俺の幼馴染の願望が酷過ぎる

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「とにかくほら、お遊戯会が終わったなら戯れてないで帰るぞ。お前ら俺の燃費の悪さ知ってるだろ? 早く帰らせろ夕飯食わせろ」  二人の間を押し通りながら、何度か渡り損ねてしまった青信号を大股で歩き出す俺に、アホアホコンビが続いて歩く。 「そうだな。真面目に勉強して来たし、俺もエネルギー補給したいわ」 「僕は、温かいお茶が飲めれば取り敢えずは良いかな」 「純、お前はもっとちゃんと食えよ。体内でエネルギーが作れないと、この時期は体調崩し易いんだぞ」  俺は振り向き様に、学ランに隠れた細い身体を指差して言った。 「そうだぞ純。お母さんの言う通り沢山食べて、逞しく、そして大きくなるんだぞ」 「分かったよ、誠一パパ」 「よーし、偉いぞー!」 「やった! パパに褒められた!」  ……純粋に心配から出た俺の言葉を切っ掛けに、また何かが始まった。よくネタが尽きないものだ。ある意味で、この二人には感心してしまう。  しかし解せん。断固抗議だ。 「勝手に俺をオカンにするんじゃねーよ」 「でも、デザートに隼人の作った蜜柑ゼリーがあるって、依吹(いぶき)ちゃんのリーク情報があるよ?」 「うわーマジかー。カッシー優しい~♪俺嬉しい~♪ てことで、思わず韻踏んじまったわ」 「おお! 誠一くんエモいね~。良いYOー!」 「YEAHー!」  抗議は見事にスルーされ、二人は無意味にピースサインをしたりお互いに指差し合ったりしながらまた盛り上がっている。  たかが蜜柑ゼリーで、このはしゃぎ様は異常だろう。見てるこっちはむず痒くて仕方がない。 「あんな物、缶詰めとゼラチンがあれば誰でも作れる。因って俺はオカンではない。以上、証明終了!」  反論は許さないとばかりに早口で言い捨てた言葉に、後方から「えー!?」と不満の声がハモって聞こえてくる。  しかしこればかりは、譲る訳にはいかない。何故なら俺は、格好良い男に憧れる、普通のスポーツ少年なのだから。 「でも、まあ……アレだ。お招きするからには、不味い物は食わせられないからな。母さんも張り切って用意するって言ってたから、俺も楽しみだし」 「……っ! カッシー!」 「今度は何だよ?」  俺はただの事実を述べただけだ。それなのに、拡大解釈をした神崎にガッシリと肩を組まれてしまった。ウザい。 「うんうん。『お友達をお招きするからには』ってことだよな!」 「そこまでは言ってない!」 「おやおや、隼人くん。ツンデレですかな?」  斜めになった体勢を戻そうともがく俺に、純が揶揄を飛ばす。 「ツンデレ言うな! 神崎も離せ!」 「だが断る!」 「だがそれこそ断る!」 「仲良しだね~。僕も仲間に入れてもらおうかな」 「いやいやいや、止やめろって!」  制止の言葉など何のその。ニコニコしながら眺めていた純までもが混ざり、俺は両側から挟み込まれてしまった。  何とか抜け出そうと試みるものの、なかなか上手くいかない。一対一ならこの二人に負ける気はしないが、挟み込まれた状況では些か不利である。
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