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「神崎、往来で事件起こすなよ」
「分かってるよ。絞め上げる感覚が手に残っても嫌だしな」
二人に追い付き嗜めれば、神崎は純からパッと手を離した。
「有難う、隼人。儚くならずに済んだよ」
純はマフラーを丁寧に直すと息を吐いて、満足そうに胸を撫で下ろしている。
「凶行を止めに入った勇敢な鹿島少年に拍手だな」
「そうだね、拍手しかないね。何処ぞの勇者が現れたのかと思ったよ」
「君の勇気ある行動に、全米が涙した!」
二人が俺に向き直り、芝居掛かった言い回しと何となくムカつく笑顔をしながら、白々しく拍手を送ってくる。手袋越しの、パチパチならぬポスポスした気の抜けた拍手を。
何という茶番だ。
「被害者と加害者だろ、お前らは。簡単に意気投合してんなよ」
「じゃあ、被害者と加害者になるずっと前から親友で、そして実は前世からのソウルメイトだったんだけど、今世での生き別れの家族に関わる秘密をイッスンの家族が知っていて、そこから親友の俺たちは色々と行き違いと誤解があって、それで疑心に駆られた俺が泣く泣くイッスンに手を掛けようとしていたところをもう一人の親友が助けに来た訳だが、何とその親友は悪どい科学者に記憶を操作された生き別れの家族の一人で全ての真実を思い出し、それで俺たち二人の誤解は解けて、涙を流しながら手を取り合って仲直り。っていう感動設定でヨロ〜」
少し文句を言ってやれば、神崎はしたり顔で早口に設定をこじつけてきた。
噛まずに良く言えたものだと少しだけ感心するが、現実とは厳しいものである。
「引くくらい長かったけど、ちょっと在り来たりじゃない? 63点くらいかなぁ」
「そもそも、設定自体が不要」
「二人とも酷いんだけど!?」
純と共に遠慮無くこき下ろせば、当然批難の声が上がる。
「良く口が回るな、とは思った。でもそれだけ」
「甘やかすと誠一君の為にならないからね。僕の採点は厳しいよ」
「あーん、イジワル〜」
俺と純とで止めを刺すと、態とらしく電柱にしな垂れ掛かる神崎。
馬鹿らしくて生産性も意味も無いのかもしれないけれど、正直こういうのは嫌いじゃない。
純とは腐れ縁で、二人で色々なことをして来た。そこに神崎の賑やかしも当たり前の光景になり、この三人で連むのが俺の高校生活における楽しみの一つとなっている。
そんなことは、恥ずかしくて言える筈もないから言わないけれど。
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