レッスン5

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  「いや、今断ったし。付き合うつもりないよ。だって付き合って上手く行かなくなったら、気まずくなってヤマギシのホルモン食べられなくなるの嫌だもん」  尾田君は目を丸くした。その後、ぷっ、と噴き出した。「ははっ、諏訪さん面白い」  今のって笑う所? 尾田君のツボは良く解らないわ。  でも、屈託のない可愛い笑顔ね。お茶目な一面とか、そういうのを見ると尾田君がただ顔だけでモテるのではなく、雰囲気とかそういうのも含めて魅力的なんだなと思った。 「豪はホルモンに負けちゃったワケですね」 「だって・・・・男よりホルモンの方が大事でしょ」 「あはは。諏訪さんは確かに豪の言う通り手ごわそうだ。貴女を口説く男がいたら、お目にかかりたいものですね」 「そうね。現れてくれることを願っているわ。これでも結婚は早くしたいのよ。年だし親がウルさいから。四十歳になってもまだ一人だったら、お見合い結婚するわ」 「お見合い結婚ですか。まあ・・・・いい出会いがあればいいですけどね。ただそういった面に限っては、自分は楽ですね。親が離婚して俺は父についたんですけど、父も一人の方が都合いいらしいし、俺にそういった事も強要しません。離れて暮らしていますし、お互い独身を謳歌しています」 「根っからの遊び人なのね」 「そんな事はありませんよ。俺だって淋しい時はあります」 「へえ、どんな時?」 「美人が隣にいるのに、全く相手してもらえない時――とか」  真剣に覗き込まれた。ドキン、と心臓が高鳴る。 「や、やあねえっ、年上をからかいすぎよっ。もう」  ぱっと目を逸らして、慌ててビールを流し込んだ。  ・・・・この会話、今でもよく覚えているわ。  貴女を口説く男がいたら、お目にかかりたいものですね――まさかこの男にしつこく口説かれることになるなんて、この時の私はまだ知らなかった。  だってこんな年上のオバサンが、事もあろうに七つも年下のスパダリ男に追いかけられるなんて、想像できるわけないじゃない――  
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