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外部発注。
寝起きらしいボサボサ髪の若者が、広やかだが見回せる限り360度すべて太いリベットで止められた、分厚い鋼鉄の部屋に閉じ込められている。
部屋の壁の中央には、輝る陽の中に梅の花があしらわれた国章と、下に錨と梅花の象徴が付き従う芙蓉皇国海軍の正式な紋章が彩られている。
そして同じ梅花と錨の刺繍が縁に施された、横長の真っ白いテーブルクロスがシワひとつなくピッシリ端を揃えて掛けられている、重厚な耐水性をもつ高級木材のチークで出来た長テーブルと、数えたところ十四脚の、これまた丁寧で微細な梅花細工が施されたのチーク製の椅子がおかれ、その一脚に件の青年が自分の置かれた立場がよく理解できてない風情で欠伸をしつつ、なんだかなー‥‥としきりにボヤキながらボサボサ頭や背中をしきりに掻き掻き腰かけていた。
彼が連れ込まれたのは当時、世界でも有数の巨大な軍艦の長官公室。
だがそんな部屋の中で青年は、尻と頭から掻く手を背中に回して盛大に掻き掻き、ついには椅子を三つ並べて横になって眠り転けてしまった。
しばらくして、
「お待たせしたかな」
バカン!
と、部屋の出入り口である鉄扉が開き、背の高い恰幅のよい海軍中将が高位の部下を幾人か引き連れ現れた。
「うーん。君ねぇ。栄えある第一艦隊司令長官の席で気分よく寝ないでくれるかな」
一瞬、青年を蹴るために振りあげた右足をゆっくり下ろし、スヤスヤしている青年のほっぺをペチペチ叩き、髪をひっぱって、この世の天国にでもいる感じで寝入ってる青年を半ば遊び楽しみながら起こしにかかった。
「ああ中将。お久しぶりですねぇ~♪こんな豪気な部屋になにか御用事ですか?」
中将のしつこい揺さぶり起こしに、ようやくボヤッとした眼を薄ら開けた青年は、ふやっとした物腰と言い回しで上半身を起こしてトボケてみせた。
「ここちみの部屋じゃないからね。いいからそこどいて、どいて椅子を片付けたらこれに着替えてくれるかな」
とん。
中将が青年の前のテーブルに置いたのは、ナニやら荷物で膨らんだ唐草模様の風呂敷包がひとつ。
「あのぅ~これは?」
しかし艦隊司令長官ではない中将は答えず、長官席ともども青年の寝床にされていた自分の椅子を部下の准将から差し出された手拭いで拭き、拭き終わるとドッカと腰を下ろしながらこう言った。
「いいから早く着替えてね。ちみがそれじゃ依頼したい仕事の話も出来ないし、なにより風邪ひくよ?」
そう云われた青年は今更ながら自分の服装を確認する。
彼が着ていたのは、継ぎ接ぎだらけ袖の衣も解れた粗末すぎる寝間着一枚だけだったのだ。
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