その瞳で

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通常、教育実習というのは担当した学年を主に受け持ち それ以外の学年まで教えたりすることはまず無いのだが、 たまたま体調を崩している数学教師のピンチヒッターとして急遽、 担当の3年以外に1年生の数学を1クラス受け持つことになった。 「何事も経験、やってみろよ。 あ……まさか毘聿に限って出来ないとか無いよな?」 とのかなり分かりやすい挑発的な麻巳の一言に 当然こちらも乗るわけだが。 3年生と比べて1年生というのは初々しくって可愛い。 自分もこんな時期あったんだろうなと思うと、 落ち着いた3年とは違って新鮮に感じて ま、準備とか実習記録書が倍になる大変さはあれど 自分が楽しいと感じるならそれもアリかと思う。 ただ……唯一気掛かりな問題があって……。 授業中は静かなくせに終了して教室を出ると 決まって――――― 「あの~先生、ちょっといいですか?」 (あ~やっぱり今日も来たか) 「今日は何処が分からなかった?許須萱?」 慣れた仕草でニッコリ笑って応える この大人しそうな少年こと許須萱 海(もとすがや うみ)に捕まるのだ。 きっと、皆の手前シャイで聞くことが出来ないのだと思って どうやったらもっと分かりやすく授業できるんだろうかと 自問自答する場として接していた。 ……だから、コイツがどんな表情で聞いているかまでは 全然気付いてなかった。
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