レッスン5

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 尾田君が歩調を合わせて歩いてくれたので、紗々の最寄り駅から一駅電車に乗り、無理することなくいきつけのホルモン屋に到着した。『ヤマギシ』と暖簾が出ていて、路地中にある小さな店で何時も常連客で賑わっている。  人気だから何時もは待ちがあるけれど、食事時間のピークは越えているから並ばずに入れた。ラッキーね。  この時間になると、お腹を満たすよりも飲みながらつまむ人が多い。赤い顔したサラリーマンがコの字型のカウンターを囲うように座っている。オープンキッチンというかカウンターに面した席が十席、二人掛けの狭いテーブル席が四席ある。私と小晴は何時もカウンターに座る。丁度仕事帰りのカップルと思しき二人の隣が空いていたので、そこに座る事にした。腰を下ろし、生ビールを二つ注文した。  ちらりと隣のカップルを見ると、爽やかそうな二人だった。ホルモン屋には珍しい。女性は最低でもアラフォーくらいからの年齢しか店に来ているのを見た事が無い。珍しいなと思っていると、ベージュのスーツを着た女性の方が生ビールを豪快に飲み始めたの。気持ちのいい飲みっぷりね。ビールが来たら隣で私も飲むわよ! 「はー、美味しいー! 最っ高―」  ぷるっとした艶やかで大きな唇にオレンジのルージュが引かれていて、その大きな口が焼きたてのホルモンを飲み込んだ。 「ううーん、最高―! ほっぺた落ちるーぅ。ホルモン大好きぃー」  女性がホルモンを美味しそうに食べている。気持ちいいくらいの食べっぷりだ。綺麗な女性なのに珍しいわね。
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