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当たり前の日常が、突然奪われる怖さは経験してみないと分からない。
「杏南、看板を出してくれ」
「はーい」
私は厨房でパンを焼く父に言われ、店の外に立て看板を出した。
「貴方が小泉杏南(コイズミアンナ)さんですか?」
長身で黒いスーツにサングラス姿の若い男性が私に話し掛けて来た。
「そうですけど・・・店の開店は十時からですので、もうしばらくお待ちください」
「私は店に用はありません。貴方に用があります。
俊吾様の邸宅に私と来てください」
「俊吾様??その方は誰ですか??」
彼は私の質問に全く答えなかった。
「いいから、この私と来てください」
強引に私の手を掴んだ。
私が中に居る父達に助けを呼ぼうとすると彼は口許に白い布を押し当てた。
鼻の奥をつくツンとした薬品の匂い。
私はそのまま意識を失った。
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