その瞳で

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実習生の朝はとかく早い。 月曜日は尚の事やること一杯だ。 無論、この俺も。 先週色々麻巳からアドバイスを受けた所をチェックし 今週の予習の為に今日は普段より特に早く来ていた。 ……と言えば真面目な実習生に聞こえるだろう、な。 実際は1週間毎週明けに前週の反省と自己評価と今週のプランを 提出しなければならないプリントを すっかり教室の教師机に忘れてしまった為、 慌てて早く来ざる得なかったという現実があっただけ。 (クソ……忘れてなきゃ後1時間は寝れたのに) 1週間通った教室、勝手知ってるなんとやらで、 ガララッとドアを開けて勢い良く入る。 「おお!あったあった!ヤバかったぜ~ 早くこれ書いとかとな麻巳に何て言われるか…… 万が一生徒に見つかりでもしたら落書きされそうだしな」 どうせ誰もいないしと、 お世辞にも小さいとは言い難い独り言を口にしながら 教壇の机の中をガサゴソやっている時、 ふと、人の気配に気が付いた。 「……おぁ!……えと、これは……」 誰かいるとは気が付かずに、 イキナリ教室に入って教壇の中を漁っている自身が 急に恥ずかしくなって、ハハハ……と 苦笑しながらその人物の方に振り向いた。 そして――――――――数秒後、その笑いは凍りついた。 (…………オイ……すげー……綺麗な……ヤツ) それは、思わず息を呑んでしまう程だった。 「……おはようございます」 そう言った声は、その彼に似合った低音で良く通るモノだった。 「先生?どうしました?」 見蕩れてた俺は再びソイツに声をかけられてやっと我に帰った。 「え?ああっ……と何でもない。 お前……今までいなかったよ……な?な、名前は?」 本当は聞くまでもなく該当者は一人しかいないのは 分かっていた。 分かってたけど―――――どうしてもその口から聞きたかったんだ。 「藤宮允人です」 その名前を。
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