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それから私と彼は週に一度の演奏日に会うようになった。
そして演奏が終わったら一緒に夜ご飯を食べるようにもなっていた。
「結衣、いつものでいい?」
「はい!樹は相変わらず大人な珈琲なんですね笑」
「いや、これでも26だよ? 苦い珈琲が美味しいし?…あっ絶対今おじさんって思ったでしょ!!」
以前と比べて、少し彼に慣れた気がしていた。
慣れたというよりも、一緒にいたら落ち着く人になっている。
これから先の就職についてとか、勉強、沢山教えて貰っているからかもしれない。
今日も色々と助言してもらっていた。
帰り道、今日は雲りだったから星空は残念ながら見れなかった。
少し寂しい気持ちでいたら、彼が私の頭を撫でてくれた。
「星空見れなかったね。こういう日もあるから次見れた時に綺麗って思えるんだよ。」
「そうですね…。来てくださってありがとうございました。また来てください。」
そう言って家に入ろうとドアノブを持ってひねろうとしたら、樹の手が私の手の上に重なっていた。
「…あのさ。もう少しでいいから、一緒にいない?」
「えっ!?」
「いや、別に嫌ならいいんだけど…。」
「いえ!全然大丈夫です!」
驚いた。初めてあった時も少し驚いたけど、異性の方に触れられることなんて初めてだし、考えていたことが全て吹っ飛んだ気分だった。
私達は家から近くにある公園のベンチに座っていた。
樹が「寒いから」と言ってミルク入りの缶コーヒーを買ってきてくれた。
ふと樹を見ると、ずっと下を向いていた。
「あの…なにかあったんですか??話なら聞きます。」
「いや、違うんだ。」
「え?じゃあなん…」
「結衣、好きです。」
驚いた。今回の驚きはただ事じゃない。
あんな優しくて綺麗な樹からそんな言葉を言われるなんて思ってもいなかった。
「僕さ。結衣と初めて出会った時、これまでの苦しみや悲しみが全て消え去ったきがした。その日からずっと結衣のことしか考えてなかった。…僕と付き合ってください。」
私は俯いた。 直ぐには答えを出せなかった。
初めて出会った時の星空が頭を過ぎる。
あの日に感じたあの苦しみは何なのか。
彼の心に何を隠しているのか。
彼と過ごしていく中でその真実が分かるかもしれない。
でも、わかる事が怖い。
わかった瞬間にもう樹はいないんじゃないか。って。
「ごめんなさい…一日だけ…時間をください…。」
「あぁああそうだよね!ごめん!じゃあ家まで送るから!」
私はそう言って、家まで送ってもらい、直ぐにベッドに飛び込んだ。
答えが出せない。
好きって自分でも分かっているのに直ぐに言えなかった。
残された時間はあと一日。
雲から一つ輝いた星がうっすらと見えていた気がした。
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