俺の幼馴染の願望が酷過ぎる

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 そんなに落ち込む程、見て欲しい自慢の一品なのだろうか?  ならば、一瞬くらい見てやっても……などと血迷い掛けた時。  ――きゅるるるる〜。  遠慮なく俺の腹の音が鳴った。  すっかり暗くなった空の下、行き交う車のライトを頼りに、何となく三人で顔を見合わせる。 「……もうダメだ。お前ら余計な体力使わせやがって」 「隼人のお腹のライフはもうゼロよ」 「俺も結構ギリかも。とにかく巫山戯てないで早く帰ろうぜ。寒いし」  神崎のその提案に異論など、誰も有る筈がない。元々が帰り道なのだから。  だがしかし。 「神崎、お前がそれを言うか?」とは、胸中で異議を申し立てておいた。散々振り回してくれたのはお前と純の二人なんだぞ、と。  そんな幾ばくかの不満も有るが、とにかく俺は、漸く終わりが見えたお巫山戯モードから気を取り直すことにする。  その為に二人から解放された身軽さに両肩をグルリと一回りさせれば、自由の素晴らしさが身に沁みる。  今日は疲れた。  不必要な消耗をした。  運ぶ足取りが、何となく重い。  それはテスト勉強だけが原因なのではないことは、改めて言うまでもない。 「約束通り。誠一君には後で見せてあげるね」  寒さに身を縮こませ無言で歩けたのは、本の少しの間だけ。  静寂を破るのは、やはりコイツだった。 「イッスンの中では確約なんかい……アリガトウゴザイマス」 「良かったな、神崎」 「……嬉しくて泣きそう」  皮肉を込めて言ってやれば、気が進まないのか飽きたのか、真顔で返してくる神崎。お調子者のコイツも、上位の変人には流石に辟易としているのかもしれない。  いつもみたいにキッパリ断れば良いのにと思う。  そもそもが、その場の流れでテキトーなことを言うから、ややこしくなるのだ。 「隼人も。見たくなったら、いつでも言ってね」  ところで。一度や二度ハッキリ断ったところで怯まないのが、この石動(いするぎ)純という不思議生物である。 「だから、俺は見たくないって言ったよな?」 「家に着く頃には、気が変わるかもしれないよ?」 「気は変わないから心配するな」    この話はいつまで続くのだろう。思わず零れる溜息も、直ぐに凍って消えていく。  腹巻に関しては腹ペコ組はもう充分に満腹状態で、そんな物よりも春巻でも所望したいところであるのだが、どこぞの怪人腹巻男は全く意に介さない。  それどころか、名案を思いついたとばかりに声を弾ませ変態発言をかましてくる。 「依吹ちゃんにも見せてあげようかなー。 この前テレビで見たんだけど、女子は、腹巻男子に萌え萌えするんだって。本当かな?」 「……お兄様、あんなこと言ってますわよ?」  依吹は色気も何も無いガサツな妹だが、変人の餌食になってしまうかもしれないことを、神崎は一応気遣ってくれるらしい。  本人に言うつもりはないが、意外と優しいところもあるんだなと少し見直した。  しかし俺は、腹巻の件には関知しない。妹を思えばこそ、兄として世間の厳しさも教えてやらねばならないのだから。
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