崎、煩い。純も意味分からんこと言うな」
「だってカッシー、毛糸だぜ? 幼稚園児だって毛糸になりたいなんて発想はしないだろ、フツーに考えてさ。
マジ紙一重だよコイツ」
未だに苦しそうに笑いながらも、口はよく動く神崎。遠慮のないそれは、コイツらしくて本当に流石だと思う。
しかし何がそんなに笑う程楽しいのかは、俺には理解出来ない。
訳の分からなさでは純に及ばないが、神崎は神崎で良く分からない存在なのである。
何せ転校して来た日の挨拶第一声が、変だった。
『複雑な家庭環境の事情により家出目的で転校して来ました。その辺りのことは俺が心の扉を開く日まで詮索しないで下さい』
その強烈な自己紹介はネタなのか本気なのかと一瞬で教室が沸き、担任も目を丸くしていた。
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