343人が本棚に入れています
本棚に追加
通常、教育実習というのは担当した学年を主に受け持ち
それ以外の学年まで教えたりすることはまず無いのだが、
たまたま体調を崩している数学教師のピンチヒッターとして急遽、
担当の3年以外に1年生の数学を1クラス受け持つことになった。
「何事も経験、やってみろよ。
あ……まさか毘聿に限って出来ないとか無いよな?」
とのかなり分かりやすい挑発的な麻巳の一言に
当然こちらも乗るわけだが。
3年生と比べて1年生というのは初々しくって可愛い。
自分もこんな時期あったんだろうなと思うと、
落ち着いた3年とは違って新鮮に感じて
ま、準備とか実習記録書が倍になる大変さはあれど
自分が楽しいと感じるならそれもアリかと思う。
ただ……唯一気掛かりな問題があって……。
授業中は静かなくせに終了して教室を出ると
決まって―――――
「あの~先生、ちょっといいですか?」
(あ~やっぱり今日も来たか)
「今日は何処が分からなかった?許須萱?」
慣れた仕草でニッコリ笑って応える
この大人しそうな少年こと許須萱 海(もとすがや うみ)に捕まるのだ。
きっと、皆の手前シャイで聞くことが出来ないのだと思って
どうやったらもっと分かりやすく授業できるんだろうかと
自問自答する場として接していた。
……だから、コイツがどんな表情で聞いているかまでは
全然気付いてなかった。
最初のコメントを投稿しよう!