プロローグ:フラットな新メンバー

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プロローグ:フラットな新メンバー

「か、加藤……オレ、ずっと前からお前のことが!」 「え、えーっと……じ、実は私もずっと前からあなたのことが」 「っ、か、加藤!」  放課後の視聴覚室。  普通の学校であれば間違いなく使用されることがない時間帯に、とあるサークルのメンバーたちの話し声が反響している。 「あ、えっと、だ、ダメだよ鳴海くん。私たち、まだ高校生なんだから」 「そ、それでもオレは加藤が欲しいんだ! か、加藤の中に、お、オレの!!」 「って、何やってんのよあんたたちはぁぁぁ!?」  ライトブラウンのツインテールを左右に激しく揺らしながら、一人の少女が一組の男女の仲に割って入った。その少女の剣幕に、その男女は距離を引き裂かれてしまう。 「あら、ちょうどこれからというときに入って来なくても良いのよ? まあ、2人ともかなりの大根役者であることは認めるけども。もう少しプロット通りというか、感情をもっと表に出してもらわないと参考にならないわね」 「そういうことを言っているんじゃないのよ! なんであんたの意味分からない茶番に、玲と加藤さんが付き合わされているのよ!? それに、あんたも加藤さんに気持ち悪い顔で迫っているんじゃないわよ!」 「し、仕方ないだろ! 美鈴先輩からそういうプロットを受け取っていたんだから」  傍から見たら演劇部の活動なのではないかと思われそうだが、実際のところは全くそういうことではなく。  というよりもむしろ、なんでこんな展開になっているのかはオレも今一つ理解できていなかった。 「玲くんのヘタレっぷりは知っていたけれど、加藤さんのフラットさは想像以上だったわね。どうしてこんな女の子に玲くんがなびいているのか、全然理解が出来ないわ」  大学の講義室のような部屋の造りをしている視聴覚室の真ん中あたりに席を陣取り、全長10メートルほどはあるだろう長机に頬杖をつきながら悪態をついているのは、1つ上の先輩である桐ヶ谷美鈴先輩だった。  美鈴先輩はプロのピアニストとして活躍しており、その名前は日本はおろか世界の音楽家たちの間では知らない者はいないほどの有名人だった。10代にして世界中のコンクールを総ナメにしており、将来を有望視されているピアニストの1人だった。  うちのサークルには、様々な理由があって加入してもらっている。まあ、そこら辺の経緯についてはそのうちゆっくりと説明するとしよう。  プロの世界の第一線で活躍しているからという理由は語弊なのかもしれないが、美鈴先輩の性格は非常に変わった人物である。同級生である3年生たちと話していることを見たことはほとんどないし、教師たちもその存在には驚きというよりは若干の……いや、かなりの恐怖を抱いているようだった。まあ、そこら辺の事情もそのうち(以下同文)。  冷静沈着で他者を寄せ付けない雰囲気を持っているため誤解されやすいようだが、後輩のオレとは普通(?)に接してくれている。まあ、そこら辺の(以下同文)。 「あの~、美鈴先輩。ここに来るなりいきなりプロットを渡されて、理由も教えられずに演じている我々に対して、その言い分はどうかと思いますが」 「そういうことじゃなくて、何であんたの妄想シナリオがこうして目の前で展開されているのかを聞いているのよあたしは!? だいたい、こんなのラノベの創作活動に何の意味も成していないじゃない!」
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