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大学三年生になったある日、その日はずっと空を見上げていた。
三年間付き合った恋人と別れた日だった。別れたというより一方的に捨てられたという方が真実で、私は息をするのもやっとなくらい体力的にも精神的にも追い詰められていた。短絡的に死ぬ事を漠然と考える。今の世界にもう飽きてしまったなんて、真剣にそんな事を思い始める。
恋人との別れより、その人から浴びせられた言葉が私を苦しめた。完全なる人格否定。もともと情緒が不安定な私にとって、その言葉は死ぬことへの入り口となってしまった。
その時、ふと祖父の写真の顔が頭に浮かぶ。言い方を変えれば私の顔といっても過言じゃない。私にそっくりな祖父は、何があって死を選んだのだろう。
その日はどんよりとした灰色の空だった。夕方になり私は大学の一番高い校舎の屋上へ上る。祖父を感じたかった。三日月を待ち続けた。月なんて出るはずないどす黒い夜の空は、希望の光なんか与えてくれなかった。
死にたいと思う気持ちは、きっと私の中に祖父が存在するからだと、自分に何度も言い聞かせた。屋上の隅っこで私は祖父じゃないと何度も叫んだ。死を身近に感じちゃいけない。死を受け入れちゃいけない。自分の胸に手を当てて必死に息を整えて、私は階段を駆け下りた。
死んじゃいけない…
まともな誰かに背中を押される、そんな変な感覚を覚えながら。
その頃は、そんな風に死ぬ事ばかりを考えていた。でも、死にきれない。いつもぎりぎりのところで誰かが邪魔をした。その誰かとは、私の中に存在する生への執着なのかもしれないけど。
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