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「依吹が興味あるって言うなら、良いんじゃないか?」
「マジか……」
空腹と純ワールドの攻略で気力と体力が共に消耗していたとか面倒臭いとかでは、決してない。
純と依吹は兄妹の様に育ってきた幼馴染同士だ。全裸になる訳ではないのだから、俺が気にすることは何もないだろう。
それに本当に嫌なことは、自分で断る勇気を持って欲しい。
……と、建前は幾らでも挙げられる。本音は勿論『そろそろ本気で面倒臭い』だ。
「それじゃ、依吹ちゃんに見てもらって、萌え萌えしたか確認してみるね。楽しみだなー」
「そりゃ良かったな」
本当は投げ遣りな俺の言葉を肯定と捉えた純は、足取り軽くウキウキと俺たちの数歩前を行く。
果たして、テレビは正しい情報を発信していたのか否か。
たった一例ではあるが、その検証が出来ることに上機嫌な様子だ。
「ねえ、隼人。真弓さんにも見てもらって良い?」
俺に尋ねる為に振り返り後ろ向きで歩く純を、危ないからと再び反転させて答える。
「……母さんは、お前のどんな格好を見ても『可愛い』とか『似合う』とかしか言わないと思うぞ。それに“女子”じゃないから参考にならないんじゃないか?」
俺と純の家は、俺たちが生まれる前からのお付き合いだ。純の家の事情もあって子供の頃は俺の家によく預けられていたし、今でも夕飯などは一緒に食べることが多い。
俺の両親にとって、純は『隣の家の子』ではなく『素直な方の息子』なのである。
だから母さんが純の腹巻姿を見てキャッキャしたとしても、それは萌え萌えが如何とかではなく母性や家族愛から来るものだ。
そう考えると、依吹の反応検証についても家族愛の延長に過ぎないか……? と思ったが、それは言わないでおく。
純が満足して大人しくなるなら、それで良い。
「でも男子校だし、他に見てくれそうな異性が思い付かないよ」
「流石のイッスンでも、道行くお姉さん方に『僕の腹巻見て下さい』とは言えないってことか」
どうしたものかと口にする純に、またもや神崎がテキトーなことを口走る。
「ナイスだよ誠一君、その手があった!」
「ちょ、本物の変態になるから本気にしちゃ駄目なヤツよ!?」
「勘弁してくれ」
振り向き様に、片手の親指を突き立てる所謂『良いね!』ポーズをして見せる純に、俺たちは異口同音で制止する。
「二人とも必死だね。冗談だよ、安心して。そもそも人見知りな僕に、それはハードル高いし」
「おう、そうだな……」
冗談は言うが嘘は吐かない純の言葉に従い一先ずは安心するとして、俺は神崎を小突いた。もう余計なことは言うなよ、の意味合いを込めて。
小突かれた横っ腹を摩りながら、神崎は渇いた笑みで「悪りぃ」と答えた。
背後で行われたそんな俺たちの遣り取りを知ってか知らずか――。
「まずは依吹ちゃんだね」
純のゆるりとした声が、標的を定めて明らかな熱量を持ったまま暗い寒空に溶けていく。
俺たち腹ペコ組はと言えば、物理的限界や精神的消耗、今後待ち受ける展開などを思い、色々な意味で脱力しながら後をついて行くのだった。
(それにしても、直穿きしない物とは言え毛糸のパンツになりたいとか……。無害そうに見えて、やっぱり純も男なんだな。しかも、かなりのムッツリ野郎だ)
――これは、幼馴染についてそう思わされた日の話なのであった。
===おわり===
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