俺の幼馴染の願望が酷過ぎる

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 間違いなく変なヤツだし、言いたいことはキッパリ言うヤツだ。  何かとおちゃらけてはいるが、普段からの観察力の鋭さだとか頭の回転の速さだとか、そういった点は俺も含めて周囲が認めている。  今回もいつも通りの神崎節と言えば、その通りだ。しかし人によってはあまり良い気はしないことも、予想に難くない。  故に一応、純のフォローに回ってみる。その意味は無いだろうと思いつつも。 「かなりの少数派だろうけど異端レベルじゃないだろ。純、理解は出来ないが思うのは自由だ。気にするな」 「うん。有難う」  やはり純は、大して気にしている様子も無い。俺に一言礼を言うと、くるりと神崎に向き直る。 「誠一君の言うことは、尤もだと思うよ。多分、世間様は毛糸になりたいなんて思わないだろうね。だから斜め上の発言をすることが多い僕が色々言われることは、仕方がないんだよね?」 「何だよイッスン。自分が変人なの良く分かってるじゃん」  自分のことなのに確認の疑問符を付ける純に、神崎は少し得意気に言った。  ところが形勢は、続けられた一言によって呆気なく逆転してしまうのだった。 「それじゃあ……変人の僕が『そんなこと言う誠一君なんか公園で野宿して、序でに補導されちゃえば良いよ☆』なんて意地悪を言っても不思議じゃないよね?」 「酷ぇ! この寒空の下で野宿なんかしたら、確実に死ぬっつーの!」 「それは大丈夫だよ。早く補導してもらえる様に、僕が匿名で110番してあげるからさ」 「イッスンの鬼ー!」 「何とでも言って下さ~い」  冷たく照らす街灯の下で、にっこり態とらしく笑ってから軽やかに逃げる鬼の純と、それを追う迫害された神崎少年。立場としては逆の鬼ごっこが始まった。  止める間もなく、二人は遠ざかって行く。  丁度向かって来る車のヘッドライトが、二人のその姿をヘンテコな影絵の様に映し出している。 「あいつらは子供かよ……」  影絵を眺めながら誰に聞かせるでもなく自然と零れた言葉は、呆れ半分、笑み半分。  自分だって大人から見れば、まだまだ子供にすぎない。だけど高校一年生は、背伸びがしたい複雑なお年頃でもあるのだ。  無邪気なお子様たちは、15メートル程先の交差点で戯れている。  故に俺は、こう言ってやることにした。 「車が来てるから気を付けろよな!」  勿論、二人が縁石から飛び出して車道に出るなんてことは思っていない。これは、単なる大人の真似事なのだ。 「たすけてぇ~」  二人を影絵に仕立てた車が、冷たい風と共に通り過ぎる。  それに掻き消されながらも辛うじて聞こえてきたのは、自身がなりたいと願っていた毛糸によって編まれたマフラーで緩く首を絞められた純の声。  因みにそのマフラーは、息子の俺や親父を差し置いて『純君の為に!』と、いの一番に編まれた俺の母のお手製である。  その事にあからさまにショックを受けていた親父の様子は、少し面白かった。  俺はと言えば、嬉しくない訳ではないがお年頃故に気恥ずかしいので、誠心誠意ありのままの気持ちを伝えてお断りをしておいた。そんな素直な15の夜。  しかし純は、大層お気に召している様子だった。
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